1年7カ月後に迫った2020年東京五輪では、選手ら大会関係者の円滑な移動と大都市の物流活動をどう両立するかが課題となっている。東京都や大会組織委員会は交通渋滞対策として期間中の交通量を抑制したい考えだが、競技会場が多い臨海部は物流の拠点で対応に悩む運送会社も少なくない。会場周辺住民からも渋滞の発生を心配する声が上がっている。
「協力したいがどうしたらいいか分からない」「車を車庫から出せなければ何もできない」。昨年11月下旬、東京都トラック協会深川支部(江東区)の理事会。運送会社の経営者らは東京五輪の影響について次々と不安を口にした。期間中は大会関係者の移動とトラックの出庫のピークが重なると懸念されている。
水泳やテニスなどの競技会場が集まる臨海部は物流拠点で大型トラックが集まる。大型車約80台を持つ運送会社の拠点は、約2万6千人のメディア関係者が出入りする東京ビッグサイト(江東区有明)近くの区画にある。同社幹部は「大型車が通れる道路はビッグサイトの脇の1本しかないので、期間中はどうなってしまうのか」と話す。
住民らも混雑を警戒する。江東区の豊洲地区はタワーマンションの建設が続き、昨年10月には移転した豊洲市場も開場して人出が増えている。同地区で働くシステムエンジニアの男性(41)は「会場周辺の企業が工夫をしないと交通網がパンクする」。近くの主婦(70)は「バスの本数を増やして地元住民の足も確保してほしい」と訴える。
交通渋滞の発生が懸念される背景には、渋滞が発生しやすい場所に競技会場が分散していることに加え、築地市場(中央区)の豊洲市場への移転が2年遅れたことが影響している。
都は当初、築地市場の跡地に地下トンネルを通し、大会までに都心部と臨海部を結ぶ「環状2号線」を全線開通させる方針だった。しかし、築地市場の移転延期に伴い着工が遅れ、暫定開通となり、地下トンネルを含む全線開通は大会後の22年度にずれ込んだ。
このため大会関係者の輸送は主に首都高速道路が担うことに。都や大会組織委の期間中の渋滞予測によると、何も対策をしない場合は首都高や周辺道路は激しい渋滞が起こるという。
都は「大会成功の鍵は円滑な輸送にかかっている」として企業向けの説明会を開き、交通量の「15%削減」に向けて期間中の配送時間や配送ルートの変更などの協力を求めている。ただ、荷主側に対して弱い立場にあったり人手不足で時間やルートの変更などをしにくい運送会社も少なくない。都の担当者は「運送会社だけではなく、荷主側の会社にも交通量の抑制に向けて働きかけたい」と話している。
[日本経済新聞朝刊2018年12月25日付]