「水連菜」に「麦レタス」 おいしい!台湾の新顔青菜
中華料理の店で最も人気がある料理の一つは、青菜料理といっていい。一口に中華といっても、中国各地から台湾、シンガポールまでその内容はバラエティーに富むが、どんな店に行っても空芯菜や豆苗のいため物といった野菜料理をオーダーする人は多いのではないだろうか。そうした中、青菜のニューフェースとして注目を浴びそうな野菜がある。台湾原産の野菜だ。
「見たことのない野菜だ」
東京・有楽町の中華料理店「パラダイス ダイナシティ銀座」の料理長を務める金子優貴さんは2018年5月、台湾にいた。同店は、アジア7カ国で飲食店を複数ブランドで50店舗以上展開するシンガポールの企業パラダイスグループの系列店。金子さんは台北の「パラダイス ダイナシティ」に研修のため訪れたのだ。秋以降に向けた新メニューの案を練るための出張でもあった。「パラダイス ダイナシティ」は各国の店のメニューが同一ではなく、一部現地の食材や好みに合わせたメニューを提供しているからだ。
厨房でスタッフが洗っている見知らぬ野菜に目を留め、「これ、なんていうの?」と現地のシェフに聞くと「水連菜(すいれんさい)」という名前が返ってきた。台湾の地場野菜だ。同地ではスーパーや市場でもよく見かける野菜だという。長さが1メートルほどもある細い茎で、調理前は針金のようにぐるぐると巻いてまとめてある。可食部ではない葉が水連の葉に似ているため、この名前が付いたらしい。
「空芯菜みたいな野菜かな」と思って口にすると、想像とはまるで異なる強いシャキシャキ感があった。面白い。すぐに「これは日本でも使ってみたいな」と思ったという。刻みニンニクと一緒にいため、最後に揚げニンニクを上からかける。味付けは、砂糖を合わせた塩だれだ。「台北の夜市の食堂でも、薄切りにしたニンニクと一緒にいためた料理が出てきました。アクがなく、味にくせがない野菜なので、こうした調理法が合うんです」(金子さん)。
新メニューとして水連菜のニンニクいためを導入した「パラダイス ダイナシティ銀座」では、この一品料理だけでなく料理の付け合わせとしても水連菜を取り入れる。コース料理の低温調理の手法を用いたステーキに付け合わせたのだ。茎を長めに切り調理したものをぐるぐると巻いて料理に添える。「お食事の後にお客様に話を伺うと、ステーキの感想が聞きたいのに水連菜の感想が多いんです。『この付け合わせおいしいね。なんという野菜なの』などとよく聞かれます」と金子さんは苦笑する。
ニンニクいためを食べてみた。細い茎から一見軟らかな歯ざわりを想像するのだが、一口かむと、しっかりとした強い食感が訪れる。シャキッ、シャキッ、とかむ音が聞こえるようだ。ほかの青菜にはない個性があり、「また、あれが食べたい」と思わせる野菜だ。
さて、同店が取り入れた台湾野菜は水連菜だけではない。金子さんは、台湾でA菜(エーツァイ)の名で親しまれる、和名を麦レタスという野菜を使ったメニューも新しくラインアップした。和名の通り、麦のような香ばしさと、火を通してもシャッキリとした食感が失われない茎が特徴的な野菜だ。
老舗「聘珍樓」や高級ホテルで広東料理を手掛けてきた金子さん。「中国でも『油麦菜(ユーマイツァイ)』という名前で使われ、香港の屋台料理でもよく見かけます。その名の通り油と相性がいいんです。おいしく仕上げるには少量の油で食感がなくならないようさっといためる。強い火を使うことで野菜が持つ香りも出るんですよ」。味付けは水連菜と同様の塩だれだが、独特の香りとレタスらしい爽やかさがあり、全く別の味わいになる。
珍しいのは、この麦レタスを使った「サラダ」。いった白ゴマとしょうゆ、酢などを合わせたドレッシングをつけ、生でこの野菜を食べるものだ。シンガポールの「パラダイス ダイナシティ」に近年に登場したメニューだという。「中華料理でサラダを見たのはこれが初めて。正直、麦レタスは火を通して食べるのがおいしいので、最初はどうかなと思っていたんですが、シンガポールでは評判がいいよと薦められたんです。蓋を開けてみたら、日本のお客様からも注文が多いので驚きました」(金子さん)。
麦レタスをロール状にしてうす切りキュウリを巻いたこの料理。単純なようだが、油をよく使う中華料理の口直しにちょうどよく、その香りも食欲をそそる。
「パラダイス ダイナシティ」は伝統的な中華だけでなく、看板メニューであるフォアグラや黒トリュフなどを使った「8色小龍包」のように創作中華が料理の持ち味。麦レタスのサラダも、現代のヘルシー志向に合った定番料理となっていくかもしれない。
(フリーライター メレンダ千春)
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