――産業界の利用を増やす上での注意点は。

「産業界ではスパコンを利用して利益を得られて初めて成果が出たことになります。国がスパコン開発を進める際には、産業界の利益を生むかどうかを見極めなければなりません。米国のスパコン開発は国防が主な目的で、産業利用は『2次利用』といえます。日本の場合、スパコンを活用できる分野は医療・創薬、防災・減災、産業利用・ものづくり、エネルギー、宇宙・科学と多岐にわたります。社会的、科学的に重要な課題の解決がスパコン開発の使命であり、産業利用は重要な柱の一つです。スパコンを開発する段階から産業界の意見を取り入れています。『京』の無償利用の約15%が産業利用です」

「スパコン事業の成否を判断するメジャーは必要です。いくらの投資をして、何ができれば良いのか。国が直接、利益を得るわけではありません。それによって産業利用が進んだり、新薬が開発されたりすることで税収が増えるかもしれませんが、把握するのは困難です。東京大学生産技術研究所はスパコンの産業利用上の価値を評価するシステムの開発に取り組んでいます」

――「ポスト京」には何を期待しますか。

「設計をするのに実験をしなくても済む、創薬の期間を短縮する、ゲリラ豪雨を予測して減災する、宇宙の根源を明らかにする、といった様々なニーズに応えるには、『京』では不十分です。『京』で何かが明らかになると、さらに上のレベルで解明したいというニーズが生まれます。例えば、ある薬が生命体にポジティブな影響を与えるかどうかを調べようとすると、分子や原子のレベルまで分析しないと解明できません。すべての世界で、なるべく基礎的なレベルから現象を精緻に解明しようとすると、膨大なデータ処理が必要になり、スパコンの助けが欠かせません。ここ数年、人工知能(AI)の活用が潮流になっています。色々なデータを解析することでルールや法則を見つけて応用するのですが、解析するデータの作成にスパコンを利用する動きが広がっています。『ポスト京』の産業利用も進むでしょう」

「スパコンが色々な分野で普及すれば、トータルでの技術力アップにつながります。『普及』というキーワードが極めて大事です。ただ、具体的な成果が見えないと、なかなか普及はしません。誰かが頑張り、無理をしてでもスパコンを使えばこんなことができると成功事例を示し、スパコンの認知度を上げていくしかありません」

(編集委員 前田裕之)

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