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「抵抗するアイドル」欅坂46はリアルだ(川谷絵音) ヒットの理由がありあまる(6)

日経エンタテインメント!

2019/1/11

さて、連載の第6回目です。今回は初のアイドルをということで、2018年のアイドルソングの中でも僕の記憶に残った1曲を。年間シングルCDランキングでも7位に入った、欅坂46の『アンビバレント』です。

『アンビバレント』(欅坂46)

まず欅坂46の曲の魅力は女子的なかわいさではなく、かっこいい女性を打ち出しているところだ。AKB48や乃木坂46はアイドル然としたアイドルであるが、欅坂46は違う。アイドルに熱狂する文化や時代が今や普遍的なものとなり、それに“抵抗するアイドル”として生まれたのだ。一見矛盾しているようなこのロック感が、欅坂46の新しさだ。

『アンビバレント』はメロディーのキーが低い。高いかわいい声ではなく、低いキーで力強く歌われている。アイドルといえば高いキーなわけだが、欅坂46の曲は男性でも歌える。アイドルソングのサビの最後は上がって終わるのが定番だが、『アンビバレント』は一番低い音でサビが終わる(例えば「だけど一人じゃ生きられない」の「い」の部分)。これによって本当に救いがなく「生きられない」と強く頭に残る。この後味の悪さが欅坂46の魅力だ。なぜか頭に残ってしまうのだ。ここでいう頭に残るは、サビがキャッチーで1回で覚えられるという意味での“残る”ではない。何か普通とは違う、得体の知れないものに対する僕らの抗体のなさにより、メロディーが頭を侵食することで“残った”のだ。

この良い意味での後味の悪さを体現しているのがセンターの平手友梨奈さんであり、彼女の危うい存在感こそが曲の魅力につながっている。僕はどうしても彼女を山口百恵さんに重ねてしまう。この圧倒的な存在感。若者が憧れるカリスマ感。僕が10代だったら目が覚めるような体験だったかもしれない。アンビバレントは「相反する感情を同時に抱く」という意味だが、アイドルなのにアイドルではない欅坂46自身を歌っている曲名だ。

このあたりのシンクロ感は秋元さんさすがだなぁと思う。今や音楽を売るためには、ただ良い曲を作ればいいという時代ではない。いかにバズを生み出せるか。これに尽きる。これを聴いていないとマズイんじゃないかと思わせたものが勝ちなのだ。欅坂46は丁寧にバズの地盤をテレビ番組で固め、AKB48グループという秋元さん自らが生み出したものに対するライバルとして世に出た。自分で抵抗勢力を生み出した例ってほとんどない気がしていて、秋元さんのすごさはその一見矛盾するようなことを平気でやってのけるところだ。

曲に話を戻すが、この連載で毎回書いている「畳み掛けの法則」(※)は『アンビバレント』にも使われている。冒頭から「Ambivalent about」のリフレイン、すぐさまサビが始まり、ラップ調のAメロに変わる。そしてBメロで高揚感のあるメロディーに変わり、またすぐサビに切り替わる。間奏もなくAメロラップが繰り返され、2番サビへ。サビ後にはみんなで歌う合唱パートが現れ、そのあとギターソロが来て「間奏か?」と思わせるが、ギターソロの裏で1、2番のサビ後半で繰り返されていた「Blah blah」の部分が出てきて、息つく暇も与えないのだ。

そこからCメロになだれ込むのだが、この曲の一番良い部分はこのCメロ。「願望は二律背反/押し付けの理性なんて信じない」という一番ロックでレジスタンス的な歌詞と複雑なメロディーが、リスナーを一瞬別の世界に追いやるのだ。ここが一番グッとくる。そう思っているとサビが現れて一気に最後まで駆け抜ける。気がつくと決して短くはない4分34秒が過ぎているのだ。曲のスピード感も相まって、畳み掛けの中の畳み掛けと言える。最後の歌詞に「どうすればいいんだ? この夏」とあるが、解決策が見当たらないところがまたリアルだ。だってどうすればいいかなんて分からないじゃないか。だからこそ胸に響く曲になる。欅坂46はリアルだ。

※川谷が最近のヒットに共通する特徴の1つだと考える、間髪入れずまくしたてるように歌うことで聴く人を圧倒する曲調のこと

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。先日indigo la Endは、5月から全8公演のツアーと、ファンクラブの開設を発表した。

[日経エンタテインメント! 2019年1月号の記事を再構成]

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