酒類・飲料メーカー(下) 過酷な新製品サバイバル、海外進出も
学生のための業界ガイド2017(7)
「日経カレッジカフェ」では皆さんの就職活動の参考になるように、業界研究を連載しています。主に酒類メーカーを紹介した前回に続き、今回は飲料メーカーを紹介します。
飲料は「センミツ」?
非アルコールの飲料市場はどうでしょうか。中心となる清涼飲料の国内市場規模は約4兆円といわれ、猛暑になると販売は伸びますが、中長期的には大きな伸びは期待できない成熟市場です。半面、新製品はパッケージのデザイン変更も含めると年間2000を数えるほどで、食品では最も多い分野です。ただし、コンビニやスーパーの限られた棚を定番商品も含めて争うため、「センミツ」(1000の新製品中、ヒットするのはせいぜい3つ)といわれるほどのサバイバル競争を繰り広げています。それだけヒットを生むのは難しい市場です。
飲料トップはコカ・コーラグループ。グループ全体の売上高は非公表ですが、販売数量は5億100万ケースで、国内清涼飲料市場の27%を占めています。飲料の主力販売チャネルである自動販売機の数でも首位です。同グループの形態は他の飲料メーカーとはかなり違います。看板商品の「コカ・コーラ」は米コカ・コーラ本社100%出資の日本コカ・コーラが原液を供給し、それをもとに地域ごとにあるボトラーが製品を生産・販売するコカ・コーラシステムと呼ばれる体制をとっています。日本コカ・コーラは他に製品の企画開発や広告などマーケティングを行っています。缶コーヒーの「ジョージア」、茶飲料の「爽健美茶」など日本市場専用商品も多数あり、売り上げ構成比では炭酸飲料を大きく上回っています。
ボトラーの再編進めるコカ・コーラ
最近では、生産・物流の合理化などを狙ってボトラーの再編が進んでいます。各ボトラーは独立企業で、日本コカ・コーラとフランチャイズ契約を結んでいます。10社以上のボトラーがありましたが、2015年に関東・東海の4社が合併してコカ・コーライーストジャパンが誕生、西日本で展開するコカ・コーラウエストも同年までに九州と四国のボトラーを買収しました。さらにこの東西ボトラーは17年4月に経営統合し、国内のコカ製品の約9割を販売するコカ・コーラボトラーズジャパンが誕生する予定です。(上)で述べたコカ・コーラとキリンの提携は、この新会社とキリンビバレッジにそれぞれのグループが出資するという形になりそうです。
飲料2位はサントリーHD傘下のサントリー食品インターナショナル(15年度連結売上高1兆3810億円)。15年には日本たばこ産業(JT)の自販機事業を約1500億円で買収し、自販機ルートを強化しました。3位はアサヒグループHD系のアサヒ飲料(同4750億円)で、缶コーヒーの「ワンダ」や茶飲料の「十六茶」が主力商品です。こちらも16年にカルピスを経営統合しました。
伊藤園はダイドーと自販機商品を相互供給
4位は飲料専業の伊藤園(同4655億円)。「お~いお茶」が有名ですね。技術的に難しいといわれた缶入り緑茶の製品化に成功し、無糖飲料としてのジャンルを築きました。他社に先駆けてウーロン茶を発売し、ブームを巻き起こしたことでも知られています。野菜飲料もカゴメに注ぐシェア第2位です。ちなみに、コーヒー店のタリーズコーヒージャパンやヨーグルトメーカーのチチヤスもグループ企業です。5位のキリンビバレッジ(同3720億円)は今年、緑茶の「生茶」を全面リニューアルし、ヒットさせました。4月には缶コーヒーに強いダイドードリンコと、自販機向け商品の相互供給に乗り出しました。
量販店向け営業が重要性増す
それでは酒類・飲料業界にはどんな仕事があるのでしょうか。人員的に最もウエートが高いのはやはり営業職です。特にビールメーカーでは営業力の強弱がその時のシェアに如実に表れていました。営業先は酒類・食品卸が多いですが、スーパーやコンビニなど量販店が大きな力をもっているジャンルなので、量販店向けの営業には卸の担当者と同行することも多いようです。酒類では料飲店と呼ばれる業務用向けの営業も重要です。いずれにせよ、新製品の特徴や他製品との違い、POSデータに基づく販売動向などの情報を的確に伝えて説得力のある営業を行うのがポイントです。
マーケティングも人気職種
商品企画やマーケティングは人気のある職種です。定番商品のビールや清涼飲料ならともかく、一般的には他業界に比べ商品数が多く、製品寿命も短いのが酒類・飲料業界の特徴です。その分、新製品開発や商品リニューアルが重要になります。リサーチ・分析力、発想力、関連分野との調整に必要なコミュニケーション力など多岐にわたる能力が求められるでしょう。営業現場で一定年数の経験を積んでから、適性を見た上で配属されるケースが多いようです。
メーカーなので研究・開発・生産部門も重要です。理系出身者が大半ですが、工場の管理部門などには文系出身者も配属されます。工場は大半が地方にあるものの、ビールでは大消費地の比較的近郊に立地しています。研究部門では基礎研究、衛生管理技術、新製品開発などを担います。
このほか、消費者向け商品を扱うので、広告宣伝部門やお客様相談センターなども充実しています。クレーム対応も重要な業務ですね。これまでは国内事業が大半でしたが、最近は海外メーカーを傘下に収めたり、海外市場の開拓に熱心だったりする企業が増えてきたので、海外志向の人にも活躍の舞台が広がってきました。
気になる給与水準ですが、ビール業界では40代前半の総合職で年収900万~1000万円、飲料大手はやや低く700万~800万円とみられます。
(若林宏)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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