日大アメフト騒動から謝罪スキルを考えるホンネの就活ツッコミ論(63)

石渡嶺司 大学ジャーナリスト

石渡嶺司 大学ジャーナリスト

今回のテーマは「謝罪スキル」です。日大アメフト騒動は元は試合中の反則、そして反則行為の指示の有無が問題でした。それが途中から日大の体質が問われるようになり、気づけば日大の経営体制まで問われるように変化しています。

私も当初は反則がひどい、とニュースを見ていたのですが、5月下旬ごろからニュース・ワイドショーの出演依頼が殺到。出演するたびに「大学ジャーナリストなんて肩書、初めて知った」などなどTwitterに書かれています。まあ、そうだろうな、とわかっていながらエゴサーチするのは他でもない私なのですが。

この日大アメフト騒動で注目されたのが危機管理です。当の日大は危機管理学部を新設していながら危機管理ができなかった、と嘲笑されることになりました。

この危機管理の中でも注目したいのが謝罪スキルです。この謝罪スキル、就活はもちろんのこと、社会人生活でも重要です。そこで、今回は謝罪スキルについて日大騒動を振り返りながらまとめてみました。

最大限の条件提示、状況説明をした宮川選手

日大アメフト騒動において日大の内田前監督、大塚学長などの会見は、謝罪こそしているものの、回答になっているようで回答になっていません。もやもやした感じだけが残り、事情を知らない人はいら立ちを感じ、そして不誠実と感じます。これが騒動を長期化させている一因です。

一方、試合で反則をしてしまった宮川選手の記者会見は誠実、かつ丁寧との評価が一般的です。なぜ、同じ謝罪でここまで評価が分かれてしまうのでしょうか。

大きな違いは誠意です。

ここでいう誠意とは、迅速さ、状況説明、条件提示の3点。迅速さ、という点では宮川選手会見は試合から16日後の5月22日。内田前監督・井上前コーチは17日後の5月23日に、それぞれ記者会見をしています。内田前監督は13日後の19日に関西学院大学に出向き直接謝罪、空港での記者会見にも応じました。

宮川選手、内田前監督とも迅速に謝罪できたか、と言えばそうではありません。しかし、誠意を示す残り2点(状況説明、条件提示)は大きく異なります。

宮川選手会見は、冒頭で謝罪。状況については、時系列順に丁寧に説明。どんなやり取りが前監督・前コーチなどと合ったか初めて明らかにしました。さらに「僕にフットボールをする資格はないし、今後もするつもりはない」と断言します。最後にもう一度謝罪をしたうえで、マスコミの質問を受け付けていました。

まとめますと、「謝罪→状況説明→条件提示(フットボールをする資格はない)→謝罪」となります。全日本代表にまで選出された宮川選手が「僕にフットボールをする資格はないし、今後もするつもりはない」と断言するのは、なかなかできることではありません。それを断言したのは、宮川選手ができる最大限の誠意の示し方、つまり条件提示です。

それと条件提示、という点で言えば、成年とは言え、名前、顔を全て出したうえでの記者会見、というのも大きなポイントです。私は当初、顔は隠した状態での記者会見と考えていましたし、これはマスコミの大半もそう予測していました。

ところが宮川選手は顔も名前も明らかにします。冒頭では「顔を出さない謝罪はない」とまで言い切ります。これも宮川選手のできる最大限の条件提示だった、と言えるでしょう。

条件提示が小出し、説明も不十分な内田前監督

一方、内田前監督・井上前コーチの記者会見(5月23日)はどうでしょうか。冒頭で謝罪こそしていますが、その後、状況説明はないまま質疑応答に移ります。そこでマスコミはそれぞれの場面で何があったかを質問していきますが、仕切りの悪さもあり、質疑が円滑に進んだとは言えません。

しかも、内田前監督・井上前コーチの回答は、まとめると、「反則指示はしていない。宮川選手が誤解した。だけどコミュニケーション不足でごめんなさい」というものでした。つまり責任転嫁です。

ただでさえ、前日の宮川選手会見でマスコミの大半は宮川選手に同情、内田前監督・井上前コーチの指示を疑っていました。それが状況説明が不十分なまま責任転嫁をしてしまいます。これではマスコミ側も納得できるわけがありません。

日大広報部の司会者の仕切りの悪さ、あるいは激高した、というのも論外ですが、それはさておき。状況説明が不十分なまま記者会見は終わり、これが騒動の長期化を招いてしまいます。

さらに条件提示、という点でも内田前監督は失敗しています。試合後、マスコミで報じられるようになると、当初に出した条件は「8月末までの自粛」でした。さらに騒動が大きくなるとアメフト部監督の辞任。5月23日の記者会見では「常務理事の一時停止、第三者委員会による裁定を待つ」となります。そして6月1日の理事会後、常務理事の辞任を発表します。

仮に、ですが内田前監督が試合後に反則指示を認めていれば、これは素早い処理であり、ここまで大ごとになりませんでした。ところが5月22日の宮川選手会見の前後から、内田前監督が常務理事や保健体育審議会事務局長、人事部長、株式会社日本大学事業部取締役という様々な役職を兼任していることが明らかになります。合わせて学内では理事長に次ぐナンバー2であることも知られるようになりました。こうなると、単に監督や常務理事を辞任するだけでは済まなくなります。

まとめると、条件提示という点ではできることを迅速にしない、そればかりか小出し小出しにしかしていません。そのため、誠意がない、と世論の怒りを買ってしまったのです。状況説明と条件提示、この2点で宮川選手より40歳も年上の内田前監督は失敗してしまいました。

余計なことを言わない、発信しないのも謝罪スキル

謝罪スキル、ということでは、余計なことを言わない、発信しない、という点にも注目です。

宮川選手会見では、マスコミ側が何とか内田前監督・井上前コーチへの恨み節を引き出そうと質問します。しかし、「僕がどうのこうの言える立場ではない。僕がやったことは事実」と自らの責任を強調し続けました。

一方、内田前監督会見では、責任転嫁だけでなく、余計な修辞が多々ありました。質疑応答で反則行為の指示の有無を聞かれると「信じてもらえないかもしれませんが」。謝罪会見では絶対に言うべきではありません。しかも、状況説明が不十分なため、より一層、不信感を招くことになりました。

余計なことを言う、発信する、という点ではその後の大塚学長会見も同様です。6月1日に理事会終了後、文部科学省・スポーツ庁に経緯を説明します。その後の記者会見では、関東学連の裁定(内田前監督・井上前コーチは除名、アメフト部は条件付きで出場停止)に対して「どうしてあそこまで(日大側の言い分を)否定されるのか」と不満をにじませます。文部科学省・スポーツ庁に対しても不満を漏らしました。

大塚学長は5月25日の記者会見でも、反則行為の指示の有無については第三者委員会に任せる、と強調していましたし、それは6月1日の記者会見でも同じです。

一方、関東学連は2週間強で選手、監督、コーチ、審判、観客などから聞き取り調査をしたうえで、客観的な証拠から「反則行為の指示はあった」「内田前監督・井上前コーチの証言は虚偽」と断じているのです。

第三者委員会に任せる、ということであれば不満を漏らすべきではありませんでした。どうしても反論したいのであれば、「宮川選手や他の選手などにも聞き取りしたが、××という話をしており~、そのため誤解していた」など関東学連を上回る客観的な状況証拠を積み上げる必要がありました。証拠もなしに不満を漏らすようでは、日に油を注ぐも同然です。

余計な情報発信をしたかどうか、という点でも宮川選手会見と内田前監督・大塚学長の会見とでは大きな差がありました。

騒動をヒトゴトではなく自分の危機管理に生かそう

多くの就活生にとって、これは日大生も含めてですが、このアメフト騒動はヒトゴトです。しかし、危機管理、そして謝罪スキル、という点では是非注目していただきたいところ。特に日大側の対応のまずさを悪い見本、他山の石として、今後に生かしてください。

人は神ならぬ生き物です。成功もすれば失敗もします。成功すれば、それはそれは簡単です。ほほ笑み、そして、その成功を噛みしめればいいのですから。

問題は失敗したとき。ここで人はどんな対応をするか、試されます。怒られたくない、失敗したと認めたくない、誰もがそう考えます。

しかし、失敗して謝罪が必要なときは謝罪するしかありません。そして、その謝罪には誠意、つまり、迅速さ、状況説明、条件提示の3点が求められます。もし、この3点いずれもが欠けると日大のように不誠実、とさらに事態を悪化させてしまいます。一方、宮川選手のように状況説明と条件提示が十分であれば、謝罪が受け入れられる可能性が高くなります。

なお、謝罪のスキルについて詳しく知りたい方は、その名も『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書、増沢隆太)という新書がお薦めです。日大会見こそ掲載されていませんが、過去の謝罪会見から謝罪をどうすればいいのか、丁寧にまとめられています。

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
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