合同説明会、明るく楽しくウソらしく
ホンネの就活ツッコミ論(1)
ナナメから見る石渡です
大学ジャーナリスト、という肩書で就活取材を10年以上続けている石渡嶺司です。今回から、こちら、日経カレッジカフェで連載させていただくことになりました。ちなみに、執筆陣の中では、「学生時の就活経験」「就職情報会社・企業採用担当・キャリアセンター職員など就職関連の職務経歴」「就職・キャリア関連の論文執筆」、全て該当しない書き手です。ドラクエなら「はぐれメタル」、ポケモンGOなら「フリーザー」並みのレアキャラです。
そんなのでよく就活関連の本や記事を書けるな、と思う方もいるでしょう。いや、取材はもう10年以上続いているので、ご安心を。詳しい話は省略しますが、大学・就活関連の本は26冊、刊行しています。まあ、他の執筆者の方と違い、経歴にとらわれない、斜めの視点であれこれ記事を書きます。こうご期待。
合同説明会、略して「合説」
さて、この記事が公開された3月1日は、ご存知、就活の広報解禁日。全国各地で合同説明会イベント、略して「合説」が開催されています。東京や大阪、福岡など主要都市での開催は、それぞれ数万人、もしくはそれ以上の参加が見込まれます。福岡開催であれば、鹿児島など九州一円の大学が観光バスを貸し切り、学生を送り込んできます。どの合説も、大混雑するわけですが、1回目となる今回は合説の裏事情をまとめてみました。
日用品・食品メーカーは採用以外が目的?
学生の思い込み:「大手企業の話を聞く貴重な機会」
ホンネのツッコミ:「大手企業によっては採用以外が目的も」
学生からすれば、合説で大手企業が出展していれば、話を聞く貴重な機会と考えることでしょう。夢を壊すようで申し訳ないのですが、大手企業は大半が合説から採用をがっちり進めようとは考えていません。せいぜい多少採用できればいいか、という程度です。
東京、名古屋、大阪、札幌、仙台、福岡の6会場にブースを出した大手企業があるとしましょうか。ブースに来た学生が1日で1会場あたり500人。これに主要大学の学内合説や3月2日以降の合説にもブースを出すわけです。ブース内の説明を聞いた学生は、どう少なく見ても5000人。1万人以上、超えていてもおかしくありません。
それでいて、採用者数は何人か、調べて計算してみてください。大手企業からすれば、合説が採用ではそれほど効率のいい手法ではないことがすぐわかります。合説に参加する大手企業は、採用以外の目的があるからこそ参加しています。日用品・食品メーカーやメディア系企業、旅行会社だと、自社商品・製品のPRが目的です。仮に1会場の参加者3万人、主要6都市の延べ人数が18万人だったとしましょう。その18万人(もしくはその一部)に「自社商品・製品をPRする機会」と考えれば、「効率いい」と言えます。
しかも、大手企業はブース出展料の負担が重いか、と言えばそんなことはありません。学生からすればわかりやすい大手企業が出展しているかどうか気になります。それは合説を運営する就職情報会社もよくわかっています。そこで、大手企業に対しては出展料を無料にするか、大幅に割り引くわけです。
就職情報会社は学生を集められて、良し。大手企業は採用以外の目的があるので、良し。学生は大手企業の話が聞けた、と思い込めて良し。近江商人の理念「三方良し」とはこのことです。心なしか、学生だけ損をしているような気もしますが、気のせいです。
大企業でもガラガラとなる最終回
学生の思い込み:「大手企業は人が多すぎ」
ホンネのツッコミ:「閉会間際は結構空いている」
大手企業には、私が余計なことを書かずとも、「人が多いし、行くだけムダ」と、あきらめる学生もいます。確かに参加学生で大混雑、それでいて採用以外を目的とする大手企業も少なくありません。では、全く行く価値がないか、と言えばそんなことはありません。
合説がきっかけで大手企業の内定までつながった学生もいます。大手企業からすれば、合説が全く無価値、というわけではないのです。さて、大手企業の説明をどうしても聞きたい、と考える学生はどうすればいいでしょうか。事前予約が必要ない企業ブースだと、閉会間近の説明に合わせていく、と意外と入れます。
17時終了とした場合、16時台の説明ターンは大手企業でも参加者数が意外と減ります。そこを狙っていくのはちょっと有効です。仮に説明ターンに参加できなくても、終了直後に行って、「どうしても話を聞きたかったのですが」などと言えば、パンフレットくらいはくれるでしょう。企業によっては、どうせ終了しているし学生も少ないから、と、説明ターンに参加しないと参加できない個別説明会をこっそり教えてくれることもあります。終了時刻の前にさっさと帰る学生がいますが、これはちょっともったいないですね。
閑古鳥鳴く優良企業
合説で注目したいのは知名度の低い優良企業です。世界シェアを持っているとか、何か特徴のある企業は堅実なビジネスを展開しており、安定しています。単純に財務内容・年収などを考えた場合、学生からすれば、「当たり」の企業が多々含まれます。もちろん、働きやすさとか、合う合わないなどは個人差があります。その一端を知る上でも合説は有効です。
ところが、優良企業と言っても知名度の低い企業のブースには学生がなかなか集まりません。学生からすれば、知らない企業でがら空きのブースには近寄りがたい、というのもあるでしょう。特に専門商社やメーカーで何か特徴あるところは、話くらい聞く価値はあります。合説に出展するには費用がかかります(数百万円くらい、軽く行きますよ!)。出展料を出せる、ということはそれだけ儲かっている、ということを意味するのですから。どういう企業が優良企業か、それは私の新刊『キレイゴトぬきの就活論』の巻末リストにある「日本人が知っておいてもいい企業300」などをご参考にしていただければ。
高年収のベンチャーは本当か
一方、ときどき見かける高年収を謳う企業には、学生が相当集まります。派手に宣伝をして、客引きもやや強引という事情もあるのでしょう。企業規模から考えれば、あり得ない年収(「新卒2年目で1000万円超」など)、あり得ない採用者数などをPRしている企業を合説でちらほら見かけます。
100人規模の企業が50人採用とか、では前年度入社の新入社員が何人残っているか、私は合説会場に行くたびにツッコミたくなります。見方を変えれば単なる営業妨害なので、しませんが。
頭のいい学生がする「二度聞き」「再訪」
かくのごとく、ウソの多い合説。ですが、就活ではお祭り的な位置づけにもあるので、一度は行ってもいいのではないでしょうか。そういえば、ちょっと頭のいい学生は、「二度聞き」「再訪」パターンが目立ちます。すでに学内セミナーやインターンシップなどで話を聞いているはずのブースをわざわざ訪問するのです。
知っている採用担当者がいれば、「先日はどうもありがとうございました」と、挨拶。言われた方は悪い気がしません。くだらない、と言えばそれまでですが、下手な自己PRよりもよっぽど有効です。企業にとっても学生にとっても、明るく楽しくウソらしく。そんな合説がきっかけで、2018年卒採用、いよいよ開始と相成った次第です。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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