U22

就活

働き方の「見える化」が進んできた ブラック企業との向き合い方(12)

上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授

2016/6/20

就職活動は企業に「選ばれる」ための活動であると同時に、これから働こうとする企業をみずからが「選ぶ」活動でもあります。しかしながら、「選ばれる」ためにエントリーシートや面接で詳細に自己開示が求められる一方で、「選ぶ」ための企業の就労実態の情報開示は進んできませんでした。それがここに来て、変化しつつあります。

男性にも有益な情報が盛り込まれている「女性の活躍推進企業データベース」

皆さんは2016年2月29日に開設された「女性の活躍推進企業データベース」をご存知でしょうか。女性の活躍推進の話だから自分には無関係だと男性の方は関心がなかったかもしれません。ですがこのデータベースには、男性にも有益な情報が盛り込まれています。

2015年8月28日に成立した女性活躍推進法により従業員301人以上の企業には、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行い、行動計画を作成・公表するとともに、自社の女性の活躍に関する情報の公表を行うことが義務化されました(300人以下の企業は努力義務)。その行動計画と現況に関する情報が「女性の活躍推進企業データベース」に掲載されているのです。同法により公表の対象とされている情報項目は下記の通りです。

「女性の活躍推進」というと女性の管理職登用などが注目されがちですが、ここには上記の通り、男女の平均継続勤務年数や、雇用管理区分(「総合職」「エリア総合職」「一般職」など)ごとの平均残業時間、有給休暇取得率など、男女ともに知りたい情報項目が並んでいます。

もっとも上記のすべての項目を公表することが義務づけられているわけではなく、適切であると考える項目を1つ以上公表すれば一応は義務を果たすものとされています。とはいえ積極的な公表が推奨されており、共通のフォーマットで各社の情報を集約してデータベースとして提供するこの仕組みそのものが、公表を促す仕組みともなっています(*)。

(*)詳しくは、麓幸子「女性活躍推進法で企業は4つに格付けされる!?」(日経ビジネスオンライン2016年4月1日)参照

情報公開に消極的だった大手企業の対応は

前回の記事で、メガバンク各社など日本を代表する超大手企業の中には『就職四季報』への情報提供が消極的である企業があることを指摘しました。しかしそれらの企業も、「女性の活躍推進企業データベース」にはある程度の情報を公表しています。

たとえば、みずほ銀行は『就職四季報 2017年版』に情報掲載がなく回答拒否と思われますが、「女性の活躍推進企業データベース」では「採用した労働者に占める女性労働者の割合」や「労働者に占める女性労働者の割合」、「雇用管理区分ごとの一月当たりの労働者の平均残業時間」を基幹職・特定職・契約社員のそれぞれの雇用管理区分ごとに公表しています。「男女の平均継続勤務年数の差異」や「有給休暇取得率」は公表していません。

三菱東京UFJ銀行は『就職四季報 2017年版』に掲載があるものの、ほとんどの項目はNA(非公開)で情報開示度は5段階のうち星1つの最低ランクですが、「女性の活躍推進企業データベース」では「労働者に占める女性労働者の割合」、「雇用管理区分ごとの一月当たりの労働者の平均残業時間」を雇用管理区分ごとに公表しているほか、「男女の平均継続勤務年数の差異」や「有給休暇取得率」も公表しています(どちらも2016年6月7日現在)。実際のデータはぜひ、自分で検索してみてください。

このように女性活躍推進法による情報項目の公表の義務化と「女性の活躍推進企業データベース」サイトの開設は、就労実態の「見える化」を大きく促しつつあると言えます。

若者雇用促進法では求めに応じた情報提供を義務化。ただし制約が多い

さらに2015年9月11日に成立した若者雇用促進法では、新卒者の採用を行う企業に対し、就労実態に関する下記の情報の提供が義務づけられています。

ただしこちらについては「女性の活躍推進企業データベース」のような集約された情報提供サイトはありません。応募者本人が名前や所属・連絡先などを明らかにして情報提供を求めた場合に、その応募者本人に対して上記の3つの類型からそれぞれ1つ以上の情報提供が企業側に義務づけられているのです。

「女性の活躍推進企業データベース」の場合はネットで公表されている情報を誰でも自由に閲覧できるわけですが、若者雇用促進法による就労実態情報は、応募者本人が提供を求めないと受け取れないしくみになっています(*)。

(*)詳しくは、厚生労働省のリーフレット「就労実態等に関する職場情報を企業に求めることができるようになります!」を参照

また、応募者が求めた情報が提供されるとは限りません。「過去3年間の新卒採用者数・離職者数」のデータを求めても、同じ(ア)の類型にある「過去3年間の新卒採用者数の男女別人数」を回答すれば情報提供義務を果たせる形となっています。

さらに学生向けリーフレットには「企業から提供された情報について、転用するといったこと(例えば、SNSへの投稿など)のないよう、適切に取り扱ってください」という注意書きまで記されており、なんとも窮屈です。

また、企業は情報提供の求めを行ったことを理由とする不利益な取扱いをしてはならないとされていますが、選考を通過できなかった場合、それが情報提供を求めたことによるのか他の要因によるのかは客観的に判別が困難であるため、学生側は情報を求めることに積極的になりにくいという構造的な問題があります。

そのため、若者雇用促進法による情報提供のしくみは「使えない」という評価がネット記事などでされているのが現状です。

情報公開は、それを求める社会的な動きがあってはじめて進む

ただし「使えない」「無意味」と求職者や学校関係者などが関心を失えば、情報提供が今以上に進むことはないでしょう。それは、情報提供に消極的な企業をほっとさせることにしかつながりません。

若者雇用促進法による就労実態情報の提供は、見てきたように非常に制約が大きいものですが、それでも私は注目に値する変化だと考えています。

私は2012年3月に内閣府に設けられた「雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)」に委員として参加したのですが、その会合で大学側の委員が各企業の3年後離職率の公表の義務化を強く求めたのに対し、経営側の委員の返答は、企業には採用における幅広い裁量権があり、データ公表の義務化は適切ではないという趣旨のそっけないものでした。

その当時と比べれば、「過去3年間の採用者数・離職者数」が情報提供項目に上がり、限定的ながらも情報提供が義務化されたのは、着実な前進なのです。そしてその変化は、自動的に起きたものではありません。

私は上記の会合で、規模別・産業別の離職率なら既存データを使って公表できるはずと求め、2012年秋から厚生労働省のサイトで規模別・産業別の離職率が毎年公開されるようになりました。そのことは就労実態の代理指標としての離職率への注目を高め、現在の情報公開の動きにつながる一歩であったと考えています。

若者雇用促進法による就労実態情報の提供の義務化も、政府もしくは経営側が率先して進めたものではなく、労働政策審議会において労働側委員が強く求め、経営側委員が譲歩する形で、また国会での議論を経て、ようやく現在の形になって実現したものです。

若者雇用促進法による情報提供は、応募者本人の求めに応じた提供が義務であるだけでなく、ホームページでの公表、会社説明会での提供、求人票への記載などによる自主的・積極的な情報提供が努力義務として求められています。ただし実態としては、情報提供はほとんど進んでいないようです。

そのような現状を前にして私たちに必要なことは、「使えない」「無意味」と関心を失うことではなく、いかに使えるものにしていくか、関心を持ち続け、情報提供を求めていくことだろうと考えています。

より包括的な就労実態の「見える化」に向けて

法律はできた、しかし情報提供は進まない。そういう実態が直視され、問題視されて初めて、次の対策は進んでいきます。

先日(2016年6月3日)、「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」という厚生労働省の有識者会議で報告書が取りまとめられました。そこには、次の文言が含まれています。

直接募集、文書募集
労働条件明示等のルールについて、固定残業代の明示等指針の充実、虚偽の広告を行った求人・求職者情報提供事業者に係る罰則の整備など、必要な強化を図ることが適当である。
関連して、女性活躍推進法や若者雇用促進法に基づき、女性や若者に向けて職場情報の開示が進められる中、それ以外の者に向けても、企業による職場情報の開示を促進することが適当である。

最初の段落は、募集要項に嘘の好条件が書かれている、残業代が隠して含まれているといった、この連載でも取り上げてきた問題への対策を求める内容です。2つ目の段落は、今回見てきた就労実態の「見える化」の促進を求める内容です。この報告書をもとに今後、法改正に向けたさらなる検討が進められていくことになります。

より包括的な就労実態の「見える化」は、まだ先のことで、皆さんの就職活動に資することはないかもしれません。ですが皆さんが就労実態の「見える化」に関心を持つことは、より「見える化」を進める方向に寄与することになります。

前回紹介した『就職四季報』や今回紹介した「女性の活躍推進企業データベース」をチェックしてみる、友達と話題にしてみる。それらや若者雇用促進法による情報提供について関心を持つよう、後輩に伝えていく。そうやって就労実態の「見える化」への関心を途絶えさせず、情報開示を皆さん自身が求め続けていくことで、はじめて情報開示は進んでいくのです。

法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

上西充子(うえにし・みつこ) 法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。

U22 新着記事

ALL CHANNEL