婚活で「お母さん」と言われた女医 選んだのは別居婚
結婚相談所代表が見た今どき「婚活」事情
どんな「結婚スタイル」が幸せなのかは、人それぞれ。視野を広げることで、新たな可能性が開けることもあるはずです。今回登場するのは、北海道で医師として働く40代の女性。地元の相談所で入会を断られた彼女に、東京・青山の結婚相談所「マリーミー」代表の植草美幸さんは、どんなアドバイスをするのでしょうか?
婚活は「自分探し」、本当に結婚が必要か自問自答
「結婚とはこういうもの」と、固定観念に縛られてはいませんか? 今回は、思い込みにとらわれず、「尊敬婚&別居婚」という新しいスタイルの結婚を選択した女性のお話です。
相談者は、北海道で医師として働く畠中景子(仮名)さん、41歳。40歳以上であることと離婚経験があること、年収が高いことを理由に、地元の結婚相談所では入会を断られてしまった女性です。
はるばる北海道から東京まで相談に来てくださった景子さん。彼女は20代の時に離婚を経験していましたが、将来のことを現実的に考えた結果、もう一度「結婚したい」と考えていたようです。
相談に来られた当初の希望は、「年収1000万円以上」の男性。ご自身も高い収入を得ている身であるため、自然とこうした収入条件が出てきたのだと思います。
しかし、改めて考えてみると、彼女の職業は医師。金銭面で男性に頼る必要はなく、定年もないので、その気になれば何歳になっても働き続けられる職業です。
そのため、あえて「年収」を条件に挙げる必要があるのか。そもそも、本当に自分の人生に結婚が必要なのか。まずはそこから掘り下げて考えてもらいたいと思い、私は彼女に問いかけました。
「景子さん、婚活は『自分探し』です。今は結婚したいと思っているかもしれませんが、本当にあなたの人生に結婚が必要なのかを、もう一度考えてみてください。婚活は、自分の人生に冷静に向き合うチャンスでもあるんですから」
「結婚したい」と相談に来ている人に、「本当に結婚したいのか」と問い返すアドバイザーは、かなり珍しいかもしれません。
しかし、結婚の目的や意志が曖昧であればあるほど、成婚が遠のいていくのも事実。
景子さんが、北海道から来てくれるほど熱意のある女性だったからこそ、私もよりいっそう真剣に、彼女と向き合おうと決めていたのです。
一方 景子さんも、こうした私の問いかけに真剣に応えてくれ、ノートに自分の気持ちを書きつづるなどして、結婚に関して自問自答を繰り返す日々を送りました。
そして彼女が出した答えは、「やっぱり結婚したい」「私は必ず結婚する」という、迷いのない力強い結論でした。
畠中景子(仮名)41歳、医師
40歳以上で離婚経験があること、さらに年収が高いことを理由に、地元・北海道の結婚相談所で入会を断られる。その後、書店で見つけた植草さんの著書を読み、北海道から相談に訪れて「マリーミー」に入会。
婚活パーティーで「お母さんみたい」と言われて…
結婚に関する目的や意志が明確になった景子さんは、自ら「婚活パーティー」に参加するなどして、積極的に行動するようになりました。
しかしそんなある日、彼女が打ちひしがれて相談にやってきたのです。
「植草さん、私、婚活パーティーで、年下の男性に『お母さんみたいだね』と言われたんです……」
そう言って、彼女は涙を流しました。
結婚相手を見つけたいと思って参加したパーティーで、男性から「お母さんみたい」と言われる――。この出来事は、どれほど彼女を傷つけたことでしょう。
ただ、ピンチはチャンス。私はこれが彼女の「転機」だと捉え、ある提案をしました。
「だったら、この機会に『大変身』しましょう。『お母さんみたい』なんて二度と言わせないように、もっとキレイになりましょう!」
こうして、彼女の快進撃が始まったのです。
変身して、デートする楽しさを思い出す!
実は、相談所にやって来た頃の景子さんは、あまりオシャレにこだわるタイプの女性ではありませんでした。
仕事が忙しかったこともあるでしょう。相手にどう見られるかをもっと意識するようにと話をして、北海道から来るたびにメークレッスンを受講してもらいました。
それだけではなく、ファッションセンスを磨いてもらうためにショッピング同行も実施。このショッピング同行は、スタイリストの男性との「シミュレーションデート」も兼ねていて、「男性とデートをする楽しさ」を思い出してもらうきっかけにもなります。
普段は「先生」と呼ばれて、「個人」であるよりも「医師」としての振る舞いを求められることが多い景子さん。彼女にとってもこの「ショッピング同行 兼 シミュレーションデート」は、恋愛の楽しさを思い出すいい機会になったようです。
そしてショッピング同行を終え、話をしていたある日。服装も見た目も華やかになり、魅力を増した景子さんの口から、「デートが楽しかった」という言葉が! これでもう、「お母さんみたい」と言われることはないだろうと、私も安心しました。
自ら気付いて行動する、それが成婚への道
彼女が大変身を成し遂げた理由は、二つあると思っています。一つ目は、婚活パーティーで傷ついたことによって、「変わる必要がある」と自覚したこと。二つ目は、メークや服装など、教わったことをどんどん吸収して、変わるための行動を彼女自身が積極的に取ったこと。
いずれも、「私から言われてイヤイヤ実践した」のではなく、「自ら望んで行動した」ことがポイントです。私も必要なアドバイスとサポートは惜しみなく提供しますが、人の心を無理やり変えることはできません。
「結婚相談所に来たら『魔法』がかかったように結婚できる」のではなく、「自分が傷ついたとしても現実を受け止め、そこから変化する行動力が必要」であることを、婚活中の女性には知っていてほしいと思っています。
北海道から青森へ、遠距離お見合いで一目ぼれ
では、景子さんはどのような方と結婚されたのでしょうか。
彼女の夫は、6歳年下の公務員。全国各地への異動があるお仕事をされていて、当時青森にお住まいの男性でした。
景子さんにぴったりの方を探す中で、私はある男性のプロフィルを見てひらめいたのです。
「この人は恋人の仕事や人柄に、敬意を持って接してくれるのではないか」
「結婚に対して『こうあるべき』という固定観念が少ないのではないか」
長年の勘を頼りにこう感じ取った私は、景子さんに「この男性とお見合いしましょう!」と提案。
ただ、彼は6歳年下。彼女も、最初こそ「そんなに年下なんて無理ではないでしょうか」と言っていましたが、大変身を遂げて見た目も気分も華やかになっていた勢いで、青森に行ってお見合いをしてきたのです。
その結果――。
青森から帰ってきて、顔を赤くしながら、私に「夢を見ているかもしれません……」とつぶやく景子さん。
そう。彼女は今の夫に、一目ぼれをしていたのです。
ひとまず、夢ではないことを伝えて現実だと認識してもらいましたが、それでも景子さんは恋愛モードに突入したままの様子。
会った時に、「青森まで来ていただいてありがとうございます。お口に合うか分かりませんが……」と言って、礼儀正しく菓子折りを差し出す誠実さに、心引かれたそうです。
一方、男性のほうも、自分とは違う世界で自立している景子さんの生き方に魅力を感じ、さらに包容力を持った彼女の人柄に引かれたとのこと。
実は、この二人こそ、私の推奨する「尊敬婚」の始まり。「年齢や年収は妻のほうが上。そして、夫もそんな妻を人として尊敬している」という「尊敬婚」の初代カップルが、景子さん夫婦なのです。
二人ならではのスタイル、「別居婚」を選択して幸せに
彼女たちの場合は、「尊敬婚」に加え、さらに「別居婚」という結婚スタイルも選択しています。
現在、景子さんは北海道に住み、夫は東京在住。飛行機で行き来しながら、月に何度か会うという結婚生活を送っています。
一般的には「珍しい」といわれるスタイルかもしれませんが、今は女性も男性並みに働いて自立している時代。男女どちらかに合わせるだけが、結婚のあり方ではありません。
女性がこれまでのキャリアを捨てたり中断したりして「結婚」するのではなく、「別居婚」をすることで、さらにキャリアを積み上げていく。そんな時代になろうとしているのです。
長いスパンで結婚生活を考えてみれば、別居するのは数年~数十年のこと。どちらかが退職したら、改めて新婚気分で一緒に住むという方法だってあります。
人生が「点」ではなく「線」であるように、結婚も「点」ではなく「線」なのです。
景子さんが地元の北海道にこだわっていたならば、きっと今の夫とは縁がなく、また「同居婚」にこだわっていたのであれば、今の幸せもなかったでしょう。
婚活中の方も、これから婚活をする方も、ぜひ景子さんのような長期的な視野を持って「結婚」を考えてみてほしいと思っています。「固定観念」や「思い込み」を捨てれば、きっと新たな可能性が見えてくるはずですから。
・努力せずに結婚できる「魔法」はない。現実を受け止めて変化せよ。
・今の時代、「別居婚」だってアリ。
・「固定観念」や「思い込み」を捨てれば、想像以上の人と結婚できる。
(ライター 青野梢、イラスト 田中小百合)
[nikkei WOMAN Online 2018年10月18日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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