転職で仕事にワクワク感を取り戻したい人は多い。写真はイメージ=PIXTAまもなく新しい年を迎えますが、この年末年始に転職を真剣に考えている方も大勢いることと思います。ことし転職活動をしたものの納得できる求人に出合えなかった方、来年は転職活動を始める予定だけどやりたいことがよくわからないという方に、ワクワクできる仕事に出合うためにはどんなポイントで考えればよいのかを紹介しましょう。3人の事例は、当初は本人が想定もしていなかった転職先ですが、それぞれが生き生きと働いておられます。
■仕事のワクワク感を取り戻す転職
私が転職相談でお会いする方々の中には、「現状に対して特に不満や問題はないのだけど、よりよいところがあれば転職を検討したい」というケースが少なくありません。しかもその多くが、今の会社で十分に実績を上げ、評価され、安定した地位を獲得している方です。
ビジネスパーソンは、経験を積むほどに求められる役割が増えていき、それらを「こなす」ことに精いっぱいで、仕事を楽しむ余裕がなくなりがちです。そうして「ワクワク感」が欠乏するようになると、現状を飛び出して、自分にとって最適な新しいステージを探し始める傾向が見られます。
しかし、「ワクワクしたい」という潜在願望があるだけで、「どのように転職先を選べばいいのかわからない」という方が意外に多いのです。どんなポイントにフォーカスすれば、次の仕事を選ぶ軸が定まるのでしょうか。実際の転職事例を交えて紹介していきます。
■ポイント1 今の仕事で「面白い」と感じること
Mさん(30代男性)は仕事に物足りなさを感じていました。金融機関に勤務し、投資先企業の経営支援を手がけてきたのですが、事業の「当事者」として責任を負うことはありません。「アドバイスするだけでなく、自分の手で戦略を推進してみたい」と、事業会社への転職を希望されました。
最初の転職相談時、Mさんが希望として挙げたのは「大きく成長する可能性を秘めたベンチャー企業」。業種や商材などの希望は特になく、とても漠然とした状態でした。
成長中のベンチャー企業、しかも新規株式公開(IPO)が視野に入っている企業では最高財務責任者(CFO)を求めており、Mさんの経験を生かせる選択肢は複数あります。しかし、成長力のある企業でさえあれば彼が満足するかというと、そうではないと感じていました。
そこで、Mさんが面白いと感じるのはどんな業種やテーマの企業なのかを探るため、これまで企業の経営支援をしてきた中で、具体的にどんなアドバイスや働きかけをしたのか細かく聞いてみたのです。Mさんは、たくさんの例を挙げてくれました。そして、そのエピソードを語る途中、表情がより真剣になり、言葉に力がこもった場面がありました。
「人材採用の支援には力を入れていました。自分で採用手法を調べて提案しましたし、面接に立ち会うこともありました。優秀な人材の確保って本当に難しいですよね」
「企業規模が大きくなると、経営陣の思いを現場の従業員まで伝えるのは難しいですね。理念を浸透させ、モチベーションを高めるにはどうすればいいかもよく話し合いました」
経営資源の三要素といえば「ヒト・モノ・カネ」ですが、Mさんの興味は、特に「ヒト」に対して向けられていたのです。
そして、私からご提案したのが、人材業界の新興企業です。採用支援サービスで順調に成長し、さらに拡大中。ちょうど「CFOを採用したい」というニーズがあったので紹介したところ、Mさんはすぐに興味を示されました。そして、「人材ソリューションの現場を見られるのは面白そうだ」と、その会社に転職を果たしたのです。「人材ビジネス」はそれまで考えてもみなかったというMさんですが、自分の好奇心を強く刺激する業界だと気付かれたようです。
幅広い業務を経験してきた中で、「これに取り組んでいるときは夢中になれていた」という場面は誰にでもあるはずです。それを思い返し、自分の興味の対象にフォーカスしてみてください。
■ポイント2 過去の経験でワクワクした場面を思い出す
学生時代の思い出話からウエディングプロデュース会社へ転職。写真はイメージ=PIXTA「自分が何をやりたいのかわからない」
こんな転職相談は、若い人に限ったことではありません。社会経験をある程度積んだ方々からも聞こえてきます。「一つの業界で長く働いてきたけれど、本当にやりたいことはこれだったんだろうか」と疑問を抱くケースもあれば、仕事上でさまざまな業種との接点を持ってきたために転職先候補を絞れないケースも見られます。
人材業界で営業部長を務めていたFさん(40代男性)もまた、転職を考え始めた時点で、次の仕事を探すための「キーワード」がありませんでした。
これまで人材サービスを提供する中で担当してきた顧客の業種は多種多様。各業界の魅力的な部分も大変な部分もわかっているだけに、候補先を絞れなかったのです。「自分にはどんな業界が合っているんだろう?」と模索していました。
そこで、Fさんの根本にある価値観を探ろうと、学生時代や子どもの頃までさかのぼって、印象に残っている出来事をお聞きしてみました。すると、Fさんの表情が一気に明るくなったのが、「高校時代の体育祭」の思い出話をしたときでした。
「応援合戦は燃えましたね。クラスの団旗を手作りしたり、振り付けやフォーメーションを考えたり、テーマソングを選んだり。あれは楽しかった」
さらに掘り下げて「どういうところが楽しかったのか」を尋ねると、
「一つの目標に向かって皆が団結する一体感かな。美術部の子が旗をデザインしたり、ダンスを習っている子が振り付けしたり。それぞれが個性や得意なことを生かして一つのものを作り上げていく、その過程が楽しかった」
当のFさんはリーダー、ムードメーカーの役割を果たしていたといいます。
こうしたエピソードをいろいろと聞くうちに、Fさんは自分一人で行動して成果を上げるよりも、仲間たちと一丸となって目標を目指し、達成することにやりがいを感じていることがわかりました。
私からご提案したのは、ウエディングプロデュース会社です。結婚式を挙げるカップルのこだわりや夢をいかにしてかなえるか、結婚式や披露宴をいかに感動的に演出するかという目標に向け、多くのスタッフが力を合わせて働く職場。その統括部長のポジションをお勧めしました。
Fさんは「考えてもみなかった」と驚かれましたが、この業界ならではのチームワークのプロセスに魅力を感じたようです。「また、あの頃に似た感覚が味わえるのかな」という期待を胸に応募し、面接を重ねるうちに「自分の志向に合っている」と確信。転職を果たしました。
自分はどんな状況で「楽しい」と感じるのか。これまで、「楽しい」と感じた場面を思い出すまで、過去をさかのぼって思い起こしてみてください。そして、「なぜそれが楽しかったのか」「なぜあんなにも夢中になれたのか」を突き詰めて考えていくと、自分にとって本当に大切なもの、モチベーションの源泉が見えてきます。それを「軸」とした働き方ができる業種・会社に目を向けてみてはいかがでしょうか。
■ポイント3 誰に対しどんな価値を提供したいのか
「自分が大切にしたいこと」から介護施設の施設長に。写真はイメージ=PIXTAYさん(40代女性)は、これまでエンターテインメント業界に身を置き、ショーのプロデュースやキャストのマネジメントを手がけてこられましたが、やむを得ない事情で転職活動を開始しました。
彼女は当初、同じエンターテインメント業界を中心に転職先を探していましたが、納得のいく求人になかなか出合えません。そこで、対象業界を広げようということになり、Yさんの仕事に対する思い、こだわりについて、さらに深くお話をお聞きしました。
その上で私が選択肢の一つとして提案したのが、「介護施設の施設長」の求人です。これまでの華やかな業界とのギャップに、Yさんは戸惑い、最初は抵抗感を示しました。しかし、その仕事がどんな役割や意義を持ち、日々どんな取り組みをするのかを詳しく知るうちに、「自分が大切にしたいこだわりにマッチしている」と気付き、応募を決意されたのです。
彼女が昔からこだわり続けてきたのは、「人々が感動し、楽しいと思えるものを創り出す」ということ。「入居者がいかに毎日楽しく笑顔で過ごせるかを追求し、エンターテインメントの空間を創り上げるのは面白そうだし、やりがいがある。私がこれまで取り組んできたことと同じ」だと、Yさんは考えたのです。
そして、ショーのキャストやスタッフをとりまとめてきたマネジメント経験は、施設で働く介護スタッフや看護師などのマネジメントにも生かせると評価され、採用に至りました。
自分の仕事で、誰に、どんなふうに役立てば、自分は喜びを感じられるのか。その軸が定まれば、意外な業種でもそれを実現できる可能性が見つかるものです。
――転職活動にあたって、経験を積んだビジネスパーソンほど、「経験をどう生かすか」を第一に考えがちです。しかし、ビジネス人生がどんどん長く伸びている今の時代、生き生きと働き続けるためにも、「どんな仕事、働き方なら自分はワクワクできるのか」という視点も、ぜひ大切にしていただければと思います。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。次回は2019年1月4日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。
森本千賀子morich代表取締役 兼 All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「のぼりつめる男 課長どまりの男」(サンマーク出版)ほか、著書多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。