「私が変える」地域に新しい力 女性知事らパネル討論
日経ウーマノミクス・シンポジウム2018
女性がさらに活躍できる社会の実現に向けて、日本経済新聞社は11月8日、「日経ウーマノミクス・シンポジウム2018」を東京・大手町の日経ホールで開いた。「私が変える! 地域が変わる! 女性ルネサンス」をテーマにしたパネルディスカッションには女性知事らが登壇。危機管理や女性のリーダーシップ発揮を巡り意見を交わした。(本文敬称略)
東京都知事 小池百合子氏
経済キャスターなどを経て1992年に参議院議員に当選。93年から衆議院議員を8期務め環境相、防衛相などを歴任。2016年に女性初の東京都知事に就任
北海道知事 高橋はるみ氏
1976年通商産業省(現経済産業省)入省。貿易局輸入課長などを経て2001年北海道経済産業局長。03年2月退官、同4月知事就任(4期目)
昭和女子大学理事長・総長 坂東真理子氏
1969年総理府(現内閣府)入省。78年に日本初の「婦人白書」執筆。埼玉県副知事も務め2003年退官。昭和女子大学教授、学長を経て16年4月から現職
小池氏「語られてこなかったところから発信すべき」
司会 まずは知事2人に政治家を志した経緯は。
小池 キャスターをしていた1990年代は世界の激動期だった。湾岸戦争があり、米国とソ連(当時)の冷戦が終結し、日本もバブル経済が崩壊。産業構造も変化し、女性の役割も変えていく必要があると考えていた。だが、「政官財」で作り上げられた社会はなかなか変わらない。自分に何かできることがあれば、日本を大きく変える手伝いをできるのではないかと考え、政治家を志した。
今、私は「都民ファースト」と言っている。この言葉を使うのは政治家として、女性をはじめ、従来、あまり語られてこなかったところから発信すべきだとの思いがある。
高橋 私は、あまり政治家志向はなかった。ただ、2000年代初めの北海道勤務の際、総じて見れば潜在力は大きいのに道民の方々が自信を失っているのが気になった。90年代後半の北海道拓殖銀行の経営破綻に加え、省庁再編でインフラ整備を担っていた北海道開発庁が今の国土交通省の一部局となったことも影を落としたようだ。
だが、北海道は自然環境が抜群で観光資源に恵まれ食の宝庫でもある。私はよそ者だが、道庁のトップになり役に立ちたい、と地域愛が高じて知事選に出た。
坂東 政治は本当に大切なので昭和女子大学の学生たちには、この政治家ならばと思う人のサポーターになってはと話している。自分を応援してくれるサポーターの声なら政治家も聞き入れやすい。
高橋氏「北海道地震復旧・復興は人生で一番記憶に残る仕事」
司会 リーダーは危機管理での役割も大きい。高橋知事に9月の北海道地震での対応を聞きたい。
高橋 9月6日は北海道が経験したことのない震度7。さらに全ての電力供給が止まる全国初のブラックアウトに。難局ではあったが、これは知事を長くやってきた人間に神が与えた応用問題であろうと、とらえて取り組んだ。
まずは情報収集を進め、私自身は震源地近くの3つの町の首長に激励の電話を入れた。最優先となる人命救助は道警、消防、自衛隊が総力を挙げて頑張ってくれた。大変だったのはブラックアウト。電力供給再開に向け、経済産業相とも頻繁に連絡を取った。計画停電回避のため、札幌ドームで予定されていた北海道日本ハムファイターズの2試合の中止も余儀なくされたが、なんとか次のステップへ。復旧・復興は人生で一番記憶に残る仕事だ。
司会 小池知事はどうか。
小池 私は阪神大震災を経験し、いかにトップの迅速な対応が大切かを痛感した。そこで交通網が止まった場合も都庁にすぐ向かえるように自宅の電動自転車は充電を欠かさない。
いざ災害が起きると、避難所では授乳をさせにくいなど女性特有の問題も。そこで女性の目線から防災対策をまとめた「東京くらし防災」を作成し、日ごろから心構えを持っていただけるように美容院やスーパーのレジなどに置いてもらった。災害対策が問われるなか、改めて都内のハード面の問題点をあぶり出し対応するつもりだ。
坂東氏「無意識の偏見にとらわれず期待を」
坂東 知事は議員と異なり、いろいろなことを具体的に実行できる。法律や条例で様々な決まりがあるが、実情に合わせた弾力的な運用でリーダーシップを発揮し具体的な成果を上げてほしい。特に教育では、地域で学校の応援団になりたい人がたくさんいる。現在は教員免許状を持つ人でないと教壇に立てないが、多様な人がかかわれるように知事の力に期待したい。
司会 さらなる活躍に向け、女性たちに助言を。
高橋 私は女性だから損をしたと思ったことは一度もない。むしろ、女性の方ができることが多い。上司とうまくいかない人は男性でも山ほどいる。自ら努力をすれば上司とも仲間ともうまくできるので頑張ってほしい。
小池 同感だ。もし苦難があれば乗り越えていってほしいし、乗り越えられるんだと強く自分に言い聞かせて頑張ってほしい。
坂東 大事なのは女性に期待すること。女性自身も「どうせ女だから」といった無意識の偏見にとらわれないようにしてほしい。
「私が変える」というのはとてもいいメッセージだ。半径1メートルなり5メートルなりの範囲でも、やろうとさえ思えば、あなたの周りを少し変えられる。工夫や考えは必要だが、そうしたことの積み上げが社会を変え、地域を変える。そして、きっと日本や世界を変えることになると期待している。
リーダーとして現場を引っ張る
積水ハウス 東京北支店赤羽展示場店長 黒木史子氏
大学で建築学を専攻し2004年入社。営業職として顧客対応の最前線に。13年に東京北支店王子展示場で首都圏初の女性店長。11月から現職。2児の母
東京海上日動火災保険 岐阜支店岐阜支社課長 河合仁美氏
1996年入社。岐阜エリアのリテール営業や岐阜支店全体の事務担当を統括する役割などを担い、17年4月から現職。1女の母
アフラック生命保険 新規事業推進部 課長代理 田中麻衣氏
2009年入社。17年11月に現在の部署に異動し、情報交換などでがんサバイバーらの支え合いを助ける交流サイト(SNS)アプリを開発・推進
西日本鉄道 事業創造本部観光・レジャー事業部課長 吉中美保子氏
福岡市役所、大学院を経て入社。来春、運行開始予定の地域を味わう旅列車「ザ レールキッチン チクゴ」の企画や地域資源の発掘・活用に携わる
等身大の自分で部下に接する
司会 仕事では日々、様々なことが起きる。現場を引っ張るリーダーとして、どんな課題に直面し、どう乗り越えてきたか。
黒木 職場ではメンバー一人一人が顧客をコーディネートし物件の引き渡しまで担う。私自身もプレーイングマネジャーとして目標を課される立場だが、要所要所でメンバーの物件にもかかわる必要がある。プライベートでは2人の小学生を育てているので時間管理やメンタルバランスの取り方が課題。その都度、軌道修正を心がけている。
河合 部下は25人。当初はリーダーとしての気負いや焦りがあったようだ。当時は子供も手のかかる時期で個々のメンバーとじっくり向き合う時間が取れず、「もう少し話を聞いてほしい」と言われたことも。やがて先輩や上司らと話すなかで無理にリーダーシップを発揮しようとするより、等身大の自分でいいかなと気づいた。今は自分らしさを出してメンバーに語りかけるようにしている。
田中 私の場合は、がん経験者ら社外の方も含めた皆の思いを伝えて承認を得る過程で、説明不足などの壁にぶつかった。ただ、課題を指摘してくれる上司を含め味方は多い。時には役員の意見も聞くなど周囲に学びつつ工夫を重ねている。
吉中 私も社内調整が必要な案件が多い。ただ、新しいことをやる際、関係者全員が賛成することはあり得ない。誰かが決めて、批判も受け入れないと先に進まなくなってしまう。最初は反対意見などに落ち込んだが、覚悟を決めて批判も受け入れるところにたどり着いた。批判が多いとその分、必ず味方もできる。批判を受ければ、それに見合うものが返ってくると思えるようになった。
挑戦を通じ視野が広がる
司会 女性は昇進・昇格をためらう人が多いと聞く。リーダーシップは努力で体得できるか。
黒木 リーダー像に正解はなく、自分の中で見つけていかなければならないところに難しさがあると思う。あえて言えばリーダーシップは努力して身につけるべきスキルではないか。私は社内の女性営業職で一番上の方の年代。後輩の目標の一例になれば、との思いで懸命にもがいてきた。
河合 経験や学習で身につけられると思う。与えられた仕事に懸命に取り組み、できることが増えてくると「こんなこともやってみたい」と思うようになり、会社も様々な機会を与えてくれる。チャレンジを通じ、視界がどんどん開けていくと自然に身に付くのでは。
田中 判断の速さなどで尊敬する上司の手法をまねしてみたが合わなかった。私は「あなたがやるなら支援してやろう」と周囲の協力を引き出して動かすタイプのようだ。自信はないが、提案が通らなかった体験から、やりたいことをやるには昇格しかないと相談し挑戦してみて良かった。
吉中 自分なりの方法を見つけるしかないと思う。私は思いや目的を伝え続け、熱量で引っ張っていくタイプ。どんな仕事でも、なぜこれをするのかというところから伝えるようにしている。
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