外国人のイチ押しは亀戸!? 談笑流TOKYO観光ガイド
立川談笑
日本が「観光立国宣言」をしたのは2003年、小泉政権のときでした。「計略図に当たった」とはこのこと。今や海外からの観光客が増えたのなんの! そこで今回は、特に東京の観光スポットの変化を見てみます。東京の下町で生まれ育った私が驚くような変化がいろいろとあります。
灯台下暗しを痛感したのは数年前。「欧米人から見て、東京で一番クールな場所って、どこです?」と私が質問した相手は、スペイン人。彼は東京が大好きで、欧米向けの観光ガイドブックを出版したくらい。しかも各国語に翻訳されてベストセラーにまでなった人です。つまり、欧米系のガイジンさんの嗜好がよーく分かっている。そういうスペシャリストです。
その彼が考える間もなく答えました。「都内で一番クールな街、それは、カメイド、デース!」。「カメイドォ? ……まさかあの、錦糸町のとなりの、亀戸!?」と半信半疑の私に「ソウ!」と自信満々にうなずくんです。
うわあ! 亀戸ったら東京の下町。しかも地元、直撃です。なにしろ私は、もろに学区内に亀戸駅が入る第三亀戸中学校の出身なのですよ。驚きつつ、じっくり話を聞いてみました。亀戸のどこがいいんだ、と。
彼いわく「欧米では地下埋設が一般的な電柱と電線が、むき出しになって頭上を交錯してるのが驚き」。さらに「居酒屋なんかの看板がやたら派手で美しい」と。なるほど。でもそんな景色は日本中どこにでもありそうだよ。他に何があるの?
すると続けて「それでいて、瓦屋根だとかモルタル壁だとか、地味な日本的要素がちりばめられている」。うんうん。確かにそう。「その景色の向こうに超未来的な東京スカイツリーが間近に見える。それはここしかない」。
とまあ、こんな話。なるほどねえ。亀戸の絶景ポイントとして案内されたのは駅の東口に昔からある駐輪場でした。らせん状のフロアがぐるぐるとした3階くらいの建物です。「オー、クール!」
学生時代にさんざん世話になった、ごく日常の駐輪場です。どこが「クール」なのか、さっぱり分からん。きっとまだ情報に偏りがあるんでしょうね。場所によっては外国人観光客が押し寄せて困るほどだったり、意外にまだまだ知られてなかったり。
さて、ここからはすでにあちらに魅力が知れわたっているものを挙げてみます。ちょっと意外です。
■かっぱ橋道具街や多慶屋も人気
「かっぱ橋道具街」。浅草に近いこの地域に軒を連ねる店舗群は食器や調理器具、料理サンプルなどでも有名で、キッチン雑貨を中心にとにかく何でもそろう。安くて品質が確かな包丁なんかを、お土産用にいくつも買っていく外国人観光客が多いのだとか。もちろん買うときは、日本製であることを確かめた上で。ウン、大事なことです。
こちらは知る人ぞ知る、というべきか。JR御徒町駅近辺に散在する「多慶屋(たけや)」。大規模なディスカウントストアです。
日本人、いや、東京在住の人だって知らない人は多いかもしれない。それでも、今や外国人が連日押し寄せているんですって。ドン・キホーテが娯楽系の雑貨に強いとすると、こちらは日常生活に必要なものが豊富で、しっかり安い。いい店、知ってるなあ。
あと、立ち食いそば。ほとんどの店では外国人を見かけない気がしますが、店舗によっては外国人比率が非常に高いんです。どこかに偏った情報源があるんでしょうね。たとえばJR新宿駅西口の思い出横丁にある立ち食いそば屋はガイジンさんだらけです。天玉そば発祥の店というところ。先日、私が行ったときは、カウンターに座ってる客の半数以上がアジア系の観光客でした。離れたところから興味深そうに眺めるだけの外国人カップルなども多数。
そういえば歌手のレディー・ガガさんはJR品川駅の立ち食いそばがお気に入り、なんて噂もありましたっけ。ホントかいな。
また、お花見の魅力は完全に知れわたってます。桜の季節の上野公園は、海外からの観光客であふかえってます。私が見たところでは、なぜか午前中がピークで、なんと8割方がガイジンさん。我々のように桜の下で飲食はせず、歩きながら眺めて写メを撮って楽しむ人が多いですね。
でも中にはツワモノがいて、夜の宴会用に場所取りをしていることの意味が分かってるんです。ぽつんと座っている新入社員に声をかけて、「1時間ですぐ帰りますから、ちょっとだけ」ってな交渉をして。広々としたシートに上がり込んで、桜を悠々と眺めながら家族でコンビニ弁当を楽しんで帰る。そんな姿を見かけたこともあります。
■節分や花火大会にPRの余地
今度は逆に、意外と外国人観光客が少ない、今後もっと増えそうだなあと思うものを挙げてみます。これは東京以外も含めて、日本全般で。
2月3日に各地で行われる「節分豆まき」。あれはもっと外国人に人気があっていいのにと思います。ただでさえ外国人に人気のスポットであるお寺や神社の、一大イベントです。裃(かみしも)姿を目の当たりにする機会って、そうはありませんよ。しかもそれがお相撲さんということもある。さらに手にした升から福豆というラッキーアイテムをプレゼントしてくれる。しかも、無料イベントときてます。観光要素がたっぷりなのになあ。あの場にガイジンさんって見かけないんです。すごく不思議。
それから各地で大勢の見物客を集める花火大会。言うまでもなく、打ち上げ花火は日本が誇るみごとな芸術です。あのイベントも意外と外国人観光客が少ない印象です。圧倒的な需要がありそうなのに、外国人対応がなされている花火大会はほんの数えるほど。主催側としては「詰めかける日本人だけで手いっぱいなのに、これ以上外国人まで増えたらたまらない」なんていう事情があるのかしら。地域を活性化させるチャンスだと思うんだけどなあ。なんとももったいない。
東京の、日本の、私たちが気づかない魅力や生かしきれていない観光資源はまだまだありそうです。せっかく日本に来てくれるお客さんたちですから、上手におもてなししたいですね。といって、あんまり集まりすぎて混雑しちゃうってのも頭の痛いところではありますが。
ええ、年末だというのに最後は夏の花火大会の話になってしまいました。わはは。来年が皆様にとって、もっともっと素晴らしい年になりますようにお祈りしています。良いお年をお迎えください!
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
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