ソーシャルな活動を広げるコツ
僕ら流・社会の変え方(27)
最近、講演の依頼で一番多いのは、「NPOやボランティアの活動をどうやったら広げることができるか」というものです。今回は、そんな時に僕が話す「PRの手法を使った盛り上げ方」についてその一部をお話しできればと思います。そもそもなぜPRが大事だと思ったのか。まずは、僕の学生時代の経験からお話しましょう。
「伝える」ための武器を手に入れる
学生時代、僕はNPOなどの活動に多く参加していました。仲間とともに学生団体も立ち上げました。しかし、そこで感じたことは、どのNPOも学生団体もせっかくいいことをやっているのに、そこにお金も人も集まっていないということでした。僕は9.11のアメリカ同時多発テロ事件で大事な人を亡くし、そこからNPOの活動などにのめり込むようになったのですが、振り返って考えてみると、「テロ以前の僕」にはNPOなどの活動は全然刺さっていなかった。「寄付やボランティアなどの人材を募るNPOに、ちっとも活動が広がらないわけだ」と考えました。なぜなら、普通の生活を普通に送っている人に活動の意義が伝わり、彼らが動くようにならなければ、寄付も一部の「意識高い系」の人によってしか行われないからです。「意識高い系」の人は一定数しかいないから、寄付に広がりがありません。
今、年間100人の難民の命を救っているNPOは、より多くの人・「意識高くない人」にも伝える努力をすることで、人もお金も集めることができ、より多くの難民を救ことができる。「伝える力」と「巻き込む力」が必要だと考えた当時の僕は、プロモーションという武器を手に入れるために、広告会社の博報堂に入りました。
NPOの活動は半分が啓発
PRの手法を学んだ博報堂を経て、現在僕が代表を務めているNPOグリーンバードでは、活動の半分を人々への啓発活動に充てています。多くの方にボランティアに参加してもらいつつ、事務局には優秀な人材や個人・企業からの寄付金を集めるために、常に「話題づくり」を意識しています。普段NPOの活動に関心を持っていない人たちの「言の葉」に乗るように、勉強や仕事、遊びに忙しい彼らの気をひくための施策をいつも考えています。
僕たちは国内外の87カ所に拠点を設け、年間33万人の参加者とともに、日々街のごみ拾いやまちづくりのサポートを行っているのですが、皆さんに活動に参加してもらうのに「ごみ拾いしよう」と呼びかけると、「意識高い系」の人しか集まってくれません。それよりも、「朝合コンに来て」というと、出会いを求める多くの人たちにも参加してもらえるようになるでしょう(実際、僕たちの活動には老若男女、様々な大学や企業の人たちが参加してくれるので、さながら「出会い系」ではあるのです)。
他にも、ハロウィーンなどのイベント時にはかぼちゃの形のごみ袋をつくり、視覚的に目立つようにしつつ、ごみを持ち帰ってもらう運動を展開しています。みちょぱさんやロバートさんなどという著名人とともに、東京都さんと「#ちょいボラ」というイベントを展開することも。日々の掃除にはカッコいいビブスを着て、目立つので、スポンサー企業にとっても単なる寄付で終わらず、良いPRになります。
「2:6:2」の法則を意識する
具体的にPR活動に着手する前に、まず意識するべきことがあります。それは、とにかく「2:6:2」を意識することです。社会ではだいたい、2割の「意識高い系」と2割の「無気力系」、それに、6割の誘われたら参加する「潜在的ポジティブ層」でできています。人間関係でもだいたいそうではないでしょうか。周りに、あなたのことをとても好きな人は2割、嫌いな人は2割、どちらでもないと思う人は6割です。この6割といかに関係を築いていくかが、「モテ男」の秘訣でしょう。
同様に、「あなたは社会活動に参加したいですか?」という調査に対しては、「すでに参加したことがある」と答える人が2割、「そんなの偽善だ、関係ない」と答える人が2割、「機会があったら参加したい」と答える人は6割になります。これは、裏を返せば、あなたがやっているNPOやボランティアの活動にも、6割は、友だちからの誘いや何かのきっかけがあれば参加してくれる可能性があるということです。機会があれば参加したい6割と、すでに参加している人の2割を足すと8割になり、8割が動けば、社会は大きく変わると思いませんか?
重要なのは、この「機会があれば参加したい」と答えた6割の人たちにいかに刺さる言葉を開発し、もしくは思わず参加してしまう仕組みをつくるかです。では、NPOはどのようにしてこの「6割」にPRすればいいのでしょうか。
「6割」から共感を集める
ハーバード大学のマーシャル・ガンツ氏が提唱している「コミュニティ・オーガナイジング」という手法をご存知でしょうか。これは、社会を変える時に、周りを巻き込み、仲間を増やしながら、その力を活用して課題を解決していくというものです。「コミュニティ・オーガナイジング」は、リーダーが自ら行動しながら、多くの人から共感を呼ぶ方法を教えてくれます。共感を呼ぶには、3つのストーリーが大事だといいます。
まず、活動を始めるまでの自身のストーリーを語り、聞き手の共感を呼ぶこと(Story of Self)、そして、聞き手と自分自身が共有する価値観や経験、すなわち「私たちの」ストーリーを語り、聞き手とコミュニティとしての一体感を創り出すこと(Story of Us)、最後に、今やらなければ社会は変わらないというストーリーを語ること(Story of Now)です。ポイントは感情を通じて人々の行動を奮起させることです。理論ではなく体験やその価値を話し、それを小さなコミュニティから外側に伝えていくことで、無関心層の共感も得て、結果的に社会が変わっていくのだと言います。
NPOも、大きな課題を解決するためには、まず周りを巻き込んで仲間を増やし、小さな課題を解決する積み重ねが大切です。近くのコミュニティに刺さるストーリーをリーダーは研ぎ澄ませていくべきなのです。グリーンバードの場合は、例えば、街ごみが海の漂着ごみへとつながり、ペットボトルは分解されてマイクロプラスチックとなって魚の口に入り、それをまた人間が食べるという事実を伝えることはもちろん大事なことです。しかし、より多くの人に行動してもらうには、この原稿のように、自身のストーリーを語った上で、簡単に参加しやすい仕組みをつくったり、「朝合コン」という体験価値を伝えたりすることが大切です(実はこの原稿は、みなさんにごみ拾いに参加してもらうためにつくったものであったりします)。「朝合コン」から入り、結果的にポイ捨てごみをなくすための大切さを知ってもらえれば本望なのです。
いかがでしたか? 「ソーシャルな活動の広げ方」について、そのヒントになる部分は少しお伝えできたかと思います。学生団体もNPOも、PR活動に力を入れることで、ぜひその活動を広げていき、一つでも多くの課題を解決していってもらえればと思います。そして、もし共感していただけたらぜひグリーンバードの活動にも参加してくださいね。
NPO法人グリーンバード代表/NPO法人マチノコト代表/港区議会議員(無所属)/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程に在籍中。早稲田大学大学院修了、広告会社の博報堂を経て現職。まちの課題を若者や「社会のために役立ちたい」人の力で解消する仕組みづくりがテーマ。第6回、第10回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。著書に『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)、『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(フィルムアート社)。
HP:http://www.ecotoshi.jp
Twitter: @ecotoshi
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