卒業論文で泣かないために今すべきこと
大学のトリセツ(2)
毎年10月になると、私のゼミに所属する4年生が急に焦り出します。12月中旬の卒業論文の締切に向けて、「そろそろ本腰を入れないとまずい」と感じるようです。私が所属する学部は、毎年、12月中旬に学部窓口へと提出します。遅れたら、学務は卒業論文を受理しません。締切厳守です。
私のゼミでは4年生全員が2万字以上の研究論文を執筆します。2万字というのは、原稿用紙で50枚です。小学校の読書感想文は、原稿用紙3~5枚でしょう。また、大学に入って学期末に書いてきたレポートは、2000字から4000字程度のものです。
つまり、卒業論文に取り組む4年生は、読書感想文の10倍、レポートの5倍の分量のものを、生まれて初めて書くことになるのです。
卒業論文の執筆でやってはいけない3つのこと
1 締切直前に寝ないでやっつける
「卒論大変だった~。締切前の3日、一睡もしないで書いたよ~」といって卒業式を迎える学生がいます。普通、2万字を3日で書くことはできません。たとえ書けたとしても、それは卒業論文ではありません。殴りタイピング(=殴り書き)された悲しき文字の集積物にすぎません。これが一番悲惨なケースです。
2 無自覚なコピー&ペースト
卒業論文を読んでいると、このアイデアはインターネット上のどこかの記事や論文をコピーして貼り付けたなという文章に遭遇します。まず、文章の構造やリズムが自分の文章と変わります。本人は気がついていないようですが、論文を読む方としては一発で見抜けます。
ただ、誤解をしてはいけません。論文というのは、「引用はOK」なんです。どこの文献のどの部分からの引用で、まずそのことを明記する。その上で、引用した文章に対して、自らの意見を述べていく。これは研究論文のスタイルなのです。分量が足りないからといって、適当な文章をコピーしてそれを貼り付ける、その行為で損をするのは、あなた自身です。
3 何も見ずに、思ったことを書く
自分の考えを書いているので、やっつけ論文や無自覚な引用論文よりはましです。ただし、思ったことをそのまま書くのは、卒業論文ではありません。卒業論文には、書き方の型があります。関連する先行研究を検討し、それに対する見識を述べなければなりません。卒業論文は、あなたの独創的な世界観を示す場ではないのです。
この3つは避けましょう。大学に通わしてくれた親御さんにあまりに失礼です。この3つは絶対にしないということを肝に命じた人に、次の2つのポイントを伝えますね。これを守れば、卒論で路頭に迷うことはなくなるはずです。
卒業論文の執筆ですべき2つのこと
1 執筆行程のスケジューリング化
手帳でもPCでもいいので、卒業論文の執筆行程をスケジュール化してください。私のゼミでは、12月中旬の締切に向けて、10月初旬に5000字提出、11月上旬に13000字提出、11月下旬に2万字を仮完成し、提出まで推敲を重ねる行程で行っています。
でもできれば、もう少し早くから取り組みたいですね。ただ、4年生の前期は就職活動でなかなか卒業論文に打ち込む時間を確保できないですよね。大学生活最後の夏休みは、バイトやインターンの合間に旅行に行ったり、友達と遊んだりして、あっという間に過ぎていってしまいます。
大切なことは、最低でも数カ月はかけて、文章を書き溜めていくことです。2万字以上の文章を書いていくと、今まではただの情報として素通りしていた事柄が気になるようになります。今、取り組んでいる文章に何か使えるのではないか、というひらめきが起きるのです。図書館や本屋にも通うようになり、関連書籍や文献を読み漁るようになります。
2 研究論文の型を模倣する
卒業論文は、関連する研究論文の型を模倣して書いていきましょう。いかなる研究領域でも、(1)問題関心、(2)先行研究の検討、(3)方法論の提示、(4)事例の分析、(5)事例の考察、(6)結論、の骨格からなります。このいずれかが欠落していると、卒業論文にはなりません。「ちょっと頑張ったレポート」で終わってしまいます。
一番の近道をこっそりお教えしましょう。「キーワード、(専攻領域)、pdf」 という検索をかけて、関連文献を見つけ出すことです。たとえば、「少子高齢化、社会学、PDF」とか、「組織経営、経営学、PDF」と打ち込むのです。より具体的なキーワードを選択すれば、さらに関連する文献を見つけ出すことができます。もちろん、これを英語で入力すれば、世界中の論文や専門的な資料にアクセスすることが可能です。そこで手にした関連文献の構成=型を徹底的に真似しながら思考を深め、分析を展開していくことが卒論執筆です。
卒業論文の執筆のコツについては
田中研之輔『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)に詳しくまとめてあります。読んでみてくださいね。
さて、卒業論文は誰のために書くのでしょうか? その答えはわかりましたよね。卒業論文はあなた自身のために書くのです。そして、大学まで通わせてくれた両親への感謝を込めて、製本した卒業論文をプレゼントしてください。きっと喜んでくれると思いますよ。
法政大学キャリアデザイン学部准教授、デジタルハリウッド大学客員准教授。博士(社会学)。1976年生まれ。一橋大学社会学研究科単位取得退学、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校大学院社会学研究科客員研究員を経て現職。著書に『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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