支え合う仲間とレギュラー争い 練習より過酷だった気持ちの切り替え
新体操のほっち(6)
こんにちは、新体操の坪井保菜美です。暑い日が続く毎日ですが、みなさん体調は大丈夫ですか? しっかりと水分をとるようにしてくださいね!
さて今回は、第6回目の連載となります。前回では、日本代表選抜団体チームのメンバーとして長期合宿がスタートした内容のお話をさせていただきました。家族と離れて生活することで学んだ、ありがたみや、初めてばかりの生活を共にし、支え合う「仲間」。今回は、この「仲間」について進めていきたいと思います!
試合に出られるのはたったの5人
私にとっての「仲間」
この環境に集まったメンバーとは、朝から晩まで同じメニューの練習をこなし、同じ家に帰り食事をする・・。家族以上の時間を共にしていました。これだけ一緒に過ごしていると、相手の表情一つで何を思っているのか、考えているのか、透けているかのように見えてきました。練習はもちろん、日常から常に相手の気持ちを伺い、気を緩めることなく生活をしていました。周りを見て行動できなければ成り立たない団体。自分のペースで行う個人との違い、団体ならではの難しさを知ったのです。
"仲間=ライバル"
仲良しこよしではない関係の「仲間」があるのだということを初めて知り、この関係性を保ちながら、息抜きの場が少ない生活というのはなかなか大変なものでした。私たちは当初、選手12人と3名のコーチで生活をしていました。ここで生活しているこの「仲間」というのは、実は "ライバル" でもありました。
なぜなら、団体として試合に出られるのはたったの5人。試合に出たい気持ちは皆同じ。そのためにここに集まっている。仲間と戦い、5つのレギュラー争いをしなければいけないこの毎日が、1日中練習することよりも私にとっては過酷だと感じたことでした。
コーチはよく、練習と生活は切り替えるようにと言っていました。練習で起こったことは、生活に持ち込まないようにと。例えば今日の練習で、団体特有の手具の交換技や演技練習の際、1人のミスが原因で、全員がその子に付き合い何度も繰り返し出来るまでやる。出来なければその日の練習は終わらない。体力的にも疲れてくるし、集中力も切れてくる。次第に雰囲気も悪くなっていく。どうしたら効率良く質の良い練習ができるのか、コーチはそれを自分たちで考えさせようとしていたのも知っていました。しかしまだ経験の浅い私たちは、ただひたすらダラダラと回数ばかりこなす意味のない練習を繰り返していました。
練習後、もちろん帰りは遅くなり食事やお風呂もいつも以上に遅れてしまう。反省ノートは遅くなったことが理由で書けないなんてことはあってはならない。こんな状況で生活の場面になった瞬間、いきなり明るく振る舞えるかといったらやはり高校生の私たちでは難しい部分もあった。
「帰りたい」「逃げたい」...支えになってくれたのは家族
過去には練習と生活面を上手く切り替えられない日が続き、メンバーから無視されること、ひとりになること、、ありました。当時は本当に苦しかった。自分がどんな状況でも、毎日同じように練習はやってきます。落ち込んでたり一人暗くては、団体として演技に支障をきたすだけ。自分自身がその場その場で切り替えていかなければ、ただ悪くなる一方。それが続けば代表としても必要とされなくなる。
中でも大変だったのは、曲が鳴れば私の気持ちがどうであれ、メンバー同士お互いに目を見てそして笑顔で踊らなければならないということ。観ている人に自分の気持ちなんて関係ない。どう切り替えたらいいのか、乗り越えるべきか、すごく悩みました。相談相手もいない。もちろんメンバーに心を打ち明けることなんてできなかった。悔しい気持ちと、苦しい気持ち・・。
そんな私の泣き言をいつも聞いてくれたのは、やはり家族でした。私にとって唯一本音で話せるのは家族だけ。どれだけ支えになったかわかりません。毎日泣きながら電話をしました。今思えば、遠く離れた場所で泣き声しか聞くことのできない親の方が辛かったのではないかと思います。
「帰りたい・・」「逃げたい・・」
それに対し母親は、「そんなに辛いのならいつでも帰っておいで。でもほっちゃんの今している経験は、誰もができるわけではないということ。すごいことをしているんだよ。自分が後悔のない選択ができれば、お母さんはどんなほっちゃんでも応援する。今は苦しいけど、これを乗り越えた先には今後人生を歩んでいく上で必ず宝物となるよ」。そう言ってくれました。私にとって母親が言う、この「宝物」という言葉にいつも励まされました。
あのときの涙がステップアップへの土台に
一度諦めてしまえば、もうこの環境へは二度と戻ることのできない場所だということ。逃げることは簡単。その後に残る後悔を背負って人生過ごすことの方が怖いと思えました。今の悔しさよりも、諦めた悔しさの方が何倍も大きいと。
自分はなんのためにここへ来たのか。何を目的としてここにいるのか・・。それは、世界を目指すため。オリンピックの舞台で踊る姿を家族に観せたいという当初の気持ち。この生活を通してありがたみを感じることができたからには、感謝を込めた演技で返したい。初心の自分を思い出しては、1日1日を必死で乗り越えていきました。
私は今、自分に言い聞かせている事があります。
それは、"自分が動けば 世界は変わる" ですっ!
今となってこの経験というのは、本当に宝物となっています。そう言い切れる今があることに幸せをも感じられます。あのとき流した涙は、これからのステップアップに繋がる土台にもなっているんです。気持ちの持ち方、考え方ひとつで人は変わるんだと実感しました。前向きな姿勢になる事で、周りの動きも変わります。反対に、諦める、逃げるといった行動をとる事で見えてくる景色というのもやはり自分次第で変わってくるのだという事。
今日の経験は明日に繋がる。同じように進む時間の使い方を少し意識するだけで、成長していけるのではないかと私も日々心がけている事なんです。自分の中で、on と offの切り替えスイッチをうまく使い分け、明日の自分が楽しみになるようなそんな楽しい時間を過ごして欲しいなぁと思います!
さて次回は、初心の気持ちを思い出し前向きに取り組んでいく中で、1番の理解者である自分との会話、また客観視についてお話ししていきたいと思います。今日もありがとうございました。それでは次回も続く私の連載、お楽しみに。
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