「ことばのシャワー」で未来が変わる
やる気スイッチを入れよう(22)
昨夜見たテレビドラマの主人公のセリフ、さっきまで雑談していた友達が言ったことば。私たちは、毎日、ことばのシャワーを浴びています。
この言葉のシャワーは、私たちのやる気に影響を与えています。
恋愛映画で恋する気分に、戦闘シーンで戦いモードに
映画を観たあと、しばらくの間、その映画の気分を引きずることがあります。例えば、恋愛映画を観たあとは、恋愛モードの甘い気分になり、戦闘シーンを観たあとは、戦いモードの攻撃的な気分になったりします。
こうした気分の引きずり現象は、映画のテーマや舞台設定の影響によるものもありますが、主人公が語るセリフの影響もあります。恋愛映画で語られる、「会いたい」「好きだよ」などの愛のことばや、戦闘シーンでの「突撃だ」「戦え」などの戦闘的なことばが、私たちの記憶に残り、気分や行動を左右します。
映画のセリフだけでなく、日常生活の中で読んだり聞いたりしたことばに、私たちは影響を受けています。厳密に言うと、ことばの意味に影響を受けるのです。
ことばで成果が変わる
ニューヨーク大学でこんな実験が行われました。大学生を、A、Bの2グループに分け、それぞれ7枚のカードを使ったことば遊びのゲームをしてもらいます。Aグループのカードには、「勝つ」「成功する」「努力する」「競う」「成し遂げる」「達成する」「打ち勝つ」ということばが書かれています。一方、Bグループのカードには、「牧場」「絨毯」「川」「シャンプー」「駒鳥」「帽子」「窓」ということば。ゲームをした後、今度は別のパズルを解いてもらうのですが、Aグループの学生の方が、パズルの成績が、明らかに良かったのです。
カナダのマギル大学では、ランニングマシンで運動をする実験が行われました。Aグループでは、隣のマシンの人が、「運動、大好き」「とても楽しい」「もっとやりたい」と言っています。Bグループでは、隣の人が、「運動、大嫌い」「お金がもらえるからやってるだけ」と言っています。すると、Aグループの大学生の方が、より強く運動し、心拍数が上がり、運動の時間も長かったのです。
脳が活性化する
私たちの脳は、あることばを読んだり聞いたりすると、そのことばが表す意味を察知し、その意味に当たる部分が活性化する、と言われています。
ことば遊びのゲームで、Aグループの学生は、カードのことばから、「達成」「努力」などの意味を察知し、その部分が活性化したのでしょう。活性化した状態のままパズルを解いたので、努力して高い成果を達成したのです。
ランニングマシンのAグループは、隣の人のことばから、「高いモチベーション」という意味を察知し、自分自身も高いモチベーションで運動した結果、心拍数が上がったり、長く運動するという結果になりました。Bグループでは、逆に、「低いモチベーション」の部分が活性化したのでしょう。Aグループに劣る結果となりました。
気づかずに浴びていることばのシャワー
私たちの日常でも、同じようなことが起こっています。しかも、それを自分では意識していません。実験に参加した学生は、実験の目的を知らされていませんでした。自分がカードや隣の人に影響を受けていると気づかないまま、パズルや運動をしていたのです。しかし、結果として、AグループとBグループでは、明らかな差がつきました。
自分が、毎日どういうことばのシャワーを浴びているかを、考えてみてください。いっしょにいる友達のことばは、どういう内容が多いですか。「○○って面白いよね」「◇◇って楽しいよね」という話が多い場合は、脳の中の「楽しむ」という部分が活性化します。すると、次の行動も、楽しむようになります。楽しんで行動すると、結果が出やすく、また毎日の気分の質も上がります。これが繰り返されると、明るい将来が開ける可能性は高まります。
一方、「やる気にならない」「つまんない」とひんぱんに言う人と一緒にいると、「やる気を低くする」という部分が活性化し、次の行動にも、やる気を出さずに取り組むことになります。結果が出にくく、毎日を冴えない気分で過ごすことになりますよね。こんな毎日が繰り返されたら、将来も暗いでしょう。
あなたもシャワーを浴びせている
これは、自分のことばが,相手に影響を与える、という逆方向の現象にも当てはまります。あなたが口にすることばが、まわりの人の行動に影響を与え、結果として、相手の将来を左右しているかもしれないのです。
言葉のシャワーを活用する
読んでいる本やマンガ、スマホで見ている記事や動画からもことばのシャワーが出ています。
ことばのシャワー効果を、活用しましょう。やる気を出したいと思ったら、主人公ががんばるマンガを読んだり、動画を見たりすると、自分では意識しなくても、やる気が上がる可能性があります。
ただし、脳の活性化は、ずっと続くわけではなく、時間が経つと弱くなり,やがてなくなります。定期的に、ことばの刺激を受けることが必要でしょう。また、ことばを発した人が、自分と同性であるとか、同じサークルであるなど、自分と共通点があると、ことばの影響力が強くなるという研究結果もあります。
今年は、ことばのシャワーを活用して、やる気スイッチを入れましょう。そして、まわりの人にも、あなたから明るく元気なシャワーを浴びせましょう。
<引用文献>
Bargh, J. A., Gollwitzer, P. M., Lee-Chai, A., Barndollar, K., & Trotschel、 R. (2001). The automated will: Nonconscious activation and pursuit of behavioral goals. Journal of Personality and Social Psychology, 81, 1014 -1027.
Scarapicchia, T.M.F., Sabiston, C.M., Andersen, R.E. & Bengoechea, E.G.(2013). The Motivational Effects of Social Contagion on Exercise Participation in Young Female Adults. Journal of Sport & Exercise Psychology, 35(6), 563-575.
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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