「あなたならできる!」~脳内メンターを持とう
やる気スイッチを入れよう(17)
自分一人で自分のやる気スイッチを入れるのはなかなか大変です。でも、自分の中に別の自分がいたらどうでしょう。
筆者には、現在大学3年生の娘がいます。先週の日曜日、居間でスマホをいじっていた彼女に、「掃除機かけてくれる?」と頼んだところ、「んもう! 今やろうと思ってたのに!」と腹立たしそうな返事。
やろうと思っていたことを人から「やれ」と言われると、やりたくなくなるものです。スマホをいじりつつも、心の中で「掃除機かけなくちゃなあ」と思っていたのに、母親から強制されて、一気にやる気ダウンというわけです。
やる気には、「これは自分で決めたのだ」という自己決定感が非常に大事です。人から言われたのではないという自由の感覚や、自分の力でいくつかの選択肢から選び取ったという自分の能力の実感が行動を引き起こすのです。
そうは言っても、なかなか自己決定できずに時間だけが過ぎて行ったり、そうしてぐずぐずするうちに、誰かに「やれ」と言われてイヤになったり、ということになりがち。どうすれば、自分で決めて立ち上がることができるのでしょうか。
脳内"お姉さん"に声をかけてもらう
現実の母親に「やれ」と言われると腹が立ちますが、例えば、脳内の架空の「メンター」が、とても上手に声をかけてくれたとしたらどうでしょう。メンターとは指導者、助言者という意味です。心の中に,メンターとして親身になってくれるお姉さん,またはお兄さんの存在を作り,声をかけてもらうのです。
同じ言葉でも、自分の脳内で言われれば、それは自分が言ったことと同じです。自己決定感がそがれることは少ないでしょう。例えば、「さあ、そろそろスマホをしまって、掃除機かける? やろうと思っていたんだものね」等と言ってもらうのです。
いわゆる「つぶやき」なのですが、自分で意識してつぶやくことが大事です。心の中でつぶやいてもいいのですが、この場合、声に出すとさらに効果アップです。声を出すという行為のそのものがやる気をあげますし、「今やろうと思っているからね。やれって言わないで」と、まわりにメッセージを発信することもできます。
脳内メンターは、現実のお姉さんやお兄さんではなく、自分で自由にイメージしましょう。その方が自己決定感が高まります。オモシロ系でも癒し系でもかまいません。お姉さん・お兄さんでなくても、脳内"彼氏"、脳内"彼女"、脳内"先輩"もいいですね。
「そろそろ」お姉さん
脳内メンターには、まず「そろそろ」と言ってもらいましょう。「そろそろ、レポートを書き始めよう。ずっと気になっているからね」「そろそろ、寝る時間だよね。もうすぐこのドラマ終わるから、そうしたらテレビを消そう」等です。「気になってるから」という理由を加えたり、「ドラマが終わったらテレビを消す」などの具体的な行動を加えると効果がアップします。
「そろそろ」の後に、お姉さんやお母さんが言いそうな言葉をいろいろとつなげてみましょう。「そろそろ、バイトに行く準備しなさい! ほら、ハンカチ持って、定期持った? 忘れ物しないように」「そろそろ、起きなさいね。ゆうべも遅かったから大変だけど。でも、今日の講義、遅刻したら、単位落としちゃうわよ」などなど。つぶやいてみると、だんだん気持ちがそこに向かっていきます。
「よしよし」お姉さん
「よしよし」と言ってくれるのも、脳内メンターならではです。いやなことがあって落ち込んでいる時に、ぜひ登場してもらいましょう。
「テストの点数が悪かったの? あらあら、あなたは昔から数学が弱いのよね。そんなに落ち込んじゃってかわいそうに。今日はもう早く寝なさい。よしよし」という、優しい系のコメントもいいですね。逆に叱咤激励するコメントもありでしょう。「まったく、こんな点数取って! しょうがないなあ。次はがんばれよ。お前ならできるはずだぞ」とか。
脳内ですから、自由に言ってほしいことを言ってもらいましょう。
調子がいい時は、そのやる気を維持し、できるだけ結果を出しておくことも大事です。脳内メンターに、いけいけコメントをしてもらいましょう。「サークル、がんばってるな! 自分だけじゃなくて、みんなのことも考えてるんだね。さすがさすが、その調子!」「レポート、もう3分の2まで書き上げた? すごいな。集中してるね。あと少しだからやっちゃおう」などなど、どこがどうよかったのかをコメントに入れると、さらにやる気アップにつながります。
また、思い切ってなにかにチャレンジするとき、脳内メンターに「あなたならできる」と言ってもらいます。「いよいよ本番だ。大丈夫、練習したし。昨日もうまくいったから、あの通りやれば、あなたならできるよ!」「大丈夫大丈夫、ちょっと厳しい先生だけど、今まであなたは叱られたことはないし。一生懸命話せばわかってもらえる。できるよ!」などです。 昨日もうまくいった、叱られたことはない等、なぜできると思うのかを付け加えるのがコツです。
セルフトークを活用する
こうした脳内でのつぶやきや、実際に声に出して自分に語りかけるのは、セルフトークと言われ、やる気が上がったり、成果が上がったりという効果が実証されています。スポーツ選手がよく、「絶対に勝つんだと自分に言い聞かせて試合に臨みました」というコメントをしますが、これはセルフトークの一例です。
わざわざ別の人格を作らなくても、「私ならできる」と自分を主語にしてもよいのです。しかし、「私ならできる」よりも「あなたならできる」とセルフトークをした方が効果があったという実験結果もあります。「私は練習した」と思うよりも、「あなたは練習した」という第三者のコメントの方が説得力を感じる場合もあります。自分に合った方法を試してみましょう。
別人格を作ってセルフトークをすると、ものごとを別な視点でとらえることができます。自然に、そのキャラが言いそうなことをイメージするからです。「定期持った?」等は、「あっ、そうだ、定期」と思い出すこともあるでしょう。
脳内に、架空だけれど、あなたを力強く見守ってくれる人がいると考えてみてください。お姉さん・お兄さん、彼氏・彼女、先輩などなど、自分がうまくセルフトークできるキャラを選びましょう。
これは、まったくお金も時間もかからず、自分一人で自由にできる、やる気アップの方法です。脳内の別キャラにメンターになってもらって、やる気スイッチを入れましょう。
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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