アルバイトをすると、大学へ行かなくなるのか?
人生を経済学で考えよう(15)
これを読んでいるみなさんの中にも、アルバイトをしながら大学に通っている方は多いと思います。ある調査によると、日本の大学生の内、アルバイトをしている人は7割以上に及ぶそうです。学生のうちにアルバイトをすることは、幅広い年齢の人と出会えたり、仲間ができたり、さらにはお小遣いも稼ぐことができ、非常に良い経験になると思います。一方で、アルバイトをすることは良いことばかりではないかもしれません。みなさんの中にも、アルバイトを理由に授業をサボってしまった、という経験が1度くらいはあるはずです。アルバイトにはいいこともありますが、それに夢中になりすぎて、授業に出なくなり、留年してしまった、などということが起きては本末転倒です。アルバイトをすると、学業に悪影響が生じるのでしょうか。
疲労増し睡眠時間が増加
海外研究では、大学生がアルバイトをすることによって学業に与える影響について、様々な研究がされています。1990年以降に行われた研究は、アルバイトをすることで生じるデメリットを強調した研究が少なくありません。例えば、アルバイトをすることでストレスなどの精神面に悪い影響を与えることや、ドラッグの使用率、アルコールの未成年飲酒などの問題行動を引き起こす可能性が高くなると指摘されています。
また、学生がアルバイトをすることで、勉強時間、睡眠時間、テレビを見る時間などにどのような影響があるのかを調べた研究も存在します。これらの時間は、最終的に学力に影響を与える可能性があるため、アルバイトと学力の関係を明らかにするためにも、重要な研究であると言えます。分析の結果、学校がある日においては、アルバイト労働は勉強時間を減らし、睡眠時間を増やし、テレビを見る時間には影響がないことを明らかにしています。アルバイトをすると、睡眠時間が増えるという結果は驚きの結果ですが、筆者らはアルバイトをすることで、学生の疲労が増し、睡眠時間が増加することに繋がっていると解釈しています。
今回、アルバイトが大学の授業の出席率に与える影響に着目して研究を行いました。「授業に出席する」ということは本当に大事なことなのでしょうか。大学の授業では、授業によって出席をとる授業ととらない授業があります。大学に行かなくても、テストの結果が良い人がいるということも事実です。しかし、海外の研究によると、授業の出席率とGPAの間には正の相関関係があることが明らかにされていますし、「講義型」の授業か「演習型」の授業かにかかわらず、出席率とテストの間にも正の相関関係があることがわかっています。
週16時間未満なら出席率に悪影響なく
それでは、授業にきちんと出席する大学生とはどのような人なのでしょうか。過去の研究によると、男性より女性の方が、高学年より低学年のほうが出席率は高いようです。低学年ほどモチベーションが高く、逆に上級生になると、友人とノートの共有などを行うなどして、授業に出席しなくなってしまうようです。また、人数が少ない小規模学級や、数学の知識が必要なコースや、専門的な講義を行っている授業の方が、出席率が高くなる傾向にあるということがわかっています。
私たちの分析でも性別や学年については同様の結果が示されていますが、それ以外にも面白いことがわかっています。それは、アルバイトの時間の長さです。週16時間未満のアルバイトは大学の出席率に悪影響はありませんが、それ以上時間になるとアルバイトは出席に悪影響があるということがわかりました。おそらく、週16時間未満のアルバイトをしている学生は、週2,3回のアルバイトを週末などに詰め込む人が多く、大学の授業に影響を与えないような働き方をしているということかもしれません。また、理系の大学生に絞ってみると、アルバイトと出席率は、時間によらず、直接的な関係が無いことがわかりました。これはおそらく、理系は出席を確認する授業が多いことや、実験・演習型の授業が多く、理系の授業の内容や規律が、学生が授業に出席する動機づけになっているのではないかと考えられます。
つまり、私たちの研究では、適度なアルバイトは授業の出席率に影響を与えないが、過剰なアルバイトは授業の出席率に悪影響があるということがわかりました。しかし、実際には、生活費や学費を稼ぐため、アルバイトの時間を減らすことができない学生もいるでしょう。しかし、大学生という限られた時間に、授業にでずに、留年してしまったりしたら、本末転倒ですから、こういった学生が申し込めるような奨学金制度などを検討する必要はあるでしょう。また、全体の7割を占める文系の授業は、学生が授業に出席するような教育の質の改善や動機付けは必要があるのは言うまでもありません。
(中室牧子・山本侑汰)
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