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人生の師となるミュージシャンとの出会い

数学×音楽=創造!(9)

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NIKKEI STYLE

人生で何かを決断するときには、「人」との出会いも大きな影響を与えることがあります。私は、大学卒業頃、数学と音楽でまだ色々と迷いがある中で、ある日先輩音楽家が出演するからと訪れたライブハウスにて、一人の素晴らしい音楽家に出会いました。その方のお名前は、本田竹広さん。

1945年生まれの本田竹広さんは、日本を代表する名ジャズピアニストであり、Native Sun というフュージョンバンドでも一世を風靡した方です。ジャズディスク大賞を受賞した「This is Honda」や鬼気迫る「Salaam Salaam」など、実に力強い名作が沢山あり、聴くたびに鼓舞されます。

その本田さんは1993年、97年と2度の脳内出血で倒れ、2度目の後遺症ではお医者さんより左半身不随を宣告されました。一時は周囲を含め絶望に陥ったそうですが、ピアノが大好きで仕方なかった本田さんは、入院していたリハビリ施設にたまたま置かれていたピアノと格闘する日々を始めました。音にならない音。思うように動かない指......。

音楽の「凄さ」に打ちのめされた

でも苦闘の日々を経て、1999年、本田さんは「奇跡の復活」を遂げます。かつては音楽界を我が物顔に闊歩されていた名ピアニスト本田さんは、色々なライブハウスに土下座をして弾かせてくれ、と頼み歩いたと伺ったことがあります。私が本田さんの音楽に初めて出会ったのは、そんな「奇跡の復活」から数年たった、本田さんが50代後半の頃でした。

復活当時、本田竹広さん(ピアノ)のレギュラーバンドは、米木康志さん(ベース)と本田珠也さん(ドラム)とのピアノトリオ。このピアノトリオの魅力たるや!素晴らしいものでした!絶妙な「あ・うん」の呼吸と、斬新なアレンジ、時に意表をついた素晴らしい展開... 少し抽象的な言葉になりますが、その頃の本田さんのライブは、文字通り、音楽と人間と生きることへの愛に溢れていました。

溢れ出るようにピアノを転がる奇跡の左手の指と共に力強くゴスペルのように大地に歌い響く素晴らしいピアノ。そして時には"What's Going On"を歌い出したり、突然「3だ!」と叫んで(?)踊り出したり、驚くような展開を見せてお茶目な笑顔がこぼれたり、お客様をじっと見て寄り添い声をかけたり。場が一体となり仕事帰りの聴衆も笑顔が溢れ、余りにせつない哀しみの音に思わず涙がこぼれました。

あぁこれが音楽か。鳥肌がたつような魔法と共に、ステージや音楽家等の敷居をこえて真っ向から生命と向き合い鳴り響くもの。音楽は喜怒哀楽を持つ「人間」が作るということ、そしてそれは音楽家のものだけではないこと、ということを私は本田さんから学びました。

音楽とは、小説や詩や映画、そして数学と同じように、人間・人生が作りだす生命の表現であること。そして、混沌とした人生と人生が絡み合う中で、即興的にinteractiveに(お客様も交えて)生まれていくジャズがいかに面白いものであるか、を肌で感じました。その音楽には、技術はもちろんですが、技術だけでは決して到達できない「人間」「心」の聖域が確かにあり、私は音楽と命の凄さ・奥の深さに打ちのめされました。

私は本田さんのピアノと音楽と人間にとことん魅惑され、「教えて頂きたい」と何度もお願いし、倒れた後はもう弟子をとらないと仰っていた本田さんからついに yes を頂きました。それからは、月に数回レッスンをして頂き、本田さんより「音楽とは何か」「魂のある一音を出すことはどれだけ難しいか」「練習とは何か」を学びました。

本田さんはとっても豪快でお酒も大変強く、独特の低いしわがれた声(私を「さっちゃん」と呼ぶ声が今でも耳に残っています)が素敵で、とにかくまっすぐ。PUREという言葉がぴったりの方でした。本田竹広さんは2006年1月に亡くなられましたが、私の人生の師である竹広さんが残して下さったすべての音楽・言葉・生き様は、私の中で大きな宝・軸となっています。

音楽は人生だ

今、私は、大好きな音楽だけでなく、大好きな数学や教育というさまざまな顔を持ち、繋げながら、自分の世界や他者・社会・世界との関係を模索しています。私が音楽をここまで愛する理由の一つは、本田さんの音楽に凝縮されるような「音楽の人間性」にあると思います。そして、全身の感性を開き全身の心を澄ますこと。究極までに一つ一つの存在を大切にすること。諦めないこと。大好きで仕方ないものや人間に対して愚直なまでに真摯に向き合うこと。そして、ジャズという実に人間的な世界の醍醐味。

本田さんが全身全霊で(おそらく本田さんご自身もさまざまな苦闘や時には失敗を重ねられつつも)生き様や音楽人生を通して届けて下さった珠玉の音楽・言葉にならない言葉が、まだまだ未熟で時に悩み迷う私をしっかり底から支えてくれています。

当時、本田さんのピアノトリオを見た帰り、やはり私が心の底から(音楽も人としても)大敬愛するベーシスト米木康志さんにかけて頂いた言葉も忘れられません。

「とにかくやり続けること。時に休んでもいいけど、やり続けていればいつか色々と見えてくる」

中島さち子
 1979年生まれ。1996年、日本人女性初の国際数学オリンピック金メダル獲得、翌年銀メダル獲得。大学時代にジャズに出会い、東京大学理学部数学科卒業後、音楽家の道へ。2010年中島さち子TRIOとしてアルバム「Rejoice」リリース。著書に『人生を変える「数学」そして「音楽」』(講談社)など。現在は音楽活動の他、Phoenix Consulting CEO室長として、グローバル人材育成支援に携わる。数学×音楽の講演・ワークショップ・執筆など幅広く活動。

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