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教養

大学院入試を欠席した日~自分を信じて一歩を踏み出そう 数学×音楽=創造!(8)

ジャズピアニスト・数学者・人材育成コンサルタント 中島さち子

2017/10/20

大学4年の夏、私は千葉県茂原市で開催された学生音楽祭に参加し、2つのバンドで演奏しました。この音楽祭はジョージ川口さん(ドラム)のような大御所をはじめとするプロ音楽家が学生に交じって演奏し切磋琢磨するもので、大学生にとっても大学に行っていない同世代の音楽家にとってもさまざまな出会いが交錯する青春の場となりました。

音楽仲間と海に行ったことも

この時、私は「バンド」の醍醐味を初めて本当に体験したように思います。野外ステージで 6名ほどの今もプロとして活躍する若き音楽家の中でWayne Shorter 等の楽曲に自由に向かい合い、即興のスリルと、答えがない世界の中の瞬間の美学と個と個の対峙が生み出す「今」という答えの面白さを、学生なりにも存分に味わうことができました。

また、私は常々コピーしたものをそのまま弾くのは好きではなく、コピーした歌には躍動感がないと思っていたのですが、田村陽介君(ドラム)と織原良次君(ベース)と私という個性が極めて異なる3人が組んだトリオでは、私にしては珍しく Ahmad Jamal を徹底研究しほとんどコピーする、という試みをしました。この日の演奏は普通のコピーとは全く違うものになりました。

大学院入試を欠席した日

数学科の友人たちと卒業旅行で数学ゼミ。日光で見ざる聞かざる言わざる

前回(「数学科だった私が東京大学ジャズ研究会で学んだこと」)でも少し触れましたが、Ahmad Jamal はトランペッター Miles Davis にも影響を与えた素晴らしい作曲家・ピアニストで、彼のアレンジは空間や音の「間」を非常に効果的に利用する、極めて興味深い美しさを持ちます。クラシック音楽が絶妙に深く計算された躍動する音楽であるように、Ahmad の音楽は本当にジャズ音楽家を魅惑する音空間の美に溢れた建築作品のようです。私は自由に溢れ出る即興の醍醐味だけでなく、作曲という要素がジャズ音楽に与える深みと醍醐味、そして「間(ま)」の美学もこの日全身で体験し学ぶことができました。

鳥肌がたつようなアンサンブルの瞬間を何度か確かに体験し、無限に広がる音楽の世界の魅力に取り憑かれた私は「もっと音楽を追究したい」と強く願い、数学科の大学院入試前日、散々悩んだ結果、少なくともしばらくは音楽に集中する決意をします。翌日私は大学院入試を欠席し、周囲に驚かれました。2002年の夏です。

東大数学科の卒業式で

数学者も音楽家も、ある意味では自分の中の美学を一生涯探究しようとするアーティストであり、共通する点もあります。が、小説や実際の世界の中でのさまざまな人間との出会いを経て、私は音楽という極めて「人間的」な世界にどうしようもなく惹かれている自分を発見しました。人生の岐路において、私の場合は、最終的に「自分の奥底の心の声を聞き、信じる」ことに賭けました。数学は今でも好きで探究していますが、私は結局、音楽という言葉を超えた表現がなければ生きられないと感じており、あの時音楽を選んだことに後悔はありません。

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