フェイクニュースと政治家の情報発信
実践デモクラティックラーニング(2)
「若者と政治をつなぐ」NPO法人YouthCreate代表の原田謙介です。自分が非常勤講師を務める岡山大学の授業「実践デモクラティックラーニング」の様子をお伝えするシリーズの第2弾。授業のエッセンスを学生とのやり取りも含めて書かせていただいています。授業の狙いは、「受講生自身が若者と政治をつなぐ担い手となること」と、「岡山を若者参画の進んだ街としていくこと」です。
講師は私と岡山大学地域総合研究センター助教の岩淵泰先生の2人体制です。岡山大学は4ターム制であり4月、5月の第1タームでは「民主主義とメディア」がテーマ。今回はフェイクニュースと政党・政治家のメディア戦略の2つのテーマでお伝えします。まずは、岩淵先生よりフェイクニュースに関しての話から始まりました。
フェイクニュースって知ってる?
岩淵 今日は僕の方からフェイクニュースについて扱いたいと思います。みんなはフェイクニュースって知ってる?
学生 文字通り嘘のことを発信するニュースと称する媒体の事ですかね。,
岩淵 昨年からフェイクニュースが増えている理由を深く探るために、藤代裕之先生の著作から一文を紹介します。
"ニュースの内容に責任を持つメディアと、場所の提供者であり流通を担うプラットフォームの境界があいまいになったことで、偽ニュースは拡大してきた。"
ニュース内容に責任を持つメディアというのは、前回のゲストである新聞社などがそれにあたる。では、プラットフォームってなんだと思う?
学生 Yahoo!とか!?
岩淵 おっ、正解。まさに大手として言えばYahoo!。元々はYahoo!はプラットフォームとして新聞やテレビが提供するニュースを掲載してきた。最近はその境界が少しずつ変化しいていて、自前での記事や個人がプラットフォーム上に独自に記事を書けるようになっている。そうなると世の中に出ている情報に対しての責任も変わっていく。
その後、フェイクニュースを扱ったニュース映像を少し鑑賞。昨年のアメリカ大統領選挙の際に、大統領候補などに関しての様々な「嘘」のニュースが飛び交ったこと。ヨーロッパのとある新聞社がインターネット上に掲載した動画がうその文脈とともに転用されていったことなどが紹介された。
フェイクと真実、どう見分ける?
岩淵 みんな、どう? フェイクニュース怖いなと思った人?
(学生のほとんどが手を挙げる)
学生 信じちゃいそうだし、見分け方がわからない。
岩淵 そうだね。何が正しくて正しくないのか、真実は1つだといっても、それもなかなか難しい社会にいるようだね。ジョージ・オーウェルの「1984」という本を知っている? これは、監視社会や全体主義に警鐘をならしており、主人公は、歴史の改ざんを仕事にしているのだけど、受講生はぜひ一読を。内容は、いつの間にか国の政策だとかプロパガンダに洗脳されてしまうという恐ろしい時代のことを書いた本です。また、大学の先生が言っていることだから必ず正しいというわけでもない。といっても、先生たちは100%ではありえないから、いろんな意見を吟味するために本や新聞をたくさん読む。
学生 簡単に見分けのつかないような、そして自分に都合の良い情報で選挙(の情勢)が左右されるのがどうかなと思う。
岩淵 政治の中に人間の情念がどれくらい必要なのかどうかという議論は次回に続けよう。クールヘッドがいいのか、パッションが必要なのか。でも、歴史が示しているのは、不安や恐怖で人をあおるような人の動かし方はどこかで崩壊する。これはヒトラーの事例を考えればわかると思う。
政治家のSNSを見たことある?
後半部分は自分が中心となり、政治関係者とメディアの関係性について考えるセッション。まず、以下の問いを学生に行った。問い「政党・政治家はメディア(マスメディア・インターネットなど)を通じて国民とどのような関係も持ちたいのだろうか?」
学生 (SNSなどを使い)市民と会話ができる。
原田 いきなり予想外のものが。でも、そうだね。情報の発信だけじゃなくて、情報の受け取りのツールとしてSNSの使用ができるよね。じゃあ、会話は何のためにやるんだろう?
学生 会話の反応をもとに、次に取るべき行動を組み立てていける!?
原田 政治家とSNSで会話したことある? あるいはフォローしてたり?
学生 両方ともないです。
学生 自分の言いたいことを言いたいだけ言える
原田 それはネットメディアのことだよね。情報量に制限がないから。
学生 演説動画をそのままインターネットに公開している政治家を見た。誰も見ないだろうに。
原田 上げておけば誰か見てくれる可能性はある。
学生 インターネットの発信では自分の良い面を出せる。テレビとかだと、政治家は非難しかされていないのかなと。
原田 なるほど、マスメディアは政治家を監視する役割があるわけだからね。
他の学生 でも、インターネットで何かを発信すると全力でたたきに来る人もいるから、発信しない政治家も多くいるのではないかなと。
原田 確かに、圧倒的な批判が嫌でTwitterをやってはいるがリプライなどの反応を見ない人がいるらしい。本来双方向型のものが、一方通行型のものでしかなくなっちゃているよね。せっかく誰もが見られる情報発信をしようとしている意欲を、変な叩き方で制限をしちゃっているかもしれない。他の意見ある?
学生 自分の思った通りに国民が動いてくれるようになることじゃないですか?
原田 なるほど。まあ結果的に自分に投票してもらうことが一つの目標としてあるもんね。
他の学生 できるだけ、自分は何もしなくて、メディアの力だけ利用して国民を動かしていくような。
他の学生 近いと思うのが、このまえ安倍さんが読売新聞のインタビューで憲法改正に言及していたこと!? メディアの影響力を使って、状況を変えようとしている。
他の学生 メディアに投げかけることでそこから議論を生み出す!?
原田 そうだよね。党や政治の内部の調整を超えて、うまく国民の関心を惹く形でメディアを通じて呼びかけることもできるよね。最近だと自民党の若手の議員たちが「こども保険」という新たな社会保証制度をマスメディアを通じて世の中に訴えていて議論を巻き起こしたりしているよね。
学生 マスメディアだと中高年層の読者(視聴者)が明確にいるのでしっかりと届きそう。
原田 確かに、ターゲットに明確に届きそうな感じはあるよね。
岩淵 たしかに、政治家は国民となんらかの繋がりを持つ手段を模索しているのはあるかな。昔、小泉純一郎さんが首相の時にメールマガジンを始めて、すごい数の購読者を持ったことを思い出す。
原田 ほかに出ていない視点としてあるとすると、マスメディアにより取材されることにより自分の正当性を高めるということもあるかなと思う。日々、取材されている首相とかは違うかもしれないけど、市議会議員の方とか。その方の得意なテーマでたまたま取材を受けたりすると反響もすごいし、そのテーマを扱っていることが大事であるかのように見える。
政治とメディアの関係
授業ではその後、いくつか政治家・政党のメディア戦略の具体策を話した。そのうちのいくつかを簡単にまとめておきます。2003年の衆議院総選挙の際に当時の民主党は「マニフェスト」とう概念を作り出した。ふわっとした選挙公約ではなく、しっかりとした数値目標などを入れたものを掲げようということを、政権与党であった自民党などにも呼びかけ、マスメディアが「マニフェスト」という言葉を好意的に報じた。
どれだけの影響があったかはわかりませんが、結果として民主党は議席を増やした選挙でした。また、2005年の総選挙。小泉総理がいわゆる郵政解散を行った選挙では、自民党が「コミュニケーション戦略本部」を作り徹底的な情報分析を行った。いろんな分析を徹底的に行って、演説での話の内容や服装まで党が各候補者に指示した。
また、2013年からインターネット選挙運動が解禁されて、候補者がマスメディアをはさむことなく自身の主張をリアルタイムで発信できるようになった。生放送番組を夜に配信したり、SNSで演説の様子を更新したりしていた。また震災の際の首長のSNSの使い方の事例をあげ、自治体の代表としての公式な発信として早く広く市民に届けている事例も紹介した。ちなみに、受講生の中に政治家のTwitterをフォローしている学生はいませんでした。
政治側の意図を知ろう
最後にこんなまとめを自分から伝えた。
原田 ここまでいろんな意見を出してくれたけど、当然何が正しいとか間違いとかではない。でも、当然政治家も自分の情念の方向に世の中が動いてほしいわけだから、どのようにメディアを活用するかを考えている。主権者の僕らとして、政治側の意図を少しかもしれないけど、知っておく必要がある
そして政治家の発信に対して受け身ではなく対応していきたいよね。特にSNSは気軽に政治家の発信を見ることができるから、自分の街のいろんな議員の発信を見ておくとかすると色んな情報が一気に入ってくるよ。また、なかなかリプライやコメントなどは行いにくいと思うけど、思い切ってやってみると一気に政治家が自分事になる。
授業終了後のコメントシートにはこんなコメントが届きました。
「そういえば、政治家のTwitterは見たことがないと気付きました。興味を持って探したら自分も政治に関われるのだとわかったので、まずはTwitterを見てみようと思います」
「政治家もSNSに積極的に参加できないと民主主義の姿勢から離れていくという話は興味深かった」
NPO法人YouthCreate代表。1986年岡山県生まれ 2012年、東京大学法学部卒業。在学中に国会議員事務所でのインターンを経験し、若者の投票率向上を目指した学生団体ivoteを発足、現在は「若者と政治をつなぐ」をテーマに、NPO法人YouthCreateの代表として活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。