大学と企業を採用をつなぐドイツの「デュアルシステム」
人事部長のひとりごと(24)
長年企業で人事に携わり、昨年から高知大学に移った中澤二朗です。私は先月、知人のジャーナリストに誘われ、ドイツとフランスの雇用事情について調べてきました。
今、日本では「働き方改革」が叫ばれ、先進事例として何かと欧米が引き合いに出されます。しかし私たちは、その実態をどれほど知っているでしょうか。私は1週間余りの滞在で、のべ16人にインタビューしました。その中から、ドイツの「デュアルシステム」、すなわち大学と企業の接続の一端をご紹介します。
ドイツの「デュアルシステム」
デュアルシステムとは、ドイツを発祥とする、学術的教育と職業教育を同時に進めるシステムのことです。今回は約6000名の学生を擁するマックス・ヴェーバー職業訓練校、デュッセルドルフ商工会議所、メーカーの人事責任者、そして実際に働く若者に話を聞いてきました。
ドイツの職業訓練校は500年の歴史をもっているといいます。今年は1517年の宗教改革から数えてちょうど500年。それに相当する長い歴史があるというのですから驚かされます。しかも訓練校と大学と企業の間を商工会議所がとりもっている。そんな体制が200年も続いているというのです。
さらには、このシステムはドイツに深く根付き、機能するとともに、そうした伝統を単に踏襲するだけでなく、常に訓練内容も更新されています。話を聞いた若者も、このシステムを肯定的にとらえているようでした。
私が訪問した職業訓練校はベルーフスコレーク(職業大学)と呼ばれ、高卒後、すぐ入る人もいれば、大学に入ってから通う人も多くいます。ただ、そこでカバーしていない分野や職種もあります。お会いした訓練校の3人の先生のうち1人は数学専攻でした。それに相当する職業訓練科目がないので、企業に入らず、教師を目指して今は訓練校にいるというのです。法学や文学も同様だとのこと。
洋の東西を問わず、企業のどの職種にも直結しない専攻の学生は、就職には一苦労しているようです。企業に入ろうと思えば、こうした「経済学部」に入るしか手はなさそうです。語弊をおそれずいえば、そこは、いわば"就職予備校"みたいなもの。教えるものは、マクロ経済学やミクロ経済学ではなく、人事・会計・購買・倉庫出荷管理等の実務知識や理論です。
大学と企業をつなぐシステム
訪問した職業訓練校の校長先生は、大学で経済学を専攻していました(経済学部の3~4割は職業訓練校に行く)。そこでしばらく理論を学び、その後職業訓練校に行って、そこから某セメントメーカーに派遣されました。経験した実務は経理・人事・販売管理・倉庫・出荷等。それぞれで2~3カ月を過ごし、都合2年9カ月にわたって経験を積んでいます。
就職の際は、こうして実務経験を積んだ職種から3つを選んで相手企業に申し出ができます。加えて、その申し入れ先が、実際経験させてくれた企業であれば、まさに相思相愛。大学と企業の円滑な接続がなされているというのも、納得できます。
欧州の若者失業率(25歳以下)は、日本の3倍に達するといわれています。そんな中にあって、ドイツやその周辺国で、低い失業率を維持できている背景には、こうしたデュアルシステムがあることを私たちは想起する必要があります。
しかし、その一方で、こうしたシステムが根付いていない日本にあって、なぜ世界的に見て、若年者失業率が低いのでしょうか(より好みをしなければ、新卒の誰もが就職できる有効求人倍率1.0以上)。判で押したように「新卒採用こそが諸悪の根源」と訴えていては、事の真相をとらえることはできません。自分たちの良いところを見つめ、その上でデメリットを克服する。そんな是々非々の姿勢こそが今求められているように思います。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。