就活に「失敗」はない 適職よりも天職を見つけよう
人事部長のひとりごと(14)
皆さんこんにちは。私は、日本経済新聞社等でワークショップ「ジローさんの迫熱教室」を行っている中澤二朗です。現役の人事部長ではありませんが、昨年まで大手企業の人事で部長をつとめ、今は高知大学の特任教授をしています。先日、就活で悩んでいる学生の相談にのる機会がありました。そこで交わした会話を紹介します。
適職と天職は違う
学生 就活が思うようにいきません。
私 就活は人によって事情はまちまち。よって、一般論で片づけるわけにはいきません。
ただ、それでも一つ。適職と天職は違うということは、是非、頭に入れておいて下さい。
学生 どういうことでしょう。
私 今、あなたのやっている就活は「適職探し」です。自分に合った仕事、身に付けた専門性に見合う仕事を探すのが目的だからです。
学生 「天職探し」ではないのですか。
私 いやいや、その二つは似て非なるものです。
突然ですが、マルティン・ルターという人を知っていますよね。1517年、ドイツで宗教改革を起こした、あのルターです。その彼が、こう言っています。「すべて仕事は天職である」、と。この世に存在する仕事は、すべからく、人の求めに応じて作り出されたものです。それが、例え、意に沿わない会社の、意に反した仕事であっても、そうです。
学生 理屈はそうかもしれませんが、でも、やる気がなければ......。
私 その通りです。むろん、仕事に向き合う姿勢が「前向き」であることが前提です。
すると、こんなことが起こります。その仕事が意に反したものであっても、必ずや生きがい感を感じることができるということです。誠心誠意、世の中に働きかける。すると、今度は向こうから、「ありがとう」の一言が返ってくるからです。それが、あなたに、"はり"や"はりあい"をもたらします。そして、いつしか、"やりたくなかった仕事"が"やりたい仕事"になっているから不思議です。
就活に「失敗」はない
学生 それでも私のように、就活が上手くいかなければ、メゲます。
私 確かにそうかもしれません。しかし、こうは考えられないでしょうか。その悔しさが、心がけ次第で、あなたの"バネ"になるかもしれません。就いた仕事はセカンドベストか、サードベスト。
しかし、だから余計に世の中のために、お客様のために頑張ろうと腹を決めればいいだけです。そうしたら、さっき言ったように、大きな生きがい感にひたることができる。すべての仕事が天職であれば、そんな皮肉な逆転が起こります。
学生 気の持ちよう、ですか。
私 否定はしません。が、理屈は通っています。いや、あきらめたところで、かえってへこむばかりであれば、この理屈に従った方が救われます。
いや、逆に、入りたい会社に入れた人を、思い浮かべてみるのもいいでしょう。
入ること自体が目的で、「何のために働くのか」を考えたことのない人は、入ってから苦労しているように思われます。
学生 私の先輩にもいました。良い会社に入ったのに、すぐ辞めた人が。
私 就活のこの時期、まずは適職探しに専念する。しかし、それと同時に、是非"天職意識"も磨いてほしいと思います。誰もが、入りたい会社に入れるわけではありません。適職に妥協は付き物です。でも、それが意にそぐわない仕事であって、すべてが天職であれば、後はあなたの心がけ次第。
働くとは、傍(はた)(周りの人たち)を楽(らく)にすることです。傍を楽にすることが、あなたの「働く」であり、その仕事を「通して」成長することがあなたののぞみであれば、そこに就活の失敗はありません。
(参考)拙著『働く。なぜ?』講談社現代新書
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。