ひらめきブックレビュー

意見合わない人とのプロジェクト 成功させる方法示す 『敵とのコラボレーション』

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複数の人が共に何かを成し遂げるには、コラボレーション(協働)が必要だ。これに異論のある人はいないだろう。だが、残念ながらどこにでも、気の合わない人、嫌いな人、信頼できない人はいるものだ。本書はそんな相手と一緒に何かを成し遂げるための、新たなコラボレーションの方法を提示した一冊。著者は、世界50カ国以上で、多様な人々と協働し、数多くの問題解決に取り組んできた世界的ファシリテーター。

■「合意なき前進」を可能にするストレッチ・コラボレーション

これまで、チームが協働するためには「目的に焦点を合わせる」「計画を立て合意を得る」ことが前提とされていた。だが、こうした「従来型コラボレーション」は、単純でコントロールされた状況でのみ可能であり、現代社会のように複雑でコントロール困難な状況下で適用することは難しい。そこで著者は、合意が得られないままで前進する「ストレッチ・コラボレーション」に光を当てている。

著者の関わった「デスティノ・コロンビア」というコラボレーションプロジェクトがある。1990年代、暴力がはびこっていたコロンビアで、国内の紛争や対立への解決策を話し合うものだ。軍高官とゲリラ、地主と小作農などの対立当事者に加え、学者やジャーナリストなど異質なメンバーがチームを組んだ。だが全員が所属する組織などを代表しているため、対話も成り立たず、相手の行動を変えることもできない。

幾度かの話し合いののち、チームは結果的に解決策を見いだせなかった。だが、これからどうなるのか、という可能性については意見がまとまった。これを「事態の放置」「交渉を経て妥結」「軍事的鎮圧」「相互尊重と協力」という4つのシナリオにまとめ、メディアや集会を通して国民に提示した。この複数のシナリオが、その後の数十年にわたり、コロンビア国民たちに自らの状況を理解する助けになり続けたのだという。

■「関わること」と「主張すること」両方が必要

結果的にコロンビアは内紛を終わらせた。デスティノ・コロンビアに関わっていた若手政治家ファン・マヌエル・サントスが大統領となり、「相互尊重と協力」を体現したのだ。著者は、このように、チームが1つのビジョンや計画に合意をしていなくても、物事を前進させることは可能だ、と強調する。ストレッチ・コラボレーションとは、コントロールできない状況に身を委ね、その都度対応しながら川を下るラフティングのようなものだ。

ストレッチ・コラボレーションには「関わること」そして「主張すること」両方が必要だと著者は説く。合意を求めない前進。価値観が多様化する現代社会にあって、この協働アプローチはますます重要になるだろう。

今回の評者=江藤八郎
 情報工場エディター。障害者福祉の仕事の傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームも兼ねる。ブログ「福祉読書365」管理人。東京都出身。

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