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平成末の閉塞感とらえた舞台 演劇回顧2018年

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冷戦とバブル経済の崩壊とともに始まった平成時代は、どんよりとした閉塞感とともに暮れようとしている。平成末を迎えた演劇界の1年を創作劇を軸に振り返ってみよう。

まず触れたいのは、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台である。「修道女たち」という作品はキリスト教の教団の物語かと思いきや、中世魔女狩りの「だまし絵」だった。善意の庶民が社会の同調圧力によって異端の迫害に加担する。「同調」の怖さは、忖度(そんたく)という加担によって顕在化する。1963年生まれ、ナンセンス喜劇を愛する劇作家はもうひとつの新作「睾丸(こうがん)」でも、平成の退廃をついた。半世紀前の1968年をふりかえる機運が盛り上がった今年、その光よりも闇に焦点を合わせる。性のモラル崩壊や戦略至上の金銭感覚が平成の拝金主義、勝ち組負け組の世の中を生む因果。この時代の居心地の悪さを個性派ぞろいの役者たちが体現していた。

創作劇の最前線、ロスジェネ世代がになう

創作劇の最前線は今、いわゆるロスジェネ世代(ロスト・ジェネレーション世代)がになう。バブル崩壊から10年ほどの間に社会人になった就職氷河期世代で、70年代から80年代初頭にかけて生まれた。彼らは経済成長の実感をもったことがなく、浮ついた夢は語らない。そんな世代から、ありのままの歴史を見すえようとする作劇が生まれたのは偶然でなかろう。

劇団チョコレートケーキは座付きの作家、古川健(78年生まれ)と演出家、日澤雄介(76年生まれ)コンビの連作「ドキュメンタリー」と「遺産」で、旧日本軍の細菌兵器開発をめぐる実録的ドラマを舞台化した。旧満州(中国東北部)の731部隊で開発にあたった科学者たちが人体実験をくりかえし、戦後は大学や企業の要職についた事実はNHKの取材などで明らかになっている。古川は史実に周到に寄り添い、科学者のおごりに光をあてた。「遺産」でとらえた科学者の陶酔は核兵器開発にも通じる倫理問題で、中国人女性や証拠隠滅のため遺体を焼いた部下の声には、ドキュメント・ドラマならではの力があった。

長田育恵(77年生まれ)は、第2次大戦の敗戦時、朝鮮半島に残留せざるを得なかった日本人妻たちを「海越えの花たち」で劇化した。「慶州ナザレ園」をモデルに、朝鮮人被爆者をもからめて重層的に描く挑戦的舞台だった(木野花演出)。逸話の詰め込みすぎではあったけれども、日韓のはざまに沈んだ女たちの声をよみがえらせた力作であった。青年座に書き下ろした「砂塵(さじん)のニケ」(宮田慶子演出)のように、汚濁にまみれた世界のなかでこそ輝く心の色を探りあてる作家であろう。

 演劇界のロスジェネ世代は、現代の事件や社会的できごとと向き合う姿勢も顕著だ。瀬戸山美咲(77年生まれ)はこれも青年座に書き下ろした「残り火」(黒岩亮演出)で、あおり運転による事故死を題材に被害者だけでなく加害者の家族の物語も書き込んだ。議会を解散した高知県の過疎の村を「埋没」でフィクションにした中津留章仁(73年生まれ)、3億円事件やグリコ森永事件を劇化してきた野木萌葱(77年生まれ)も、この列に加えられるだろう。

この世代のもうひとつの傾向は私的世界を深くなぞっていく内向性の舞台に現れるが、えてして「自分探し」の作劇はパターン化すると生気を失ってしまう。その点、岩井秀人(74年生まれ)が彩の国さいたま芸術劇場の高齢者劇団さいたまゴールドシアターで構成・演出した「ワレワレのモロモロ」は示唆的だった。高齢俳優の戦争体験などを探り、劇化することで私的世界を描いてきた作家の感性に歴史性が加わったといえる。蜷川幸雄が礎をつくった高齢者演劇の遺産は今年、世界ゴールド祭という国際的演劇祭にまで発展したが、高齢者のまなざしは、これまでにない劇の鉱脈を掘り当てるかもしれない。演劇祭でノゾエ征爾(75年生まれ)が演出したモリエールの「病は気から」では、高齢アマチュア俳優たちが生のエネルギーを爆発させ、客席を圧倒した。

新国立劇場の芸術監督に78年生まれの演出家、小川絵梨子が就任したのは、世代交代を強く印象づけるできごとだった。就任直前に同劇場で演出した「1984」はジョージ・オーウェルの反ユートピア小説を原作とした翻訳劇だったが、極端な同調社会の出現はAI時代への警鐘といえた。未来への危機感が強いのも、この世代の特質といえる。

その年を代表する舞台を生むことが強く期待される新国立劇場は、近年そうした評価から遠ざかっている。小川はこれから若い演出家を招いて長期的な集団創作を試みるという。劇場が創作の最前線に再び躍り出る刺激剤としてほしい。既成劇団や小劇場でも、この世代の演出家は活躍している。芸術監督の人材難を嘆く劇場関係者は多いが、新しい演劇の時代をひらくため、ともに汗をかくべき時期にきていないか。

メディアに対する劇作家たちの目は厳しく

メディアの内幕を描いた舞台が話題を呼んだことも自戒をこめて、記しておこう。やはりロスジェネ世代に秀作がふたつあった。ひとつは津島佑子の長女、石原燃の「白い花を隠す」(小笠原響演出)。昨年評判をとって早くも再演された。従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷をめぐるドキュメンタリー番組が政治の圧力にさらされ、スタッフが揺れ動くさまを家族のかたちのなかに描きだした。もうひとつは劇団温泉ドラゴンが上演した原田ゆうの「嗚呼(ああ)、萬朝報(よろずちょうほう)!」(シライケイタ演出)で、反権威の新聞社が戦争に熱狂する世相とどう向き合ったかを描いた。この主題ではベテラン永井愛が主宰の二兎社で「ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ」を作・演出し、記者クラブ制度を笑劇にしたてたが、メディアに対する劇作家たちの目はかつてなく厳しいと言わねばならない。

 年長世代の動向に触れておこう。静岡県舞台芸術センター(SPAC)の芸術総監督、宮城聡は核戦争後の荒野をいく放浪芸人の喜劇「寿歌(ほぎうた)」(北村想作)を鮮烈に演出。一方で、フランスのコリーヌ国立劇場に招かれカメルーンの作家レオノーラ・ミアノの新作「顕(あらわ)れ」(19年1月14日から、静岡でも上演)で賛辞を集めた。「ジャポニスム2018」が開かれたパリでは、野田秀樹作・演出「贋作・桜の森の満開の下」をはじめ多くの日本の舞台が上演されたが、宮城の存在はすでにフランスで根づき始めている。

創作劇では、朝鮮人BC級戦犯の張り詰めた日々を劇化した鄭義信作・演出「赤道の下のマクベス」、高橋源一郎のパロディー小説を奇怪な喜劇にした平田オリザ台本・演出「日本文学盛衰史」、劇団桟敷童子が集団創作し、東憲司が演出した昭和の濃厚な人間模様「翼の卵」、井上ひさしの遺志を継いで長崎の原爆の物語を書いた畑澤聖悟の「母と暮せば」(栗山民也演出)、サラリーマン劇作家を自称する中村ノブアキが働き方改革による職場の混乱を作・演出した「焔~ほむら~」を秀作として挙げておきたい。加えて、英文学者の河合祥一郎が作・演出した「ウィルを待ちながら―歯もなく目もなく何もなし」が研究者らしい入念さで、ベケットの不条理劇とシェイクスピア劇を接ぎ木した試みとして注目される。パーキンソン病で闘病中の別役実の144本目の新作「ああ、それなのに、それなのに」が、えたいの知れない平成末の気分を奇怪な豚コレラ事件にまぶして、健在ぶりを示したのはさすがだった。

ミュージカルでも創作の動き

劇場で聴いた福島の原発事故被災地の声は今年も忘れがたい。青年座が上演したいわき市在住の高木達作「ぼたん雪が舞うとき」は、被災直後の家族の現実を映しだしていた。また芥川賞作家、柳美里は福島県南相馬市で被災者たちの声をすくう演劇活動を開始した。原発の災禍については、今年活躍が顕著だった栗山民也が演出した翻訳劇「チルドレン」(ルーシー・カークウッド作)が次世代に橋をかける科学者の責任をつき、今年1年の創作劇と共振する成果を収めている。

興行の中心をになうミュージカルでも、創作の動きがあった。三谷幸喜作・演出、荻野清子音楽のコンビは「日本の歴史」(19年1月6日から、大阪・シアタードラマシティ)で、バラエティー・ショーの面白さを満喫させてくれた。黒沢明の名画を題材にしたホリプロの「生きる」(宮本亜門演出、高橋知伽江脚本・歌詞)は音楽のジェイソン・ハウランドとの共作が意外な成果を生み、帝国劇場の「ナイツ・テイル 騎士物語」(ジョン・ケアード演出)も、和太鼓の活用に可能性を示した。

(編集委員 内田洋一)

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