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変わる相続制度 預金の仮払い・遺産の使い込み… 大幅見直し、相続の法制度(7)

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2019/1/9

写真はイメージ=PIXTA
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これまで6回にわたり、民法改正に伴う相続制度の変更点を説明してきた。最終回は他にも知っておきたい重要な改正ポイントを紹介する。預金の仮払い制度、遺産分割前に処分された財産の取り扱い、法定相続分を超える不動産を取得した場合の登記についてだ。

◇  ◇  ◇

■遺産分割前に預金の引き出しが可能に

遺産分割がまとまらず、亡くなった父の預金口座からお金を引き出せなくて葬式代が準備できない──。こうした問題に対応する改正が「仮払い制度」の創設だ。

口座名義人の死亡を金融機関が知ると、その口座の資金は相続人の共同財産になり、遺産分割協議が完了しないと相続人単独では資金の引き出しはできなくなる。そのため、現状では遺族の手持ちの現金が乏しい場合は葬儀代や当面の生活費を賄うのに一苦労、となるケースも珍しくない。

そこで改正民法では遺産分割前でも共同相続された預貯金の引き出しができる制度として、(1)家庭裁判所の手続きを利用する方法(2)一定範囲内で、裁判所外での相続人単独での引き出しを認める方法──の2つが創設される。

比較的使い勝手がいいのは(2)。こちらなら、相続人各々が「口座ごとの預貯金額×法定相続分×3分の1」かつ「金融機関ごと法務省令で定める額」まで引き出し可能に。例えば相続人が長男と次男の2人の場合両者の法定相続分は2分の1で、遺産が預金のみ(1つの金融機関で1口座のみ)1000万円だとすると各人の相続分は500万円。各人引き出しできるのは、その3分の1の160万円程度ずつに。ただし「法務省令で定める額」が100万円台程度となるとみられており、だいたいこの水準で見積もっておくと安心だ。

■使い込んだ財産も相続財産に算入

要点だけでも押さえておきたい項目の一つに「遺産分割前に処分された財産の扱い」に関する改正もある。簡単に言うと、「父の相続財産を分割する前に、長男が父の財産を使い込んでしまった」などのケースに対応するものだ。

現状では、長男が使い込んだ分は遺産分割の際に相続財産としてカウントしなくてよく、分割時に残っている相続財産の中で分けることとなっている。すると相続人が長男と次男の2人という場合、長男が事前に使い込まなければ、分割時の次男の分け前はもっと増えていたことに。次男にとって不公平な状況が生じる。

今回の改正ではこの不平等を解消。遺産分割前に使われてしまった財産について、使い込んだ相続人本人を除く共同相続人全員の同意があれば、使い込んだ分も相続財産として見なした上で分割する扱いになる。ただし、「本当に使い込んだ財産があるのかの審理が必要となり、遺産分割手続きが長期化・複雑化する心配も指摘されている」(大和総研の小林章子さん)。分割前に使う必要がある場合は、記録を残すなどして混乱を避けるよう心掛けたい。

■登記をしておかないと共有になる恐れも

ケースによってはかなり重要になるのが、法定相続分を超えて相続した財産の扱いに関する改正事項。分かりやすい例を挙げると、本来法定相続分は5000万円分なのに、それを超える7000万円の評価額の不動産を相続した場合などの扱いだ。

これまでは、その超過分について、第三者(他の相続人から買い受けた人や債権者など)に、「これは私のものだ」と主張するための対抗要件(不動産の登記や自動車の登録など)の要・不要については、遺贈や相続など、その資産をどう取得したかによって取り扱いが分かれていた。例えば、「相続させる」という遺言によって取得した場合は、対抗要件は不要。特段、急いで登記をしなくてもよいとされていた。

だが、改正法では「財産の取得方法にかかわらず、全て対抗要件が必要」になる。つまり、法定相続分の超過分について登記をしていないと、第三者が「自分のものだ」と主張してきた場合に対抗できなくなってしまうわけだ。「不動産の場合、登記をしないでいると、ある時見ず知らずの人との共有名義になってしまうリスクもある」(小林さん)。

改正後は、こうしたリスクに備えて、相続人は遺言の効力の発生後(原則として遺言者の死亡時)、すぐに登記などの手続きをしておくことが大事だと覚えておこう。

小林章子さん
大和総研・金融調査部研究員。2014年司法修習終了(67期)、その後、15年大和総研に入社。弁護士(東京弁護士会所属)資格を生かし、相続関連を中心とする調査リポートを発表している

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2018年12月号の記事を再構成]

日経マネー 2019年2月号

著者 : 日経マネー編集部
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価格 : 730円 (税込み)


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