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介護に励んだ妻や親戚 相続人に貢献分を請求可能に 大幅見直し、相続の法制度(6)

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2019/1/8

写真はイメージ=PIXTA
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前回の「相続人の最低限の取り分 今後はお金で請求できる」では、遺留分をお金で請求可能になることを紹介した。第6回で説明する「特別の寄与」も重要な改正項目の1つで、介護に励んだ妻や親戚に報いるものだ。

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ここで紹介する「特別の寄与」に関する新制度は、今回の民法改正の中でも重要な項目の一つ。高齢化がますます進み、介護の必要が生じた時にどうするかという問題が社会全体で深刻化することが予想されるが、この問題に対応する同改正は多くの人にとっての関心事になりそうだ。

■介護の労力分を請求できる

長男の妻が在宅で義父母の介護を行うケースはよくあることだが、この介護の労に報いようというのが改正の趣旨となる。

現行では、相続人である長男自身が父(被相続人)の介護などに貢献してきた場合は、遺産分割時にその貢献を「寄与分」として考慮。これを相続分に上乗せする形で長男が多めに遺産をもらう方法が取れる。長男が介護に当たったことで父は介護施設費用などを負担することなく、結果その財産維持・増加に貢献(特別の寄与)したことが認められることが条件だ。

一方で介護をした人が長男の妻や親戚など相続人以外だった場合は、話は別。寄与分の制度の対象外となり、遺言がない限りはこの貢献に対する特段の相続財産の配分は考慮されない。

こうした点は不公平だとこれまで多く指摘されていたが、今回の改正ではここを改善。親族(特別寄与者)であれば、被相続人から見て相続人でない人でも、無償で療養看護(介護)などの労務を提供した場合、相続発生後に相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できることになる。もちろんこの場合も、被相続人の財産の維持・増加に貢献したことが認められる必要がある。

これまで、家族や親戚だからという理由で介護を任せ、その対価は曖昧になっているケースも多いのだろうが、この改正で介護が重要な労務の提供だと意識されることになりそう。「改めて誰に介護をしてもらうか、考えることの重要性が高まるだろう」と大和総研・金融調査部研究員の小林章子さんは話す。

■対象は一定範囲の血族と姻族

改正された制度を正しく生かすには、注意すべきポイントもある。まず、新設された特別寄与料(以下、寄与料)を請求できるのは「被相続人の相続人でない親族」が対象。親族とは民法上、6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(子の配偶者など婚姻によりできた親族)を指す。一般に考えられるのは、被相続人の長男の妻など子の配偶者、そして兄弟姉妹(相続人でない場合)、おい・めいなども寄与料を請求できる立場となる。

ただし法的な婚姻関係を結んでいない内縁の妻(事実婚)やその連れ子については、今回の改正では対象外。これまでの法改正の議論の中で「対象とすべき」という意見もあったようだが、見送りとされた。この点をどうするかは今後も議論が続きそうだ。

その他の注意点としては、寄与料を請求するには「無償で労務を提供した」ということを証明する必要があること。客観的に見ても、確かに介護を行ったと認めてもらえるよう、介護の記録を残しておく工夫が必要になる。例えば、介護日誌、手紙やメールなどのやりとり、交通費の記録や実費を負担した場合はその領収書などを残しておくのが理想だ。

なお専門家の見立てでは、寄与料は、もしもその介護を民間の介護サービスなどに外注した場合にかかる費用を基準に計算されると見込まれている。期待していた金額とかけ離れる結果になることもあるかもしれないので、大体の目安を付ける参考にしておこう。

また、寄与料が認められるのは「無償で労務を提供した場合」と前述したが、今回の改正では療養介護などの貢献が念頭に置かれている。現行制度にある寄与分制度で認められている「被相続人の事業などへの財産上の給付は対象にならない」(小林さん)ことは注意しておこう。

■夫死亡でも義父介護の妻にメリット

複数人の兄弟姉妹がいる中で、同居の長男の妻が父(妻から見ると義父)の介護に一人で当たっているというケースは少なくない。父の死亡時、相続でその労にどう報いるか。実際のところを専門家に取材すると、相続人の一人である長男の遺産の取り分を多めにするという対応策が取られているケースが多いようだ。

問題なのは、図のように母は既に他界し、父の死亡前(相続発生前)に長男が死亡してしまったという場合。長男夫婦に子供がいれば、子供が代襲相続人になれるが、いない場合は妻は相続人ではないため、父親をずっと介護してきた報いについて「上乗せ」できる対象がなくなってしまうことになる。

この場合、介護をしてもらっていた父親が遺言で長男の妻に遺産を残す方法があるが、それがない場合、長男の妻は「長年介護をしてきたことの報いが欲しい」と思っても、法的に主張が認めてもらう手立てがなかった。そこで、相続人でなくても介護による貢献を主張できる「特別寄与料」という制度が新設されたのだ。

高齢化がますます進む中、こうしたケースは今後も発生する可能性がある。介護に当たった人にとっては今回の改正は朗報となるだろう。介護の労力に報いる新制度の意義は大きいと言えそうだ。

小林章子さん
大和総研・金融調査部研究員。2014年司法修習終了(67期)、その後、15年大和総研に入社。弁護士(東京弁護士会所属)資格を生かし、相続関連を中心とする調査リポートを発表している

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2018年12月号の記事を再構成]

日経マネー 2019年2月号

著者 : 日経マネー編集部
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