相続人の最低限の取り分 今後はお金で請求できる大幅見直し、相続の法制度(5)

日経マネー

写真はイメージ=PIXTA
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法定相続人が最低限の財産をもらえるように定めた「遺留分」という制度がある。今回の民法改正により、この遺留分の扱いが変わる。第5回は、どのように改正されるのかを具体的に紹介する。

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「家事の手伝いを献身的にこなしてくれた家政婦さんに全財産を遺贈したい」。長男や長女というれっきとした法定相続人がいるにもかかわらず、他人に全財産を渡したいとの趣旨の遺言を書く例もある。また、家業を継ぐ長男に実家などのほとんどの遺産を相続させ、次男の取り分はごくわずか、という極端に不公平な配分を指示するケースもよくある話だ。

だがこうした場合も特定の相続人であれば、最低限の取り分はもらえることが認められている。これが「遺留分」という制度だ。たとえ遺言で遺産分けの内容が明記されていたとしても、相続人としての最低限の取り分は確保できる。

仮に長男と次男が法定相続人であった場合、「相続財産の全額を長男に譲る」というような遺言を残す可能性があるが、こうした場合でも次男は最低限の取り分をもらえる権利がある。ただし、遺留分権利者は法定相続人である配偶者、子(代襲相続人も含む)、父母等の直系尊属のみが該当。兄弟姉妹には遺留分はない 。

お金の請求でスムーズ化

今回、民法改正の一つに盛り込まれているのが、この遺留分の扱いについてだ。

例えば、次男が遺留分で認められる最低限の取り分が1000万円分である時、この1000万円分すらもらえない内容の遺言が残されていた場合は「遺留分が侵害された状態」と言える。遺留分が侵害された場合は、遺留分の権利を持つ人が贈与や相続を受けた人に対して遺留分を求める請求(遺留分減殺請求)、つまり「もらい過ぎた遺産の一部を自分に返してほしい」という趣旨の請求ができる。

これが遺留分の効力なのだが、現状では遺留分減殺請求をした時、返してもらえるのは「贈与や相続で取得した資産そのもの」という扱いに。「不動産でもらった場合は、同一の不動産で返還する」のが原則となり、その不動産の価値に相当するお金で返すというのは例外的な位置付けとされている。

ところが改正では、この取り扱いの抜本的な見直しが実現。改正後は、遺留分の権利を持つ人は、侵害された遺留分に相当する分の金銭の支払いを請求できる形式に変わる。これが「遺留分侵害額請求」で、不動産など、相続財産自体に対する物的な権利ではなく、それに相当する金銭的な「債権」を手に入れることになるのだ。

これまでは遺留分減殺請求を受けた際、返還すべき対象となる資産が複数人の共有物件であるなどのケースも多かったため、返還までのしかるべき手続きにてこずるケースも多々見られた。だが今後は、「手続きなどが簡単になり、スムーズに返還されやすくなる」(レガシィ・田川嘉朗さん)。遺留分を主張する人にとっては、これまでより権利を主張しやすくなるメリットが生じると期待する専門家は多い。

現金の準備が必要に

一方で、遺留分の権利に応じる側の人、つまりもらい過ぎた財産を金銭で返さなくてはならない立場の人にとっては少々困るケースも想定される。具体的には、取得した資産が不動産で、手持ちの現金が乏しい場合などだ。

こうしたことを配慮して、遺留分の返還に応じる人は、侵害額の支払いを一定期間猶予してもらえるように裁判所に請求できることとされている。ただし、いつまでも待ってもらえるわけではないので、ある程度の心の準備はしておく必要がありそうだ。また財産を残す側の人も、こうした改正を考慮し、そもそも遺留分を侵害した遺言にしない心配りが求められる。

生前贈与の算入は10年まで

この他、遺留分の改正に関しては、その算定方法の見直しも盛り込まれていることも合わせて心にとどめておきたい。遺留分(遺留分減殺請求の対象となる金額)を計算する際は、被相続人の死亡時に所有していた財産だけでなく、生前に贈与していた分も考慮してカウントするのだが、この対象期間も改正で変わる。

現行では、その贈与をどこまで遡ってカウントするかについて、贈与が相続人に対するものか否かで違う取り扱いに。相続人以外の人への贈与であれば、原則、相続開始前の1年間にした贈与に限られているが、相続人への贈与だと、特別受益(結婚資金など、被相続人から特別に受けた利益)に当たるものは、特段の事情がない限りは全ての期間の贈与が算入されることになっている。

この点に関して、改正後は算入される期間に「相続開始前10年」という範囲が定められるようになる。算入期間が限定されることになるため、生前贈与をしようと予定している人は、これを踏まえて早い時期から計画的に行うなどの工夫ができそうだ。

田川嘉朗さん
税理士法人レガシィ資産税・法人税務部統括パートナー・税理士。相続専門の税理士として25年以上、数多くの実務経験を持つ。専門は事業承継対策全般、資産家の相続事案、土地評価をめぐる税務争訟、税務調査事案における折衝など

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2018年12月号の記事を再構成]

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