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結婚20年以上の夫婦、贈与の自宅は相続財産とせず 大幅見直し、相続の法制度(4)

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2019/1/5

写真はイメージ=PIXTA
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今回の民法改正により、相続時における配偶者への配慮が手厚くなった。前回の「配偶者の死後、自宅所有せず住み続けられる新制度」では新設される「配偶者居住権」を取り上げたが、第4回は自宅の生前贈与に関する改正について説明する。

◇  ◇  ◇

「配偶者居住権」に加え、配偶者の権利拡大を配慮したものとして、結婚後20年以上が経過した夫婦に対しての自宅の生前贈与に関する改正もある。

例えば相続人である妻が、亡き夫から遺贈(遺言で贈与すること)や生前贈与によって個別に財産を取得した場合。これは「特別受益」に当たり、これまでは特別受益を得た相続人がいる場合、相続人間の公平感を保つため、特別受益の分は一旦相続財産に持ち戻してから、各相続人の取り分を計算するのが原則とされていた。

だが改正後は、結婚後20年以上の配偶者に対する自宅贈与であれば、この分は相続財産にカウントせず、切り離して扱うことを原則とする、と変更される。結婚20年以上の配偶者に限って、自宅贈与の扱いが有利になるのだ。タクトコンサルティングの本郷尚さんは、「夫亡き後の妻の生活を守るという目的であれば、活用を検討してみたい改正内容」と話す。

■自宅を遺産から切り離し

夫が死亡し、その相続人が妻と長男だった場合の図の例に当てはめるとイメージしやすい。

事例は、(1)妻への生前贈与が自宅2000万円分(2)夫の死亡時の相続財産が預貯金4000万円、という前提の相続。この場合、現行では相続発生時の夫の相続財産は夫が妻に生前贈与した2000万円もカウントされて合計6000万円に。これを相続人である妻と長男と法定相続分である2分の1ずつ分けると、各人の分け前は3000万円分に。妻は既に2000万円分の利益を取得しているので、相続時に新たにもらえる分は預貯金の1000万円分だけということになる。

一方、改正後は生前贈与の自宅2000万円分は夫の相続財産に加算されず。そのため、相続発生時は4000万円の預貯金を2分の1ずつ分けることになり、この時に妻が新たにもらえる預貯金は2000万円に増えることになる。

つまり生前贈与か遺贈によって妻に自宅を引き継がせておけば、遺産分割の対象から外すことが可能に。妻が自宅を手放すことなく、より多くの生活資金を確保する相続が実現できるわけだ。

■子供の税負担の配慮も大事

ここまでの話はあくまでも遺産分割で妻がより多くの財産を得ることを狙いとした方策。注意したいのは税金の負担だ。

特に一定以上の遺産がある世帯では、夫死亡時の1次相続だけではなく、その後に妻が死亡した際の2次相続のことまで気を配ることが重要。子供世代の税負担が重くならない配慮も求められる。今回の民法改正に伴う相続税の扱いは未定で今から具体的な比較はしづらいが、心には留めておきたい部分だ。

考え方としては、夫、妻、長男、次男の4人家族の場合、夫死亡の1次相続では相続人は妻と長男、次男の3人。ところが妻の死亡時は相続人は2人に減る。妻の遺産を2人の相続人で分けることになるので、1次相続で妻に遺産を残し過ぎると、相続人の数が減る分、各人の税負担は重くなることに。世帯によっては、1次相続で先に子供たちに多くの遺産を移転させた方が税負担の総計が少なく済むケースも発生する。また、家族によっては夫から妻への自宅の贈与に賛成しないケースも考えられる。トラブルの火種にならないよう慎重な判断が必要だ。

本郷尚さん
税理士法人タクトコンサルティング会長・税理士。相続、贈与、事業承継、土地活用、財産管理を中心とした資産税専門の税理士。講演・執筆等でも各方面で活躍中。著書は『相続の6つの物語』(日本経済新聞出版社)など

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2018年12月号の記事を再構成]

日経マネー 2019年2月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


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