視野角を広げた技術をソニーは「X-Wide Angle」と呼んでいるるのだが、これは「光をディスプレー表面まで導く技術の総称」(ソニー担当者)とのことで、実は、技術的な詳細は明かされていない。とにかく、ソニーはディスプレーパネルに光をうまく拡散して導く技術を組み合わせることで、VA液晶の欠点を解消したのである。

Z9Fは液晶なので、有機ELほど黒が純粋な黒にはならない。しかし、色の変化の自然さでは、高品質なバックライトを組み合わせた液晶の方が有利な部分があり、さらに「ピーク輝度の強さ」でも液晶の方が有利だ。視野角問題を解決することで、ソニーはあえて「ハイエンドに液晶を残す」選択をしたのである。これは、他社とはかなり異なる戦略だ。

液晶併存は「米国市場」のため

一方、ソニーが液晶を残したことには、明確な理由もある。そして、その理由はどちらかといえば「米国市場向け」の事情だ。

兄弟機とはいうものの、有機ELのA9Fが55型・65型のサイズ展開なのに対し、液晶のZ9Fは65型・75型の2サイズ構成と大きい。米国では75型以上の需要が明確に存在するためだ。

有機ELでは現実的な価格で大きなサイズのパネルを用意するのが難しい。だからこそ、「サイズ重視」のラインとして液晶を使いつつ、コントラスト重視の顧客には有機ELで、という使い分けが出てくるわけだ。実際、同じ65型で比較すれば、価格はA9FよりZ9Fの方が安くなる。

ソニー以外の国産テレビメーカーは、もはや世界の市場ではほとんど戦えていない。パナソニックはB2Bにシフトし、AV機器は日本と欧州を中心に、比較的小さな市場に落ち着いている。シャープは復活しつつあるものの、海外展開の立て直しはこれから。東芝(REGZA)はハイセンス傘下となり、日本を中心としたビジネスになっている。米国市場向けに、有機ELでカバーできない大型ハイエンド機種を展開しなくてはいけないのは、今では日本メーカーの中ではソニーだけになってしまったのである。

西田宗千佳
 フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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