悩みまくった、理系女子大学院生のシューカツ
発信! 理系女子(13)
みなさん、こんにちは。東北大学サイエンス・エンジェルの滝沢翠里です。読者の皆さんの中には、3月から就職活動をスタートさせた方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は4月から社会に出る私が就職先を決めるまでに悩んだ経験についてご紹介したいと思います。
中学生のころから理科が大好きだった私は、高校受験の際に迷わず理数科を選択しました。進学先の高校での理系科目も面白く、大学・大学院ではそのまま理系の道を進み、工学を専攻しました。この間、人文科学、経済学や社会学に興味を持ったことはあまりなく、社会問題や国際情勢にも疎かったように思います。
そんな私に転機が訪れたのは、大学院修士1年の時に経験した交換留学でした。留学先はデンマーク。高福祉高負担という独自の社会システムを築き、教育費は小学校から大学院まで無料。国民満足度は世界トップクラスで、世界一幸福な国との呼び声が高い国です。そんな国での1年間の生活は、それまで理系の殻に閉じこもっていた(?)私の価値観を大きく変えてくれました。
デンマークでの出会い
留学中は、他国からの留学生と共に大学の寮で生活していました。9人でキッチン・トイレ・バス等をシェアするフラットだったので、自然とフラットメイトと仲良くなります。
そんな環境で何気なく談笑していたある日、1人の友人がこんなことを私に尋ねました。「日本では、勉学や仕事の面で性別によって有利・不利に働くことはあるの?」と。私はとまどいながらも、「働いたことはまだないからわからないけれど、勉学では絶対にないよ」と答えました。するとその友人は、「そうなんだ。自分の国では女性が勉強したり働いたりすることは好まれていないから、自分の姉妹も学校に行っていないんだよ。」と教えてくれたのです。
文化的な背景から、性別により生活に違いがある国・地域もある、というのはなんとなく知っていたことでした。ですが、デンマークに何カ月か滞在し、誰にでも平等に勉学の場が解放され、性別で個人の能力を判断しない社会が"あたりまえ"なのではと思い始めていた私にとって、生まれた環境によって世界が広くも狭くもなる社会は理不尽に感じられ、解決されるべき問題だと感じたのです。
進路を模索した1年間
留学前は、漠然と専攻を生かせる職業に就ければいいかな、と思っていました。ですが、友人との会話の後からは、国・地域間の格差や、国内外の社会問題の解決に貢献できるような職を探したいと考えるようになりました。工学部を卒業し、大学院まで理系な私が、まさかのここから文系職に就くのか!?と思うこともありましたが、自分のやりたいことに正直に生きていきたいと思いましたし、それができる環境も恵まれているのだと思うようになりました。
そんな中、もう1つの転機が訪れます。それは、とある授業と1人の学生との出会いでした。授業は、これまでに習得した専門知識を総動員してまとめあげるプラント(いわゆる工場)内部のプロセスの設計プロジェクトで、これまでの大学・大学院での学びが実際に産業でどのように生かされるかを実感できる内容のものでした。
留学中、いや、これまでの学生生活で一番大変なプロジェクトでしたが、やりがいがあり、終わった後には大きな達成感がありました。この授業によって、文系から再び専門分野に魅せられた私は、再度進路選択に悩みます。両方ともやりたいのに、職業が違いすぎて選べない!いったいどうすれば...?
このとき、悩む私にヒントをくれたのが授業で出会った1人の学生でした。彼女は、医療機器メーカーで働きながら大学に通い、それでいて3児の母親でした。ある時、どうして働いているのにまた大学に通っているのか、育児との両立は大変ではないか、と聞いたことがあります。
それに対する彼女の答えは、「勉強は、働いていてまだまだ知識が足りないと思ったから大学で学んでいるのよ。育児は、確かに子供が小さい頃は大変だったけど、今は子供達もみんな小学生になって、自分のことは自分でできるようになったから、仕事も勉強も家庭も全部楽しめているわ」でした。
これを聞いて、私はなんだか肩の荷が下りたように感じたのです。それまでは、"どちらかを選択しなければいけない"と感じていましたが、その話を聞いた後は、その時々で自分がやりたいことをやっていけばいい、とりあえずやってみて、しっくりこなかったり、他にやりたいことが見つかったりしたら、そのときはジョブチェンジすればいいんだ、と思えるようになりました。
就活で大切にしていたこと
結果として、私は専門分野を活かせる理系職を選択しました。それは、やはり理系の知識を生かし、その分野でさらに成長したいと思ったからです。ただ、幸運にも仕事を通して発展途上国の経済成長を支えられるような事業を展開する会社から内定を頂くことができました。当初は全く違うように思えた2つの分野でも、それらが少しでも重なる領域を見つけ出せたことはうれしかったですし、理系の知識・技術を通して社会が抱える問題を解決していけることにワクワクしています。
皆さんも、"就活"と言われると、「人生を決める選択だ!」と思ってしまうかもしれません(実際にそういう場合もあると思います)が、もっとキャリアに柔軟に、自分のやりたいこと、興味があることを大切にして職業を選択することも考えてみてはいかがでしょうか。
(東北大学工学研究科修士2年 滝沢翠里)
次世代の研究者を目指す中高校生に「女性研究者ってかっこいい!」「理系って楽しい!」という思いを伝えるため、2006年に結成。東北大学の自然科学系10部局に所属する女子大学院生が、中学・高校での出張セミナーや科学イベントで科学の魅力と研究のおもしろさを伝えている。メンバーは宇宙・自然・ロボット・環境・ヒトや動物の身体のしくみなど、それぞれの専門分野で日々研究中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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