ぎゅうぎゅう詰めの説明会 日本企業、研修制度に魅力
中国人留学生シューカツ体験記(1)
皆さん、初めまして。中国から来た曹志遠です。2012年に来日し、日本語学校を出て日本の大学に進学、そして今は日本での就職が決まっています。この連載では、日本での大学生活や就職活動などの経験を皆さんに伝えていきたいです。
私の故郷は中国・上海です。日本から飛行機で約3時間で行ける都市です。上海、東京、ソウルはアジア三大都市と言われています。2000年代以降上海が急発展し始め、日系企業もそのチャンスを狙い、次々と拠点を置きました。その影響で上海は空前の日本語ブームが起きました。町中で日本語教室が開かれ、テレビでも日本語のアニメ番組が増える一方でした。そんな中で、私は日本という国を知り、日本語に興味を持つようになりました。
2012年、東日本大震災が起きた後、私は日本に留学することを決めました。もちろん、親から猛反対されました。同年10月、日本で第一歩を踏み出しました。最初の1年間は京都にある日本語学校で日本語の勉強をしていました。その後外国人留学生向けの大学入学試験を受験し、無事大学に進学することができました。
日本の大学、多彩なイベントに特徴
初めて大学に入ったときはまるでハリーポッターがホグワーツに入ったように喜びと不思議でいっぱいでした。私の大学には2つのキャンパスがあり、1年生の時は山の奥にある東京で一番広い面積を誇ったキャンパスに通いました。そのキャンパスで見た山一面を覆う山桜は人生で見た一番きれいな景色と言っても過言ではありません。
日本の大学と言えば、学園祭やボランティアなど多彩なイベントがあるのが特徴です。入学後、私はすぐサークルに入部しました。それは110年の歴史を持つ中国研究会というサークルでした。毎年6月と10月の学園祭で模擬店を出店し、研究成果を発表して、先生に評価してもらっています。さらに、毎年11月に開催される語劇祭で中国語を使った劇を披露することが大きなイベントでした。
学生の楽しむ姿が印象的
4年間日本の大学生活を体験して来て、一番感じたことはみんな一人ひとりが楽しんでいるということです。授業も学園祭も日本人学生の生き生きとした姿は私にとって一番印象深かったです。中国の大学では常に勉強を重視し、学園祭はおろか、学内のイベントもほとんどありません。そういう意味で、日本で大学に通ったことが私の人生の中で大切な宝物です。
『鳴神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ』
『鳴神の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば』
―「万葉集」
これは私の大好きな日本語の詩です。始めてそれを聞いたのは新海誠監督の「言の葉の庭」という映画でした。映画の中で万葉集の柿本人麻呂が詠んだ歌が使われているのですが、1300年前に詠まれたとは思えない程、純粋で切ない気持ちが手に取るように伝わってくる色褪せない歌でした。万葉集などの昔の日本語は中国語と同じように声にした時の音の響きが綺麗だなと思います。
この世の中では漢字を多く使用している国は日本と中国のみです。日本語は漢字以外ひらがなとカタカナもあり、その独特な書き方と発音は私にとって魅力的であって、それを探求するために日本に来ました。
大学3年になると、必ず直面する問題が卒業後の進路です。外国人留学生の場合は国に戻って仕事を探す人もいますが、日本で就職したいという学生も多いです。そうなるとその学生たちも日本人学生と同様に就職活動に参加しないといけません。
初めて日本の就職活動イベントに参加した時はその規模に驚きました。様々な企業がブースを出して、通りかかる学生たちを呼び込んで、まるで学園祭にいたような錯覚を持ちました。各企業は自社の強みを多くの学生に訴えようと、できるだけ多くの学生がブースに入れるよう、ぎゅうぎゅう詰めにしていました。私は窮屈な態勢で企業の説明会を聞きました。いいのか悪いのかわかりませんが、これも日本の文化っていうことでしょうか(笑)。
日本企業でスキルアップ
日本は少子高齢化が進んでおり、労働力が極端に足りない窮境に陥っています。労働力を補う方法として、外国人労働者を雇用することが挙げられます。しかし、中国人留学生の場合、近年母国が急速な発展を遂げ、多くは母国に帰って仕事を探すようになりました。つまり、中国人留学生の「人材流出」が起きているのです。
そうしたなか、私がなぜ日本で就職を決めたかと言いますと、日本の多くの企業には人材を基礎から育成し、一人前まで育てていくシステムがあるからです。誰でも最初に仕事についたときはわからないことが多いのですが、新人研修や社内研修が大きな役割を果たしてくれます。こういった研修制度は恐らく日本だけだと思います。この制度をうまく活用することで、自分のスキルアップにも繋がると思い、日本での就職を選択しました。
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