職場の論理とは一定の距離を意外と知らないバイトの常識(4)

法政大学キャリアデザイン学部教授 上西充子

法政大学キャリアデザイン学部教授 上西充子
2017/5/26

アルバイトを続けていく中で、皆さんは職場の論理に巻き込まれてしまいがちです。責任感がある人ほど、また仕事に誠実に取り組んで手ごたえを感じている人ほど、職場の論理と自分のものの考え方が、重なりがちになるのです。そのため意識的に、一定の距離を置いてみることが大切です。

シフトはなぜ断りにくいか

アルバイトのトラブルとして、もっともよく見られるのが、シフトをめぐるトラブルです。厚生労働省が行った調査(※)では、大学生らが経験したアルバイトのトラブルのトップは「採用時に合意した以上のシフトを入れられた」で、「一方的に急なシフト変更を命じられた」が続きます。3番目は「準備や片付けの時間に賃金が支払われなかった」、4番目は「採用時に合意した仕事以外の仕事をさせられた」、そして5番目に再び「一方的にシフトを削れられた」と、シフト問題が出てきます。

(※)厚生労働省「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」(2015年11月9日)

合意していた以上のシフト入りを求められても、それに従う義務はありません。労働条件は合意に基づいて決まるため、労働契約で決められた曜日・時間以外に追加で働くかどうかは、あなたの自由な選択にゆだねられているのです。「次の土曜もシフトに入ってほしい」と言われ、たとえその日に何も予定がなくても、シフトに入るか、自分の時間を過ごすかは、あなた次第です。

けれども実際には、「シフトに入ってほしい」と言われると、「断りにくい」と感じるでしょう。なぜそう思うのでしょうか。私は授業の中でアルバイトのトラブルを取り上げていますが、学生の皆さんが「断りにくい」と考える理由は次のようなものです。

(1)バイトという立場だから、逆らえない
(2)断ると、お店が回らなくなる。同僚や店長に迷惑をかける
(3)断ると、職場の人間関係や雰囲気を悪くする
(4)断ると、店長さんに目をつけられ、シフトの希望が通りにくくなる。居づらくなる

意思決定の主体としての自分/交渉の主体としての自分

このうち「(1)アルバイトという立場だから、逆らえない」では、日々の業務において指揮命令に従うことと労働条件の変更とが、ごっちゃになっています。日々の業務において職場の上司の指揮命令に従うことは、確かに必要です。「じゃあこれ、片づけておいて」とか「次は洗い場、お願いね」とか、細かな指示は日常的に行われるでしょう。

他方で、いつ働くか(労働時間)は、使用者が勝手に指示できるものではありません。それは大事な労働条件であり、労働契約において合意して決めるものだからです。「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきもの」(労働契約法3条)であり、労働契約の締結における両者の関係は対等です。使用者が上でバイトの自分は下、という関係ではありません。

とはいえ「逆らえない」と思う人にとっては、「ともかく店長さんに逆らうとか、無理」と思ってしまうのでしょう。「これまで目上の人にNOと言ったことはない」という声もありました。

けれども逆らわないことは、得策でしょうか。逆らわずに従っていれば、さらに無理難題を押し付けられていく可能性があります。給与だってごまかされるかもしれません。販売ノルマをおしつけられて、「達成できないなら自分で払って」と求められるかもしれません。なんでも言うことを聞いてくれる労働者がいれば、そりゃ、使用者は楽であり、その従順さにつけこみたくなるでしょう。

ですから、使用者の要求がどんどん過剰になっていくことを防ぐためには、自分の意思をはっきりさせて、断るべき局面ではきっぱりと断るという姿勢が必要なのです。もっとも「ここは要求を聞くかわりに、こちらのこの要望も聞いてもらおう」など、交渉のプロセスがあってもよいでしょう。

これまで誰にも逆らったことがないという人も、自分の意思を示す、断るべきときには断る、という姿勢を、この機会に身につけた方がよいでしょう。そうでないと、どんどん要求を押し付けられるだけでなく、自分の気持ちの上でも追い込まれて行きます。「仕方がないんだ」「我慢しなきゃ」と思い続けながら働くことは、あなたの学生生活を損なうだけでなく、あなたの精神的な健康も損ないます。

アルバイトなら、「我慢の限界が来たら、辞める」という選択肢もあるでしょう。けれども、就職後も同じような状況に追い込まれたら、どうしますか。「辞めたあと、どうしよう......」と考えると、辞めることにも踏み切りにくくなるでしょう。だからといって、就職後に我慢に我慢を重ねながら働いていると、それこそ過労死といった悲劇がその先に待っていないとも限りません。

ですから、勇気が必要であっても、今、自分の意思を示す経験を積んでおくことは、その後の社会人としての生活に向けても、大切なことなのです。たとえ自分の意思を示した結果がうまくいかなくても、「言えた」ということは自信になるでしょう。そして「言えたけれど、うまくいかなかった」ならば、なぜうまくいかなかったのか、どうすればうまくいくのかを、みずからの実体験をもとに考えることができるようになるでしょう。

お店を回すのは誰の責任か

次に「(2)断ると、お店が回らなくなる。同僚や店長に迷惑をかける」という理由を考えてみましょう。

あなたがシフトに入らないことによって、お客さんをスムーズに誘導できなかったり、長く待たせたり、といった状況が起きるのだとすれば、「お店の一員として、ちゃんとしたサービスを提供したい」という思いから、望まないシフトにも入ろうという気持ちになるかもしれません。そう思うあなたは、きっと責任感が強い人なのでしょう。「ちゃんとしたサービスを提供したい」と思うこと自体は、立派なことです。

またあなたは、「自分がシフトに入らなければ、同僚が望まないシフトに入らなければいけなくなるだろう」とか「自分がシフトに入らなければ、忙しい店長さんが無理を押してシフトに入らなければいけないだろう」とか考えて、「ならば自分が」と引き受けているのかもしれません。ともに働く職場の人たちを気遣えることも、立派なことです。

けれども、人員不足を埋める責任は、本来は店長や、さらにその上の立場の人が担うべきものであるはずです。今いる従業員が現状以上のシフト入りを望んでいないならば、本来であれば、その従業員に無理にシフトに入ってもらうのではなく、人員を増やすか業務量を減らすか、どちらかの方策を取るべきでしょう。

人員を増やすとは、具体的には追加の採用を行うということです。パート・アルバイトを募集していても応募者がいない場合には、時給を上げる、シフトの設定を工夫する、募集対象を広げる、などの採用戦略の練り直しも必要になります。時給が高ければ土曜も入ってもいいという従業員がいるのなら、土曜の時給をほかの曜日よりも引き上げることによって既存の従業員で人員不足がカバーできることもあるでしょう。

業務量を減らすとは、具体的にはサービスの限定や省力化、営業時間の短縮などによって行うことができます。提供するメニューを絞り込む、食券方式に切り替える、深夜営業をやめる、などです。それらの方策によって、限られた人員でサービスの提供を続けることが可能になります。

そのような工夫を行わずに人員不足を乗り切る方策として、「無理にシフトに入ってもらう」という方策があるのです。それはつまり、「負担のしわ寄せ」です。追加のシフト入りを求められてそれを断ることは、「無責任」なこと、「わがまま」なこと、と考えてしまいがちです。しかし、お店を円滑に回していくシステムの見直しを行わずに個人に負担のしわ寄せを行っているのだとしたら、使用者の側こそが、みずからが担うべき責任を適切に担っていないと言えます。

皆さんが引き受けるべき責任は、合意した労働条件の範囲で適切に業務を行うことであり、合意していない追加のシフトを引き受けることまでは含まれません。その点は、自分の中で意識的に線引きをしてみることが必要です。

職場の人間関係を悪くする?

続いて「(3)断ると、職場の人間関係や雰囲気を悪くする」という理由について。これは上記(2)とも関係します。

自分が断ることによって同僚に負担を押し付けてしまうことになるなら、確かに職場の人間関係が悪くなってしまう懸念はあります。けれども、それを恐れて自分が負担をかぶることは、自分の我慢によって職場の人間関係や雰囲気を維持することであり、あなた自身に無理がかかるでしょう。

自分が負担をかぶることによって職場の人間関係を維持するのではなく、自分も職場の他の従業員も負担をかぶらずに済む方策を、他の従業員と共に考えていくことが大切です。

ある学生は次のような行動をとりました。急で一方的なシフト変更が何度かあったあと、「このまま同じことをされるわけにはいかない」と、店長にはっきり断ったそうです。そのうえでその学生は、後輩も同じことをされていたため、自分の経験を生かしてアドバイスした、とのこと。自分が逃れた負担が後輩に向かわないように、という配慮をこの学生は行ったのです。みんなが急なシフト変更を引き受けないなら、店長は別の方策を考えざるを得なくなります。

先ほど、「逆らえない」と我慢し続け、我慢が限界に来たら辞める、という行動パターンを示しました。その場合、辞めたあとには、自分が嫌だと感じた問題は残り続け、職場に残った従業員や、あなたの代わりにあとから入った従業員は、同じ問題に悩み続けることになります。辞めることによって個人的な問題は解消されても、職場の問題は残るのです。

職場のみんなが気持ちよく働けるためにはどうしたらよいのか、そのためには、問題を一人で抱え込んで一人で解決策を考えるのではなく、周りの人と問題を共有し、共に解決策を探すことが大切です。波風をたてないために表面的に人間関係を保ち、誰かが無理を抱えている状態は、本当の意味で人間関係がよい職場とは言えません。

自分に不利益が跳ね返ってくることを防ぐために

最後に「(4)断ると、店長さんに目をつけられ、シフトの希望が通りにくくなる。居づらくなる」について。

この懸念はよく理解できます。追加のシフトを断る、適切な残業代の支払いを求める、休憩がちゃんと取れるように求める等々、なんであれ、自分の正当な権利を主張することが、自分への不利益となって跳ね返ってくる。そのようなおそれは、現実的には存在します。例えば、シフト希望を出してもシフトにほとんど入れなくなる、そのためにバイト収入が減ってしまう、といった事態が考えられるために、言いたいことがあっても我慢する、という選択肢を取っている人もいるでしょう。

労使(労働者と使用者)は労働契約の上では対等であるとはいえ、一人ひとりの労働者は使用者に比べ、現実には弱い立場にあります。希望があってもシフトを入れない、といった権限を使用者がもっている以上、そこでコントロールされれば、声をあげることは難しくなります。

それを防ぐためには、一人で対処するのではなく、他の方策を探すことが必要でしょう。実際に学生が対処行動をとって結果を出している場合には、職場の仲間と問題を共有してみんなで問題を指摘する、パートさんにも問題に共に対処してもらう、店長より上の立場のエリアマネジャーや本社に連絡するなど、周りを巻き込んで問題解決を図っている様子がみられました。

労働組合も一人で対処しにくい問題に対処するための大切な仕組みです。労働者一人では使用者に対して弱い立場にあって権利主張がしにくい、その構造的な問題に対処するために、労働者が団結して使用者に労働条件の向上を求める、それが労働組合の基本的な機能です。労働組合を結成して労働者が使用者と対等に交渉ができるように、憲法で団結権・団体交渉権・団体行動権が保障されていることは、高校の授業でも学んだことがあるでしょう。

アルバイト・パート社員も含めて従業員が労働組合に組織化されている企業もあります。その場合は、労働組合に相談してみるとよいでしょう。労働組合として一緒に問題解決に取り組んでくれるように求めるのです。会社に労働組合があるもののアルバイト・パートは組織化されていないという場合でも、労働組合に対処を求めてみてもよいのでは、と思います。また、誰でも一人で加入できる地域ユニオンなどもあります。

いずれにせよ、一人で対処しようとすると、結局自分が負担をかぶることになったり、自分に不利益が跳ね返ってきたりするおそれがあります。一人で対処しようとする前に、職場の仲間と問題を共有し、共に考えることが大切であることは、頭に入れておいてください。また、公的な労働相談窓口など、専門の相談機関に相談してみれば、適切な対処方法のアドバイスももらえるでしょう。労働組合の全国組織である連合も、無料の電話相談窓口を設けています。

職場の論理をうのみにせずに、俯瞰的な視点を

皆さんにとってアルバイトとは、年齢が離れた社員の指示に従って働くという初めての経験であるために、そこで求められることに対して「断れない」と思いがちであることは、ある意味、自然なことです。

けれども、皆さんが「断れない」と思いがちであることを織り込んだ上で、無理を受け入れることを求めてきたり、違法な労務管理を平然と行ったりするバイト先があります。そういうバイト先があるということは、「ブラックバイト」という言葉を通じて、多くの学生が認識しているところです。そういう働き方が求められることについて、「おかしい」という思いも広がってきています。

そうであれば、責任ある行動や良好な人間関係の維持を求めてくる職場の論理をうのみにせずに、「バイトの自分と使用者は、どういう関係のもとにあるのだろうか」と、俯瞰的な視点を持つことが必要でしょう。「断れない」となぜ思うのか、なぜそう思わされるのか、なぜ断りにくい要求が押し付けられてくるのかと問い直す中で、「自分が使用者の要請に従うか、従わないか」という二択だと思っていた問題の背後に、職場の労務管理の問題や力関係の問題があることが見えてくるはずです。そこに目を向けることから、改善の道は見えてくるでしょう。

法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

上西充子(うえにし・みつこ)
法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。

大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A

著者 : 石田 眞, 浅倉 むつ子, 上西 充子
出版 : 旬報社
価格 : 994円 (税込み)

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