雇っているのは誰? フランチャイズという仕組み
意外と知らないバイトの常識(3)
この連載の意外と知らないバイトの常識(1) バイト選びで重視したいことでは、労働契約の際に労働条件を記した書面(労働条件通知書)を確認し、保管しておくことが大切であると記しました。さて、改めてその書面を見てください。あなたの雇い主(労働契約の相手方)は誰でしょう?
「あれ?」と思うことがあるかもしれません。誰でも知っているチェーン店で働いているはずなのに、相手方の欄に聞いたことがない会社名や個人名が書いてある場合です。その場合、あなたはフランチャイズ加盟店で働いている可能性が大です。
フランチャイズとは
フランチャイズ方式で店舗が運営されている場合、店舗を経営するのはフランチャイズ本部ではなく、その本部との間でフランチャイズ契約を結んだフランチャイズ加盟店です。皆さんはそのフランチャイズ加盟店のオーナー(経営者)に雇用されることになります。
(出所:石田眞・浅倉むつ子・上西充子『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』旬報社)
一方、直営店の場合には、皆さんが労働契約を結ぶ相手は直営店を経営している会社本体です。有名チェーン店の中には、ほとんどがフランチャイズ加盟店で構成されているものもあれば、ほとんどが直営店で構成されているものもあります。
例えばセブン-イレブンの店舗は、ほとんどがフランチャイズ加盟店です。2015年度の期末のフランチャイズ店店舗数は18,071店舗。それに対し直営店は501店舗です(※1)。
(※1)「セブン&アイ・ホールディングス事業概要-投資家向けデータブック(2015年度版)-」 p.28
他方でスターバックスの店舗はほとんどが直営店です。スターバックスのホームページの会社概要によれば、2017年3月31日現在の店舗数は1,260店舗で、うちライセンス店舗が80店舗であると記されています。
このライセンス店舗とはフランチャイズ店舗とほぼ同義と考えられますが、スターバックスは直営方式での出店が困難な駅、空港などでライセンス店舗を展開しているようです(※2)。
(※2)スターバックス プレスリリース(2004年7月23日)「スターバックス コーヒー *ライセンス事業の開始により出店戦略を強化」
消費者としての皆さんにとっては、どの駅前のスターバックスも、どの駅前のセブン-イレブンも、同じ値段で同じ商品が購入できる店舗であり、直営店なのかフランチャイズ加盟店なのかを意識することはないでしょう。
けれどもバイトで働く場合には、スターバックスであればほとんどの場合、雇い主は「スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社」であるのに対し、セブン-イレブンでは、ほとんどの場合、雇い主は「株式会社セブン-イレブン・ジャパン」ではなく、フランチャイズ契約を結んだ加盟店のオーナーとなるのです。
フランチャイズ加盟店で起きた「罰金」問題
単にあるチェーン店で働いていると思っていたのにフランチャイズ加盟店であったという場合、労働トラブルが起きると問題はやや複雑になります。皆さんとフランチャイズ本部との間には雇用関係はなく、労働契約に基づく雇用関係は皆さんとフランチャイズ加盟店オーナーとの間にあるため、労働トラブルの責任主体は、基本的にはフランチャイズ本部ではなく、皆さんを雇用している加盟店オーナーが負うことになるからです。
加盟店オーナーは、多数の店舗を安定的に運営する経営者であることもあれば、本部が経営のノウハウを提供してくれるからと独立開業したケースもあり、まちまちです。そのため、人を雇って働かせる際に本来遵守すべき労働法を残念ながらよく知らないままに、あるいは軽視したまま、皆さんをバイトとして雇い、違法な対応を行っている場合があり得るのです。
今年1月、女子高校生に対する不適切な対応がセブン-イレブンのフランチャイズ加盟店であったことがニュースになりました。風邪で休んだ2日(10時間)分の賃金にあたる9350円を、実際に働いた5日(25時間)分の賃金2万3375円から「ペナルティ」として差し引いて支払っていたというものです(※3)。
(※3)「セブン加盟店 バイト欠勤で罰金 女子高生から9350円」(毎日新聞電子版 2017年1月31日)
http://mainichi.jp/articles/20170131/k00/00m/040/122000c
風邪で欠勤したからといって、罰金を払う必要はありません。この女子高校生の場合、記事によれば、休む代わりに働く人を探さなかったペナルティとして、休んだ10時間分の9350円を差し引かれたようです。しかしながら、体調不良で休むということは誰にでもありうることであり、そういう時に代わりの人を見つけるのは加盟店オーナーの仕事です(記事の中で厚生労働省労働基準局の担当者も、そうコメントしています)。
また、仮に何らかの問題が労働者側にある場合を想定しても、罰金の額をあらかじめ決めておくことは禁止されており(労働基準法16条)、また使用者が給与から罰金を一方的に差し引くことも禁止されています(労働基準法24条1項)。
責任を負うのはフランチャイズ加盟店のみ? 本部の対応は?
上記のトラブルについて、記事によれば、セブン-イレブン・ジャパンは加盟店に対して返金を指導したそうです。ここで「指導」という表現になっていることに注目してください。返金するのはセブン-イレブン・ジャパンではなく、加盟店オーナーの責任であり、フランチャイズ本部であるセブン-イレブン・ジャパンの役割は、加盟店オーナーへの「指導」にとどまっているのです。
フランチャイズの仕組みの上ではそうです。けれども、フランチャイズ本部の責任は返金の指導にとどまるのでしょうか?
働く学生の側からすれば、フランチャイズ加盟店オーナーと労働契約を結んで働いているという意識ではなく、「セブン-イレブン」で働いているという意識であったでしょう。実際、セブン-イレブンはホームページ上で全国の店舗のアルバイト募集情報を一括して掲載していますが、その募集サイトを見る限り、アルバイトを募集しているのは「セブン-イレブン」であるように見えます。各店舗の求人情報を開いてみても、労働契約の相手が誰であるかは記載されていません。
にもかかわらず、労働トラブルが起きると、それは加盟店オーナーの責任であり本部は基本的に責任は負わないという位置づけにあるとしたら、それは加盟店で働く者にとっては心細い状況です。
また上記の募集サイトの「よくある質問(セブンFAQ)」を見ると、「学校の行事やテストの時には休めますか?」という質問に対し、次のように書かれており、やむなく前日に休みの連絡をした場合、お店ごとの「ルール」でどういう扱いになるのか、不安が残ります。
本部が加盟店に対し、日頃からアルバイトの労務管理について適切な指導・研修を行っており、問題が起きた場合には迅速に的確な指導が行われるのであれば、大丈夫なのかもしれません。けれども上記の募集サイトを見る限り、労働トラブルがあったときにバイトの学生から本部に相談できる窓口があるのかどうかもわかりません。
また上記の記事で報じられた労働トラブルの場合、セブン&アイ・ホールティングスの広報センターの担当者は、「労働者に対して減給の制裁を定める場合、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が賃金総額の10分の1を超えてはならない」と定めた労働基準法91条に違反すると語ったということです。
しかしながら上に解説した通り、そもそも風邪で欠勤するということはやむを得ない事情による欠勤であり、「減給の制裁」に該当するような問題ではありません。そのため、広報センターの担当者のこのコメントに対しては、労働問題に詳しい関係者からの批判が集まりました。
この連載の法律監修をお願いしている嶋崎量弁護士は、この広報センター担当者のコメントがなぜ不適切であるかを、下記の記事で解説しています。
嶋崎量:確認しよう!「風邪で欠勤しても、罰金を払う義務は無い!」(Y!ニュース2017年2月1日)
フランチャイズ加盟店の違法行為は本部にとって大きなリスク
労働契約はあくまで加盟店オーナーと学生の間にあるのだから、労働トラブルについても対処はその両者の間で行われるべきだとすることは、フランチャイズ本部にとっては一見、責任を負わずに済む好都合な状況のように見えます。
けれども、上記の記事のように、一人の加盟店オーナーが不適切な対応を行ってしまったことによって、「セブン加盟店」で労働トラブルが発生したといった形で報じられてしまうということは、実はフランチャイズ本部にとっては大きなリスクです。
そのため本来であれば、こうした労働トラブルが起きないように、また起きた際には適切な再発防止策が講じられるように、本部としては手厚い対策を行うことが望ましいと考えられます。
とある民間企業に勤務する「roumuya」さんという、関係者の間では結構有名な方のブログ「吐息の日々」では、上記の記事で報じられたトラブルについて、「この人に金を返せばそれで済む話ではないでしょう」と指摘しています。
roumuya:アルバイトの病欠に罰金(「吐息の日々」2017年2月1日)
同じ店舗では過去にも同様に罰金を支払わせてきた可能性があるため、それらをすべて洗い出して全額返金するのが筋であり、また、本部は類似の実態が他のフランチャイズ店で行われていないかどうか調査し、行われていれば正常化を指導するのが道義的に望ましいのではないかというのが、この方の指摘です。同感です。
以上、フランチャイズ加盟店における労働トラブルについて取り上げてきました。もちろん、フランチャイズ加盟店において労働トラブルが起こりやすいとは一概には言えず、直営店でも労働トラブルが発生する可能性は十分にあります。ただし、労働トラブルが起きた場合の責任の所在や対処方法が、フランチャイズ加盟店の場合は直営店の場合とは異なる、ということは頭に入れておいた方がよいでしょう。
法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)
法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。