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教養

辞められない? 次のバイトを探す? 意外と知らないバイトの常識(5)

法政大学キャリアデザイン学部教授 上西充子

2017/6/2

撮影協力:清泉女子大学

バイトの働き方を考えてきたこの連載、最後は「辞める」という局面を考えます。学生である皆さんにとって、バイトはいつか辞めるものとは考えているでしょう。ではそれは、いつでしょうか。

バイトは続けないと就職に不利か

「いったん始めたバイトはできるだけ途中で辞めない方がいい」と考えている人もいるかもしれません。「就職活動の際にバイトの経験を語るなら、辞めずに続けていた方がよいのでは」、と。

確かに「自分の強み」や「学生時代に力を入れたこと」を語る際に、バイトの経験を語る学生は多いようです。エントリーシートの書き方や面接の受け答えの文例を見ても、バイトの経験が語られています。

けれども採用側は、実はバイト経験そのものは、特に評価しているわけではありません。興味深い、けれども学生にはあまり認知されていないと思われる調査結果があります。株式会社リクルートキャリアの「就職みらい研究所」が公表している「就職白書」(※1)に掲載された調査結果で、企業が採用基準で重視する項目と、学生が面接等でアピールする項目のギャップの大きさを示したものです。

※1 リクルートキャリア「就職白書2017」

複数回答で尋ねられている調査の中で、学生が面接等でアピールする項目は「人柄」47.3%、「アルバイト経験」39.5%、「所属クラブ・サークル」27.6%が中心です。それに対して企業が採用基準で重視する項目は「人柄」92.9%、「自社への熱意」76.1%、「今後の可能性」68.8%であり、「アルバイト経験」は20.1%でしかありません。他に「所属クラブ・サークル」8.9%、「インターンシップ経験」5.2%、「所属ゼミ・研究所」5.0%、「海外経験」3.9%など、学生が「やっておいた方がいいのかな」と気にする活動はいずれも、あまり企業側からは重視されていないことがわかります。

この結果を皆さんはどう読み解くでしょうか。バイトもサークルもインターンシップもゼミも留学も、どれも意味がない活動だということでしょうか?

おそらくそうではないでしょう。どんなバイトをしていたか、サークルには入っていたか、インターンシップには行ったか、どのゼミに所属していたか、留学はしたか、そういうことがそのまま評価ポイントになるのではなく、どういう活動であれ、その活動の結果として今のあなたが何を身につけており、今のあなたはどういう人であるかが、その企業が求める人材像と照らし合わせて評価ポイントであるということでしょう。それが「今後の可能性」68.8%の意味するところだと思われます。

なお、学生の側が面接等でアピールする項目において「今後の可能性」は11.8%でしかありません。「今後の可能性」そのものを抽象的にアピールすることはできず、具体的な活動の中でしか語りにくいものではあるため、実際の認識のギャップはこの数値のギャップほど大きなものではないかもしれませんが、「何をしておいたら有利か」「何をしておかなければいけないか」と考えがちな皆さんには、知っておいていただきたい調査結果です。

この調査結果も踏まえれば、バイトは「続けた方がよいか/辞めて別のバイトに変えてもよいか」ということが問題なのではなく、どちらにしてもそれが皆さんにとって意味のある経験であればよいのだと言えるでしょう。

そのうえで私は、アルバイトを変えてみるという経験も、意味のある経験ではないかと考えます。

アルバイトで「転職」を経験してみる

アルバイトを変えてみるという経験は、2つの経験を含みます。「辞める」という経験と、「選びなおす」という経験です。

「辞める」ことには、一定の労力が必要でしょう。辞めたいという意向をどう伝えるか、辞めることは職場に迷惑をかけないだろうか、円満に辞めるためにはどうしたらよいだろうか、引き止められたらどうしようか、辞めさせてもらえなければどうしようか、辞めたあとの生活費はどうしようか、別のバイトはどうやって探そうか、等々、「辞める」と決断して実行に移すことは、なかなか大変です。それよりは人間関係ができあがっていて自分の都合もある程度聞いてもらえる今の職場で働き続けた方が楽だ、と考えるかもしれません。

けれども今の職場に問題があり、問題解決に動いてもその問題が解消されないなら、辞めるという選択肢はありです。また、問題がなくても、別の職場を経験してみることは、あなたのものの見方をより多面的なものにしてくれる可能性があります。バイトを自社の労働力としてどのように位置づけて労務管理や育成を行っているかは、会社により様々です。バイトとして接する正社員の姿も様々でしょう。複数のバイトを経験してみることは、インターンシップに参加してみることと同様に、「働く」ことを考える上で意味があることと思います。

バイトはいつでも辞められるのか

では、バイトはいつでも辞めることはできるのでしょうか。

あなたが「辞めたい」と申し出て、使用者がそれを了承するなら、つまり辞めることについて「合意」が成立するならば、あなたはいつでもバイトを辞めることができます。これを「合意解約」または「合意退職」と言います。

退職の際は2週間前までに申し出ること、といった決まりがある場合には、それに従うのが無難でしょう。どういう決まりがあるかは、アルバイトを始める際に受け取っているはずの労働契約の書類(労働条件通知書)を確認してください。その会社で働く上での決まりを定めた就業規則にも書いてあるはずです。就業規則は従業員がいつでも内容を確認できるようにしておくことが義務付けられています(労働基準法106条)。

また、仮に2週間前までに申し出ることとされていても、それを待たずに辞めることも「合意」があればできます。

では「合意」がない場合はどうでしょうか。あなたが辞めたいと思っても、「辞めないでほしい」と言われる場合です。あなたが真面目に働いていればいるほど、また業務に習熟していればいるほど、使用者としてはあなたに「辞めないでほしい」と思っているでしょう。

その場合であっても皆さんには、基本的には退職の自由があります。憲法22条1項は「職業選択の自由」を保障していますが、この「職業選択の自由」は、就職という局面だけに限られるわけではありません。選びなおしも保障されるべきであり、選びなおしが可能となるためには退職の自由も保障されていなければならないのです。

ただし退職の自由は、いくつかのケースに分けて考える必要があります。まず、労働契約の際に明示されていた労働条件が事実と異なる場合には、即時に労働契約を解除し、辞めることができます(労働基準法15条2項)。例えば塾の講師という求人に応募し、面接でもそのように聞いていたのに、もっぱら電話勧誘業務を割り当てられたといった場合です。

そうでない場合は、労働契約の種類によって事情が異なります。労働契約の期間を特に定めずに雇用されている場合は、退職の申し入れを行ってから2週間後には、どのような理由であれ、辞めることができます(民法627条1項)。もし就業規則などで1か月前などの申し出が求められていれば、それに従う方が無難ではありますが、民法上は2週間前の申し出であれば大丈夫です。退職の申し出は半年前までに、など不当に長い期間が設定されていても、それに従わなければならない義務はありません。

代わりの人を自分で見つけないと辞めさせないと言われることもあるようですが、代わりの人を探すのは使用者が行うべきことです。新たなバイトを募集するための求人広告費についても、あなたが負担する必要はありません。求人広告費を請求されたり損害賠償を求められたりしても、それに応じる義務はありません。もし実際に求められたら、払ってしまう前に公的な相談機関や大学の学生支援課などに相談しましょう。

次に、労働契約の期間が6カ月などと定められている場合(有期労働契約の場合)を考えてみましょう。その6カ月を終えた段階で契約を更新せずに辞めることはあなたの自由な意思によって行うことができます。契約更新は双方の合意があって初めて行われるものだからです。

契約更新のタイミングではない時に辞めたい場合はどうでしょうか。有期労働契約の場合は、その期間中は働くことに合意した形となっているため、原則的にはその期間中は一方的には辞めることができないものとされています。ただし、労働契約の開始から1年が経過していれば、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます(労働基準法137条)。

また、有期労働契約の途中であって労働契約の開始から1年未満の場合であっても、「やむを得ない事由があるとき」には、辞めることができます(民法628条)。「やむを得ない事由」とは何を指すかは法律に規定されているわけではありませんが、病気になって勤務が続けられないといった事情のほかに、不払い残業があるといった違法な労務管理が行われているときも「やむを得ない事由」に該当すると考えられます。また、使用者はあなたが学生であることをわかった上で採用しているのですから、学業に大きな支障が出る事情が生じた場合も「やむを得ない事由」に該当すると考えてよいでしょう。

このように、使用者はあなたの意に反してあなたを職場に縛り付けておくことは、基本的にはできないのです。辞めるという行為には摩擦が伴うことがありますが、摩擦を乗り越える経験をしておくことにも意味はあるでしょう。

「選びなおす」経験

アルバイトを変えるなら、「選びなおす」ことも経験できます。「バイト先を決めるときに事前にどんな会社かネットで調べておくべきだった」、「お店の従業員の働き方も観察しておくべきだった」、「面接では労働条件をもっと確認しておくべきだった」、「労働条件通知書がもらえないなら、働くのはやめておくべきだった」、「働く曜日や時間帯は、こうである方がよかった」など、今から振り返って考えてみれば「もっとこうすればよかった」ということがあるなら、それがかなうようなバイト先を選びなおしてみてはどうでしょうか。

最初はどうしても面白そうな仕事や、同世代が働いている職場、といった基準でバイトを選びがちです。けれども働いてみると、働きやすい職場とはどういう条件が整った職場であるかが見えてきているでしょう。その気づきを生かして、自分の希望にあう、まともな職場を選びなおしてみるのです。

その選びなおしの経験は、就職活動にも生きてくるでしょう。厚生労働省の調査(※2)によれば、大卒者が初めて就職した会社をやめた主な理由(3つまで選択)のトップは「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」25.3%です。「仕事が自分に合わない」19.7%、「賃金の条件がよくなかった」16.4%、「人間関係がよくなかった」15.5%がそれに続きます。

※2 厚生労働省「平成25年若年者雇用実態調査」(個人調査)

就職活動の際に、賃金や労働時間などの労働条件を特に重視して会社を選ぶ学生は少ないようです。多くの学生は業種や仕事の内容、会社の安定性などを重視して会社を選んでいます。けれどもいったん就職したあとで離職に至る原因は、仕事の内容や人間関係よりも労働条件なのです。

労働条件が理由で離職した人は、きっと新卒入社時とは違う判断基準で転職先を選ぶでしょう。あなたがバイトを変えるなら、それは転職というありうるかもしれない将来の経験を先取りした形で予備的に経験してみることにもなるのでは、と思います。

バイトを変えるという経験は、就職の際に特に評価されるわけではありません。けれども、マイナス評価されるわけでもないと思います。自分の経験値を上げるという意味で、考えてみてよい選択肢です。

法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

上西充子(うえにし・みつこ)
法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。

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