学校選びの難しさと"Informed decision making"
ミネルバのふくろう(7) 日原翔
お久しぶりです、日原翔です。近頃は、薄着で出かけることが多くなってきたような気がします。サンフランシスコにもきっと春が迫っているのでしょう。キャンパスを持たず、授業はすべてオンライン、学生は4年間で世界の7都市を渡り歩いて寮で共同生活するミネルバ大学に入学して5カ月が過ぎました。今回は、学校選びの話をしたいと思います。
進学先選びは難しい
自分の進学先を選ぶのは、難しいことです。数カ月前、人によっては1年以上前から下調べをして、いくつもの候補を挙げ、その中でも特に魅力的に感じる学校に出願します。それらが上手くいかなかったときに備えて滑り止め出願、という慣例もあります。それでもやはり最終的にどこへ行くのか、という究極の質問に答えるのは、多くの学生たちにとって困難を極めることだと思います。実際に生徒になって経験してみないと分からないことも数多くあります。日本ではあまり見かけませんが、このことから海外では中退、転入は珍しくありません。
この課題はどうすれば解決できるのでしょう。理想的には、全ての学生が確信を持ってそれぞれにとって最高の学校に進学し、入学してからも悪い意味での想像とかけ離れた実態に直面することなく、充実した大学生活を送ることです。当然、これには「情報」が鍵になってきます。可能な限り知った上で決断するのと、知らないで決断するのでは天と地の差が生まれます。英語では"Informed decision making (情報に基づく意思決定)"と言います。
しかし、多くの学生たちは既にできることの限界を尽くしています。彼らは熱心です。ネットで下調べに下調べを重ね、在校生の先輩たちに話を伺い、機会が許せば実際に現地に行って雰囲気すらも感じ取ろうとします。 Informed decision makingにおいて、これ以上彼らにできることはないでしょう。ならばなぜ、進学先を選ぶということは、それでもこんなに難しいのでしょうか。
私は、学校側の努力が足りないことが一番の要因だと思います。学生たちが学校の情報を熱心に集めるのと同様に、学校側もまた、意思決定の材料となりうる情報や機会を積極的に提供するべきなのです。学校が生徒の立場に立って手を伸ばせば、進学という人生の大きな決断は、現状よりも双方向なものになります。また、その方がお互いのためになるでしょう。
2泊3日の招待イベント
先日、Ascentという招待イベントが行われました。Ascentは、ミネルバに合格した学生たちをサンフランシスコに招待し、2泊3日のショートプログラムを通じてミネルバ生活の片鱗を体験してもらおう、というものです。参加者達たちは詰めこまれたスケジュールの中、授業体験や課外活動、学校の伝統行事などを体験します。宿泊場所も在校生の部屋にすることで、なるべく本物に近い学生生活を味わってもらおうという意図があります。ちなみに私も昨年度のAscentに参加しましたが、このイベントのおかげで自分の進学する大学に確信を持つことができました。
この期間は学長や学部長たちなどのスタッフもサンフランシスコに勢ぞろいするので、やって来た学生たちは溜めていた数々の疑問を彼らに直接ぶつけます。
「オンラインで本当に深い学びができるの?」
「アウトドア活動が好きなんだけど、ミネルバではそういう機会はあるの?」
「料理したことないけど、ミネルバではどうすればいいの?」
スタッフが親身になって答えるのはもちろんですが、それ以上にAscentの本質は、百聞は一見に如かずというところにあります。それらの疑問への答えを実際に体験してもらうことこそが、Ascentの目的です。 参加者たちには授業も受けてもらいますし、アウトドアの課外活動もやってもらいます。
夜は在校生や参加者同士で談笑
参加者たちは夜になると翌日に備えて眠るかと思いきや、 在校生や他の参加者たちと談笑を始めます。お互いどこから来たのか、どんな経緯でミネルバにやってきたのか、家族はミネルバのことをどう思っているのか......。 皆がそれぞれ個性的な背景を持っているので、話は尽きません。未来の同級生になるかもしれない人たちと話すうちに、よりはっきりとミネルバでの学生生活の様子が浮かんでくるのでしょう。
Ascentでの経験を通じて、学生たちはミネルバに進学するか、別の学校に進学するのかのInformed decision makingをすることができます。合わない学生がそうと知らないままミネルバに進学することも防げますし、内心不安だった学生は確信を持ってミネルバに進学することを決めることができます。これは彼らにとっても、ミネルバにとっても有益なことはいうまでもないでしょう。
既存の学校は長い年月で得たその地位と伝統に溺れ、学生たちを軽視しがちです。しかしどんな学校であろうと、学生あってこその学校であることに変わりはありません。学生に全てを押し付けるのではなく、もっと一人一人の学生たちの目線に立った機会を学校側からも提供できれば未来の教育は明るいのかな、と思います。では。
1998年埼玉県生まれ。聖光学院高等学校を中退し、経団連の奨学金制度でカナダのPearson College UWCに2年間留学。2017年9月よりミネルバ大学に進学。身体を動かすことが好きで、現在はダンスに熱中している。科学や政治経済にも関心を持っており、自身の将来像は未だに悩みあぐねている。座右の銘は「二兎を追う者のみが、二兎をも得る」。
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