ハーバードは「白人大学」?アジア人は私だけ~米大学留学記(8)

渡邊知彩杜

渡邊知彩杜

これまでずっとHBCU・歴史的黒人大学という場所について様々な視点から書いてきましたが、今回は「歴史的"白人"大学」とでもいうべき、"PWI"と呼ばれる大学についてお伝えできればと思います。

PWIという単語はPredominantly White Institutionsの略で、日本語に直訳すれば「白人が圧倒的多数を占める大学」でしょうか。私もアメリカで初めて聞いたのですが、スペルマンの学生や先生と会話していると結構な頻度でこの単語が登場します。

そもそも、なぜHBCUが設立されたか? というところまでさかのぼると、人種隔離政策の時代、黒人は一般の大学に入学が許されなかったという事情があります。そのため、黒人にも高等教育の機会を与えるべく、スペルマンをはじめとする"黒人のための大学"が設立されました。その後、白人と黒人が同じ学校で学べるようになるわけなのですが、現在も白人が多数を占める大学がPWIと呼ばれています。

「白人大学」での苦労

日本語クラスで書道教室を開いた時の写真

その最も典型的な例が、いわゆる "アイビーリーグ"と呼ばれる大学群です。「世界大学ランキング」などでランクインしているような有名大学も、近年アジア系の留学生が大量に押し寄せているとはいえ、いまだ白人学生の割合が高く、黒人学生の割合が5%に満たない学校もあります。入学試験で不利になりがちな少数派の学生に優遇措置をとる「アファーマティブアクション」議論の先駆けとなったのも、超有名大学のひとつであるカリフォルニア大学でした。

私は、名門大学ほど、人種・国籍問わず多様な学生が集まっているイメージを持っていましたし、何よりPWIという呼称までついてしばしば批判的に論じられていることに驚きました。そして、そのような大学に通うマイノリティの黒人学生は、未だに見えない差別や特有の生きづらさを抱えているようです。

ハーバードの黒人学生たちがTumblr上で始めたブログ"I too am Harvard"は、マイノリティ学生がキャンパスで経験した差別的な発言や苦労を発信すべく立ち上げられたフォトキャンペーンです。公式ブログの他にも、各種SNSでハッシュタグ#itooamharvardと検索すると、メッセージボードを持った学生の写真がたくさん出てきます。「英語読める?」「あなたって黒人っぽくないね、賢い」など、にわかには信じがたい失礼な発言の数々と、学生の怒りのメッセージを見ることができます。このキャンペーンは大きな反響を呼び、アメリカ国内の他大学、イギリスのオックスフォード大学等、海外の大学にも波及し、同様のキャンペーンが出現しました。

#itooamharvardと検索すると、黒人学生たちのたくさんのメッセージが出てくる

PWIでありがちなもう一つの問題が、教員の人種構成です。学生のみならず、教員についても有色人種の割合が少なく、結果的にマイノリティ学生が十分なサポートを受けられていないと感じることがあるようです。白人学生が9割を占めるPWIを卒業した友人によると、当時学部に1人だけ在籍していた黒人教授のもとに、様々なアドバイスを求め何十人もの黒人学生が殺到していたそうです。

黒人学生就職の厳しい現実

とりわけ黒人学生にとって大きな問題なのが就職です。今日のアメリカでは制度化された差別はなくなったとはいえ、黒人学生が様々な局面で不利になることは珍しくありません。アメリカの就職市場においてよく言われるのが、同じポジションに人種以外まったく同じ条件の人物が応募してきた場合、採用の優先度が高いのは(容姿端麗な)白人女性で、黒人は常に最下位だということです。このような事情があるので、キャリアを積みたい黒人学生が敢えてHBCUに進学し、黒人学生に特化したキャリア支援や同窓のつながりを利用したいと考えることもあるようです。

キング牧師と共に公民権運動を主導した活動家、アンジェラ・デイビスの講演。「スペルマンならいつ呼ばれても喜んで来ます」と語っていた

私自身も、英語を母語としない外国人教授やアジア系の教授にはたくさん助けていただいたので、PWIに通うマイノリティ学生の状況も理解できる気がします。ポーランド人の教授はオフィスを訪ねるたび(私のリスニング力が悲惨すぎたので)要点を紙に書きながら説明してくださり、南部の脂っこい食事に苦しんでいた時には中国人の先生に餃子を作ってもらい、涙が出るほどうれしかったのを覚えています。

もちろんアメリカ人の教授にも大変よくしていただきましたし、留学生活を通して、自分から主張さえすれば必要なサポートを受けられないということはありませんでした。それでも、自分と同じマイノリティの教授に英語非ネイティブとしての悩みや、文化的に理解されにくい感情を1から10まで説明せずともわかってもらえ、これが欲しかったんだ! というさりげなくも的確な気遣いを受けられたことは、ストレスを抱えやすい留学生活の中で、自分の想像以上に大きな安心感につながりました。

キャンパスでは頻繁に進学・就職等のキャリア支援イベントが開催される

私は先学期、デューク大学(Duke University)から国内留学制度を利用してスペルマンに学びに来ている学生と知り合い、話を聞く機会がありました。デューク大学はサウスカロライナにある名門私立大学で、学生の圧倒的多数を白人が占めるPWIでもあります。彼女はデュークでは人種問わず仲良くしている友達がいるし、自分の大学を誇りに思う、と言う一方で、「HBCUには自分たちの居場所がある」とも語っていました。実際、スペルマンの学生と大学について話をしていると、PWIを引き合いに出してHBCUの意義を語る学生が非常に多いと感じます。

HBCUはアメリカにおいて非常に「特殊」で「例外」的な学校だと思います。実際私は留学に来てしばらくは、アメリカの大学を黒人大学とそれ以外の「普通」の大学、というざっくりした括りで捉えていました。今まで「普通」と認識していた学校が"Predominantly White"と捉えられる場合もある、ということは、立場や環境が変われば同じものも違って見えるのだ、と改めて実感したエピソードでした。

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