お酒で顔が赤くなる人は、飲酒なしでも骨折リスク上昇飲酒と骨粗しょう症(上)

日経Gooday

ここで宮本さんが着目したのが、アルコール代謝の過程で生じるアセトアルデヒドの分解に関わるALDH2(アセトアルデヒド脱水素酵素)の活性だ(ALDH2の活性についての詳細は記事末の解説をご覧ください)。「骨折群」と「正常群」を対象に、ALDH2の活性が高い人と、活性が低い人(rs671遺伝子を保有する人)の比率を比較した[注2]。活性が低い人は、お酒を飲むと顔が赤くなる人、いわゆるフラッシャーと呼ばれる人がほとんどだ。

その結果、「『骨折群』では、『正常群』に比べてALDH2の活性が低い人の比率が高いことが明らかになったのです。このことから、お酒を飲んで赤くなる人は、骨折のリスクが高くなることが示唆されたのです」(宮本さん)

なるほど、そういうことだったのか。だが、リスクが高くなるといっても、その度合いがどのくらいかも重要だ。先生、どうなのでしょうか?

「研究の結果、ALDH2の活性が低い人は、正常群に比べ、骨粗しょう症による骨折のリスクが2.48倍になるということがわかりました」(宮本さん)

何と! 2.5倍も高いとは。フラッシャーの人は、骨折に人一倍注意しなければならないということか。前述のように私もかつては、お酒を飲むと顔が赤くなった。長年飲み続けていることで赤くなりにくくなったとはいえ、遺伝的要素は生まれつきのものであることを考えると、フラッシャーであることは確実であろう(両親ともほぼ下戸)。ああ、何と悲しい通告なのだろうか。

やはりアセトアルデヒドが悪さをしていたのか

さて、ここまでの話で、お酒を飲んで赤くなる人は、骨粗しょう症による大腿骨近位部骨折のリスクが高いことはわかった。次に、気になるのはそのメカニズムである。

連載でこれまで何度も触れているように、お酒を飲んで顔が赤くなる人はALDH2の活性が低いため、アセトアルデヒドが分解されにくく、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇しやすい。

そして、アセトアルデヒドは毒性があり、体にさまざまな害を及ぼすことが知られている。以前の回で食道がんと飲酒の関係を紹介した際も、アセトアルデヒドの分解能力が低い人(顔が赤くなる人)は食道がんのリスクが高くなると聞いたばかりだ(「のどに刺激のある強い酒 飲み続けた人の末路は?」を参照)。これと同様に、やはりアセトアルデヒドが骨に何らかの悪影響を及ぼし、骨粗しょう症のリスクが高くなるのだろうか。

宮本さんは、現時点では、飲酒が骨にどう作用するかについての詳しいメカニズムはまだわかっていないと前置きしつつも、このように説明してくれた。

「骨粗しょう症のリスクを上げる要因はやはりアセトアルデヒドと考えられます。顔が赤くなる人はアセトアルデヒドの分解能力が低いため、アセトアルデヒドが蓄積され、その毒性にさらされやすい。アセトアルデヒドがあると体内に活性酸素が生じます。酸化ストレスが高まり、骨芽細胞の機能不全に影響すると考えられます」(宮本さん)

「骨の生成過程では、骨を壊す『破骨細胞』と、壊れた部分を修復する『骨芽細胞』の2つが働き、新陳代謝を行いながら骨を作ります。しかし骨芽細胞が機能不全を起こすと、骨の新陳代謝のリズムが崩れ、骨密度が低下、骨粗しょう症につながると考えられるわけです」(宮本さん)

お酒を飲まなくても、顔が赤くなる人の骨折リスクは高い

アセトアルデヒドがさまざまな悪影響を及ぼすことは、これまでの取材で何度も聞いてきただけに、納得せざるを得ない。お酒を飲めば、体内でアセトアルデヒドが発生するのは避けられないわけだから、問題は酒量になるのだろう。

いわゆる「適量」と呼ばれる量さえ守っていれば、お酒を飲んで顔が赤くなりやすい人であっても、リスクを抑えられるんですよね? 期待を込めて宮本さんにそう尋ねると、意外な返事が返ってきた。

「少し誤解されているようですね。今回の研究の対象者は基本的にお酒をほとんど飲んでいない方々です。つまりアルコール耐性が弱い遺伝子を保有している方は、お酒を飲む、飲まないにかかわらず、骨折のリスクが高いのです。飲まないから安心というわけではありません」(宮本さん)

なんと! 「私はお酒を飲んで顔が赤くなるけど、飲まないから関係ない」ということではないのだ。

「アセトアルデヒドというと、すぐにお酒を思い浮かべますが、野菜や果物といった植物性の食べ物も微量のアセトアルデヒドを含んでいます。食べ物から微量のアセトアルデヒドを長年にわたって摂取し続けることもまた、骨粗しょう症を引き起こす原因の一つとなっている可能性があるのです」(宮本さん)

「また、私たちは別な研究で、ALDH2機能不全のマウスを人為的に作って観察し続けたところ、全くお酒を飲ませなくとも骨密度が下がるという結果が得られています」(宮本さん)

そんな殺生な! 微量とはいえ、酒以外に野菜や果物にアセトアルデヒドが含まれているなんて今まで知らなかった[注3]。ああ、では一体、お酒で顔が赤くなる人はどうしたらいいのだろう…。

お酒を飲めば当然リスクは上がる!

そこで、恐ろしいことに気がついた。お酒を飲まなくてもアセトアルデヒドの影響を受けるなら、お酒を飲んで、よりアセトアルデヒドの影響を受けると、骨粗しょう症のリスクはさらに上がるのではないか。先生、どうなのでしょう?

[注2]お酒を飲んで顔が赤くなりやすい体質の遺伝子多型がrs671。ALDH2の活性が低い遺伝子(ALDH2*2)を1つ、または2つ持つ人が該当する。

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