プレゼンや上司への報告の際に、「君は何を言っているのか分からない」「ちゃんと言いたいことを伝えろ」、そんなふうに言われたことはないだろうか? 原因はあなたの「説明下手」……ではなく、実は、言っている方も言われた方も気づいていない、聞き手の「耳の衰え」が怒りのパワーにつながっている可能性がある。
「聞こえない」人のストレスと、「話が下手」というレッテルを貼られる伝える側のストレスを解消するルールを、健康ジャーナリストの結城未来が東京逓信病院耳鼻咽喉科の八木昌人医師に教わった。
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■30代から聴力は衰え始める!
「最近、近くが見えなくなってね」「若い頃はメガネが必要なかったのに文字が読めなくなって……」などと自虐的に「老眼」が会話に上る。こういった光景は正直、そう珍しくはない。
ところが「耳の老化」に関しては、そうはいかない。「聞こえない」ことを自覚しない、あるいは認めないまま、ともすれば前述のように「パワハラ」になりそうな場面が多い。
かくいう私も、常に周囲に怒りをまき散らしている人間に数回遭遇したことがある。観察をしていたら、実は「よく聞こえない」ためのいら立ちが怒りのパワーに変わっていることに気づいた。その証拠に、怒っている側は「聞こうとするシグナル」をさかんに出していたのだ。
片耳を相手側に向ける場合もあるが、真剣な目で顔を見たり、書類に目を通すふりをしながら耳をそばだてていたりと、そのシグナルは様々だ。
そもそも、「聞こえづらさは高齢者特有のもの」というイメージを持つ人は少なくないだろう。そのイメージゆえに、「聞こえない」ことを周囲に告白できず、コミュニケーションに支障が出るのかもしれない。
――八木医師「実際には、30代から聴力は衰え始めています。顕著に不具合を感じるのは50、60代が多いですが、30代でも50代の聞こえ方になっている人もいます。不便の感じ方も人それぞれで、個人差は大きいですね」
長時間、大音量にさらされ続けることが衰えの原因に
聴力が30代で衰えるか、それとももっとあとまで大丈夫か。その差は、どこからくるのだろうか?
――八木医師「耳は、エネルギーの大きい音が苦手なのです。長時間大きな音を聴き続けることは聴力が早く衰える原因の一つです」
例えば、工事現場、工場、飛行場などで働いている人は、常に騒音にさらされている。そこで、「騒音性難聴」で聴力を落とすリスクを避けるため、指定のヘッドホンでの保護や定期的な検診が義務づけられている職場も多い。
――八木医師「特に85デシベル以上の大きい音を長時間聞くことは、耳の奥の内耳に影響が出やすいのです」
85デシベルというのは、例えば地下鉄車内の音らしい。でも、それほど大きい音だと思ったことはないのだが……。