――ズボンの裾の長さはどう決めていくのですか。
「最近、とても短くなっていますよね。カジュアルでもくるぶしが見えるパンツが好まれていますし。でも、スーツではタブーです。昔は『ワンクッション、ワンクリース』という言葉がありました。足の甲に裾が乗っかって、しわが1つできるのがいいという意味。今なら、立って甲に触れるくらいがきれい。水原さんがそう。ちなみに裾の仕上げがシングルでもダブルでも法則は同じです」
――水原さんにはあえて、少々サイズが合わないスーツも着ていただきました。
「欠点だとはいえないまでも、着丈はちょっと短いかな。それよりも、僕が気になるのはゴージラインですよ。これは高すぎるね」
――ゴージラインとは何ですか。
「ゴージとはのどのこと。上襟と下襟を縫い合わせたラインです。スーツのジャケットの起源は軍服です。その詰め襟をだれかが折ってカジュアルに着て、ジャケットになっていきました。ゴージラインはその名残といえ、襟を立たせるとのどのあたりにくる」
■ゴージラインを見極めろ
「ソフトスーツの時代はゴージラインはすごく下がっていた。その後、ラルフローレンなどが少し高めにしたと記憶しています。最近の着丈の短い上着では、ゴージラインがさらに高くなっています。1センチ違うとジャケットがまったく違った見た目になるので、買うときにはよく見極めた方がいいですよ」
――男性でも女性でもジムで体を鍛えるのが一種のブーム。服をかっこよく着ようと体形に気を配る人が増えています。
「これからは180センチくらいの長身の人もどんどん増えてくるでしょうね。男女ともに体で勝負する時代になり、ぜい肉をつけず、全般に体形が細くなっていると思います。だからなのか、ズボンが細くなりすぎているのも気になります」
「これまでは普通サイズだと思っていた人も意識的に細身のスーツを着たくなっているのではないかな。でも、実は、男性はスーツスタイルに『時代観』をあまり出さない方がいい。右にも左にも行かずに、ルールにのっとった普通サイズに徹する。それが逆に新鮮に映り、すてきなんですよ」
(聞き手は編集委員 松本和佳)
服飾評論家。1935年岡山市生まれ。明治大学文学部中退、桑沢デザイン研究所卒。婦人画報社「メンズクラブ」編集部を経て、60年ヴァンヂャケット入社、主に企画・宣伝部と役員兼務。石津事務所代表として、アパレルブランディングや、衣・食・住に伴う企画ディレクション業務を行う。VAN創業者、石津謙介氏の長男。
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