3つ目は、ゲーム業界が事業者間の激しい競争によって分裂していることだ。IOCのトーマス・バッハ会長は五輪サミット前週の12月1日に東京都内で記者会見したが、そこでも「開発者、販売者、プロモーターなどたくさんの異なるステークホルダーがいて、1つのゲームのなかでさえ競合している。非常に複雑で、だれにアプローチしたらいいのか分からない」と指摘した。

4つ目としては、ゲーム業界が商業主義、つまりもうかるか、もうからないかだけで動いていることを挙げた。IOCに代表される伝統的なスポーツ界は健康促進、平和といった価値を基盤に置いており、その違いは大きいという。

スポーツの「シミュレーション」は推奨

eスポーツと五輪は、ここ数年で急速に接近してきた。筆頭が、アジアの五輪といわれるアジア競技大会だ。今年8~9月のジャカルタ大会でeスポーツが初めて公開競技として実施されたほか、2022年の中国・杭州大会では正式競技になるとされている。本丸の五輪についても、24年のパリ大会で採用されるとの観測がある。

IOCのバッハ会長は、VRとARがeスポーツをどう変えるかを見極める意向を示した(12月1日、東京都内)=共同

だがバッハ会長は12月1日の記者会見で、技術の進歩によりゲームそのものが大きく変わる可能性を指摘した。「(専門家によれば)我々がいま知っているゲームは5年後、あるいはそれより前に消えてなくなる。その一つをいま採用したとしても、24年の若者は『これは何? 私の祖父がプレーしていたゲームじゃないか』と言うかもしれない」

そのうえでバッハ会長は「(リアルのスポーツとeスポーツという)2つの世界を統合させるには、もっと時間と対話が必要」と述べた。今回の声明と合わせて考えれば、eスポーツが記録に残らない公開競技ならともかく、正式競技として五輪に登場するのはかなり先になりそうだ。

一方で声明では、サッカー、自転車など伝統的なスポーツの「シミュレーションゲーム」について高く評価した。それぞれの競技の国際連盟がeスポーツをコントロール下において利用することで、潜在的なメリットを引き出すことを促している。これは従来のIOCの方針から、大きく踏み込んだといえる。

バッハ会長は12月1日の記者会見で、メリットの一例として「(世界最高峰の自転車レースである)ツール・ド・フランスを(仮想空間で)体験したり、(伝統的なリアルスポーツの)選手がトレーニングに使ったりできる」と語った。

すでに国際競技連盟の一つである国際サッカー連盟(FIFA)はサッカーゲームの「FIFA」を用いてeスポーツの国際大会を開いている。日本でもJリーグやプロ野球が若いファン開拓のため、eスポーツを活用し始めた。今回の声明は、リアルスポーツとeスポーツの連携がさらに深まるきっかけになるかもしれない。その延長線上に、五輪採用の道も開けてきそうだ。

(オリパラ編集長 高橋圭介)