有森裕子 私がカンボジアで体育教育を支援する理由

日経Gooday

当時、カンボジアの小学校や中学校を訪ねると、日本の体育とは全くかけ離れた授業を行っていました。3~4種類の徒手体操のような動きを、制服姿のまま延々と30分間ほどやるだけ、先生はロングスカートにスリッパを履いたような格好でただ見ているだけでした。

そもそも当時のカンボジアには、健康のために運動するという考え方や習慣、子どもたちの心身を育成するための体育をする余力がありませんでした。私たちが日本のラジオ体操をやって見せたら、先生も生徒たちもとても驚き、喜んでいたのをよく覚えています。

カンボジアの子どもたちの「健やかな体、豊かな心」を育むために、小・中学校にちゃんとした体育教育を根付かせようと考え、現地に事務所を開き、専門家を派遣しました。

道具がなくても工夫します。左は手作りの平均台。跳び箱は先生たちも初めて(右)。(写真提供:ハート・オブ・ゴールド)

現場では、言語や価値観などが異なる中で何度も話し合いを重ね、一つひとつ前へ進めていきました。まず、教育省のスポーツ総局の組織作りを進め、彼らと共に、体育科学習指導要領・指導書の作成を支援し、現場の先生たちの体育教育も始めました。そして、プロジェクト開始時期から活動していた教育省の担当官6名がナショナルトレーナー(日本の教科調査官に当たる)として選ばれ、日本でも研修を受け、先生達を指導しています。この取り組みを続けるうちに、生徒はもちろん、先生たちも体操着を着て授業に取り組むようになりました。先生たちのモチベーションもアップし、その結果、体育の授業がモデル校を中心に広がっています。

もちろん、前例がない中で最初はうまくいかないこともたくさんありましたし、事業に関わる全ての方々に、この草の根活動を認めてもらいながら前に進めることの難しさを痛感したことは何度もあります。小さなNPO法人ですが、本当によくここまで根気強く続けて来られたなと思います。

そんな長期的視点で進めてきたこのプロジェクトは、スポーツ教育分野において初めて、「JICA草の根技術協力事業」として採択されました。官(JICA)・民(ハート・オブ・ゴールド)・学(筑波大学)の連携で事業を築けたことは、「NPO/NGO団体でもここまでできる」という可能性を示す一つのロールモデルを残せたのではないかと思っています。最近では、IOC(国際オリンピック委員会)も我々の活動に興味を持ってくれるようになり、20年継続してきた甲斐があったと感じています。

先生方の真剣な研修会の様子。(写真提供:ハート・オブ・ゴールド)

次の目標は4年制の体育大学を作ること

私たちの地道な活動と、現地の教育関係者の熱意が実り、カンボジアの教育現場には体育を教えられる先生たちが育ってきて、体育教育も小・中学校に根付いてきました。

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