キリンの「のどごし」 「新!」で一新、20代が好感
今回のリニューアルのポイントは、味をさらに改良し、のどごし史上最高の「キレ」を実現したことだ。リニューアル時のパッケージには「新!」のアイコンを大胆にあしらい、テレビCMも一新。リニューアルの認知についての調査では、認知した人の数が前年のリニューアル時の約2倍という結果が出たという。20代男性の支持も向上し、新たな購買層の開拓にもつながっている。
のどごしは、05年に発売した「第3のビール」(麦芽以外の原料を使ったビール風味のアルコール飲料)。第3のビール市場では、のどごしは後発である。だが、のどごしのヒットに伴い、同市場は活性化。その中でのどごしは発売以来、13年連続シェア1位をキープし、キリンビールの酒類の中でも、最も出荷量が多いブランドとなった。
課題:市場が活況を呈し競合が増加
のどごしの販売量は11年の4776万ケース(1ケース大瓶20本換算)をピークに伸び悩んでいた。17年の販売量は4110万ケース。家庭用のビール市場において、第3のビールが占める割合は約6割と大きい。その分、競合商品も増え、流通大手のPBも台頭してきた。さらに、ここ数年は第3のビールと同価格帯の酎ハイの売れ行きが好調で、競合の一つになっている。「カテゴリー内だけでなくカテゴリー外との競争もあり、のどごしは苦しい状況が続いていた」。キリンビール マーケティング本部 マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当の山岸納ブランドマネージャーはこう話す。
のどごしは発売以来、リニューアルを繰り返し実施しており、今回で10回目となる。改良、強化すべき点は何かについて調査を実施し、ブランドに元気がない理由を探るところから今回のリニューアルは始まった。
検討:景色のようになっていた
のどごしは第3のビール市場をけん引し、「定番」といえる商品となった。そのため、店頭には一定のボリュームで商品が並んでおり、目立っているはずだ。しかし、調査では「のどごしは知っているが、自分には関係のないブランド」といった声が多く、「店頭で景色の一部のように思われ、ユーザーの視界に十分に入っていなかった」と結論付けた。
「ターゲットを絞り過ぎていたことが要因の一つ」と山岸マネージャーは言う。売れ行きが好調だった発売当初のテレビCMでは、明るく元気なブランドであることと、ゴクゴク飲める味を訴求していた。それは、現在もユーザーがのどごしらしさだと感じていることだったという。だが、直近のテレビCMは、40代のお父さんが頑張っている日常を描き、その共感からユーザーを獲得する戦略を採っていた。
「ビールを好きな人でも、父親ではない人には響かなかったのだろう。顧客が最も期待していたのは、味だった。と我々の伝えていることは、ずれてしまっていた」(山岸マネージャー)。そこで、原点に立ち返ることにしたのだ。
実施:「新!」を商品名より大きくデザイン
のどごしのおいしさは、最初はビールとしての味わいがあり、後味はすっきりしていること。その落差がポイントだ。ただ、後味をすっきりさせ過ぎると、ビールとしての味わいが薄れてしまうのだという。これまで1000回を超える試醸を行ってきた経験を基に、今回のリニューアルではのどごし史上最高のキレを実現した。
のどごしは「キリンが太鼓判を押した商品」として発売し、パッケージは印判をモチーフにしたデザインだ。今回、刷新したことが明快に伝わるように、リニューアル時のパッケージには「新!」のアイコンを商品名より大きく配した。さらに、「ゴクゴク 爽快!」というコピーを追加。中央の太鼓判のデザインから聖獣の「麒麟」のマークをはみ出させ、ブランドの勢いを表現した。
また、PB商品との差異化とキリンの自信作であることを伝えるために「KIRIN」のロゴも追加した。テレビCMでは、俳優の桐谷健太を起用し、明るく元気なブランドであることと、おいしさを伝える内容に変更した。
「のどごしは、これまで味を改良し続けてきた。しかし、それに気づいていない消費者も多かった。『パッケージの新!というアイコンが気になって久しぶりに飲んだら、おいしかった』という声も寄せられている。新!というアイコンを商品名よりも大きく使用するアイデアは、明るく元気なブランドだからこそ実現できた」と山岸マネージャーは話す。
(ライター 西山薫)
[日経クロストレンド 2018年11月26日の記事を再構成]
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