
「焼きショコラ~極~」は一見シンプルに見えるが、繊細な作業の積み重ねからできる。オーブンで焼いた薄いチョコレート生地を重ねた菓子で、生地の外側だけカリッとすることなく全体を均一に焼くための工夫を重ねている。新聞紙を敷き水を張った縁付き鉄板の上に生地を流し込んだもう1枚の鉄板を載せ、焼くようにしたのだ。「こうすると、火の当たりが軟らかくなり、外側と内側の食感が均一になる。焼き上がった時にちょうど水がなくなるぐらいに調整しているのですが、これだという焼き具合にするため鉄板に入れる水の量だけでもかなり色々試しました」(朝田さん)。
焼き上がったら2枚の生地を熱いうちに重ね、蓋をして蒸らす。こうすることで互いの熱で2枚がしっかりくっつくのだ。生地は一晩寝かせ、翌日同じベトナムのチョコレートで作ったガナシュ(生クリームと合わせたチョコレート)を薄く塗って、同じ生地を重ねる。それから生地をケーキ1個分サイズに切り分け、チョコレートでコーティングし、仕上げの艶出しチョコレートをかけてクリームをトッピングすれば完成。使用する生地の1枚にはチョコレートチップを入れているので、食感も楽しめる。使用食材はシンプルなのに華やかさのある一品だ。仕事の合間に試作を重ね約2カ月かけて完成したそうだ。
「焼きショコラ~極~」からは思わぬ「派生商品」も生まれた。
この菓子を作る際は、サイズの関係から生地の端がどうしても少し余る。そこで、これを生かした菓子を作ろうと別のチョコレート菓子を考案。ベトナムのチョコレートで作ったムースとチョコレートクリームを組み合わせた「トロワ ガーデナー」(ガーデナーはベトナムのチョコレートの製品名)が誕生したのだ。
焼きチョコレートとふんわりとしたムース、コクのあるチョコレートクリームの三重奏は、「極」とは別の楽しさを持つお菓子だ。「もともとは余りもので作っていたお菓子ですが、今ではこれを作るために生地を焼かなくちゃいけなくなっています」と朝田さんは笑う。
「僕がやりたいのは駄菓子屋なんです。子どもの頃、30円とか50円とかを手に握りしめておばあちゃんがやっているお店に行き、『何を買おう』とワクワクしながら選ぶのがすごく楽しかった。だから、『あそこに行ったら何かワクワクするものがあるよね』とお客様に思ってもらえる店にしたい。だから、ケーキもどんどん変わるんです」。「焼きショコラ~極~」から、「トロワ ガーデナー」が生まれたように、これからも客を心から楽しませるチョコレート菓子が誕生するに違いない。

(フリーライター メレンダ千春)