コミュニケーションが苦手です
著述家、湯山玲子さん
人とコミュニケーションを取るのが苦手になってしまいました。大学時代の友人と会うのが億劫(おっくう)になり、職場では後輩を指導すると考えただけで憂鬱になります。いつも笑顔でいたいのに、憂鬱さからぶすっとした表情になってしまいます。(大阪府・女性・30代)
◇
「人と会って話してもつまんないし……」とこれが、コミュニケーションが億劫になることの真相です。ではなぜ、人と会って話すことがつまらなくなってしまったのか? 相談者さんは30代、いつまでも子ども気分が抜けない今の時代、やっと大人の入り口に立ったような時期だと思います。そうすると、それぞれが別の道を歩み出し、周囲で起こることがみんな一緒ではなくなっていきます。大学時代の友人と会うことが億劫になっているのも、共通の話題が無くなり、自分と相手を比較してモヤモヤすることが嫌なのだろうな、とも想像できます。
加えて、大人と子どもではコミュニケーションの質も違う。大人のそれは、「あるある。分かるよねー」で大笑いするクラスメートや同期会集団の狂騒のようなノリではなく、違うバックグラウンド、違うセンスの人間同士が、時間もコストもかけて、極端に言えば敵か味方かを判断するような、ある意味「面倒くさい」ものになっていくのが必然なのです。
「愛し愛されて生きるのさ」とは、オザケンこと小沢健二の歌のタイトルですが、人間関係の理想とはまさにコレ。こういう関係づくりには努力がいるのですが、同じ年齢の人間が同じ場にいて、同じような体験をすれば、おのずと仲間が出来、苦労も無くそれが手に入っていたのが日本の文化風土。しかし、ラクな分だけ退化してしまうのが、本当の意味でのコミュニケーションスキル。つまり、他人の「愛」を受け取るために自分自身を伝える言葉と、そもそも「生きのびていくのだったら、気が合う、尊敬できるいい人たちと支え合って生きていきたい」という意思こそが、他人との関係づくりに必要なのです。
コミュニケーションが苦手だという相談者さん。そこからはじめるのも悪くはないなあ。なぜならば、コミュニケーションというものは本来違う人間同士の「すり合わせ」であり、そもそも楽しいものではない。たとえば、テレビの連ドラ「おっさんずラブ」についての自分の感想が相手のツボに入り、熱気となって帰ってきた時、のように、自分の言葉が相手の心に届き、答えが帰ってくることの嬉(うれ)しさ、のような貯金を少しずつ殖やしていくしかないのです。
[NIKKEIプラス1 2018年12月8日付]
NIKKEIプラス1の「なやみのとびら」は毎週木曜日に掲載します。これまでの記事は、こちらからご覧ください。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。