湯けむり照らす灯りでそぞろ歩き 冬の温泉街10選
風情ある街並みは、寒さが増すほど幻想的だ。
夜のそぞろ歩きにおすすめな温泉街を、11人の専門家が選んだ。
お湯とセット 散策の楽しみ
温泉が恋しい季節。湯につかり、美食に舌鼓を打ち、部屋でのんびりするのもいいが、それだけではもったいない。温泉街の散策、特に夜のそぞろ歩きがおすすめだ。各地の温泉街は魅力アップに努めている。2位の草津温泉は1月の本白根山噴火や、草津白根山の火山活動の高まりに伴う観光ルートの通行止めで足元の観光客は減っているが、ここ数年「ライトアップによって若い人がより多く訪れるようになった感じがする」(観光協会)。
光を使うイベントは各地で四季折々、実施されている。例えば、春は赤湯温泉(山形県)、伊東温泉(静岡県)などで桜をライトアップ。夏は箱根湯本(神奈川県)や皆生温泉(鳥取県)で灯籠のイベント、秋は伊香保温泉(群馬県)、下呂温泉(岐阜県)などで紅葉をライトアップしている。
東京など都会の繁華街では深夜まで光があふれている。トラベルニュース編集長の富本一幸さんは「街中の明かりに食傷気味な人にはぜひ温泉地で、お湯とのセットで夜の散策を楽しんでもらいたい」と話している。
(山形県尾花沢市) 730ポイント
雪景色、まるで映画の舞台
銀山川の両岸に築90年前後の、洋風多層木造建築が立ち並ぶ大正ロマンあふれる温泉街。江戸時代には銀の産地として栄えた。夜になると旅館の窓の明かりと川沿いのガス灯がともり、温泉街を優しく照らす。
昼間よりも夜が格段に美しくなる温泉街と、多くの専門家が推した。「銀山の宿が持つたたずまいの静謐(せいひつ)さ。雪景色の夜は、とりわけ静かで落ちついた気持ちに包まれる」(二之宮隆さん)
雪の中を散策すれば、美しさが際立つ。「雪見の名所としての近年のブレークは、世界の認識がようやく追いついたといえる」(藤田聡さん)。「雪景色が日本一似合う温泉街。冬の夜は、そのまま映画の舞台になりそうな風情」(西村りえさん)。浴衣の上に外衣を着込んで体を温かくして歩くと、タイムスリップした気分に。「一生の思い出になる」(山田祐子さん)に違いない。
(1)通年(雪景色のおすすめは1~2月)(2)JR大石田駅からバス約35分(3)0237・28・3933(銀山温泉観光案内所)
(群馬県草津市) 620ポイント
冷えた夜に立ちのぼる湯けむり
1日にドラム缶約23万本分の湯量を誇る日本三名泉の1つ、草津温泉。温泉街の中心の「湯畑」が、夜になるとライトアップされる。「時々紫色に変化する湯畑の美しさはずっと眺めていたくなるほどロマンチック。寒くなったら湯畑の横の足湯に入ればポカポカ」(石井宏子さん)
冬の冷えた夜に立ちのぼる湯けむりと硫黄泉のにおいが旅情をそそる。1月中旬までツリーの点灯も実施され、「ライトアップされた湯畑は、写真映えすること間違いなし」(山田さん)。
湯畑を中心に飲食店や土産屋などが立ち並び、日が暮れても大勢の人が行き来する。地域の人たちが使う19の共同浴場のうち、地蔵の湯と千代の湯、白旗の湯の3つは観光客も利用できる。「老若男女が楽しめる元祖温泉のテーマパーク。素泊まりでもいいのが草津流」(佐久間直子さん)
(1)通年(2)JR長野原草津口駅からバス約25分(3)0279・88・0800(草津温泉観光協会)
(兵庫県豊岡市) 560ポイント
柳並木をゲタ鳴らし外湯巡り
開湯1300年の歴史を持つ関西有数の名湯地。洞窟風呂「一の湯」や展望露天「さとの湯」など趣の異なる7つの共同浴場のほか、足湯や飲泉場も点在する。「雪の積もる温泉街を浴衣姿でゲタを鳴らしながら巡るのが城崎の冬の風物詩」(大川哲次さん)。ライトアップされた柳並木を眺めながら外湯巡りが楽しめる。
好みの浴衣が選べ、外湯の無料入浴券を配布する宿も多い。射的屋で遊ぶのも良し、名物「かに棒」をほお張るのも良し。「古くからの街並みは散策のしがいがある」(松本百加里さん)。「夜に出かけたくなる温泉街。ゲタ履き、浴衣姿が日本一多い温泉街では」(西村さん)
(1)通年(2)JR城崎温泉駅からすぐ(温泉街を走るバス便もある)(3)0796・32・3663(城崎温泉観光協会)
(大分県別府市) 390ポイント
地球の力 感じる景色
別府温泉郷の八湯の中で最も多くの湯けむりが立ちのぼり、街のあちこちから白い湯気が上がる。夜はシューシューと音を立てるこの湯気を、緑や紫など色鮮やかにライトアップ。「昼も見ごたえはあるが、夜は幻想的を越えて恐怖感すら覚える。地底でうごめくエネルギーのすごさを感じる」(二之宮さん)。「湯けむりが冬の夜空に映え、地球の力を感じる景色」(松田法子さん)
夜の街を散策すれば「ヤング劇場での大衆演劇など楽しみが盛りだくさん」(大川さん)。
(1)土日祝日。2019年3月は毎日実施(2)JR別府駅から車で約10分(3)0977・22・0401(別府市旅館ホテル組合連合会)
(北海道鹿追町) 370ポイント
アイスロッジから漏れる明かり
完全に凍った湖の上に約2カ月間設営される雪と氷の村「コタン」。氷のブロックを積み上げ、宿泊できるアイスロッジや氷のグラスで楽しむバーなどがある。夜はロッジから漏れる明かりが「SNS映えすると注目度も高い」(松本さん)。湖畔の宿からも歩いて行ける。
氷結湖の上に湖畔の源泉からくみあげ、パイプで湯を流す露天風呂(無料)がある。「湯につかっていても油断すると髪の毛が凍る寒さ」(杉本圭さん)だが、「源泉かけ流しで実現しているのが素晴らしい」(藤田さん)。
(1)19年1月26日~3月21日(2)JR帯広駅からバスで約1時間40分(3)0156・69・8181(然別湖ネイチャーセンター)
(熊本県南小国町) 350ポイント
川沿いに広がる竹ランタン
阿蘇の奥にある人気の温泉街。「湯あかり」は地元の竹を使い、まりや筒の形をした大小の灯籠を川の上につるすイベント。2012年から続いており、「川沿いに広がる温泉街の明かりと竹ランタンは、ぜひ写真に撮りたいベスト風景」(石井さん)。
「温泉街が一つの宿で道路が廊下、各宿が客室といえるほど雰囲気作りに統一感がある。昔ながらの里山の雰囲気で、コンパクトにまとまっているのがよい」(西村さん)。木を輪切りにした入浴手形を購入し、冬の夜の街を散策したい。
(1)12月22日~19年3月末(2)熊本空港から車で約1時間30分(3)0967・44・0076(黒川温泉観光旅館協同組合)
(栃木県日光市) 330ポイント
空から山里眺めるよう
壇ノ浦で敗れた平家落人が見つけ、傷を癒やしたと伝えられる温泉。毎年1月下旬から「かまくら祭」を開催。複数ある会場のうち、河川敷では数百のミニかまくらに、夕方になるとろうそくの灯をともす。日本夜景遺産に認定された景色は「空から山里を眺めるようで、いにしえのロマンを感じる」(石井さん)。
「地元民が力を合わせて手作りしたかまくらに心も和む。小さな温泉場ならではの光景」(山田さん)だ。
(1)19年1月26日~3月3日(水・木曜日除く)(2)野岩鉄道・湯西川温泉駅からバス約30分(3)0288・22・1525(日光市観光協会)
(長野県山ノ内町) 300ポイント
職人技尽くした建築堪能
古い木造旅館が立ち並ぶノスタルジックな温泉街。昭和初期に職人技を尽くし様々な建築様式を取り入れた老舗旅館「金具屋」の明かりを見ながら、夜は石畳の道のそぞろ歩きが楽しめる。「カラコロとゲタを鳴らす石畳の気軽さがいい。(宿泊客は)9つの外湯巡りの楽しみも一緒についてくるからたまらない」(二之宮さん)。「夕暮れどきは美しく、冬は熱めの外湯巡りに適している」(杉本さん)
昼に地獄谷野猿公苑を訪れると、露天風呂につかる猿も見学でき、「子供も喜ぶので家族連れにもおすすめ」(松本さん)だ。
(1)通年(2)長野電鉄・湯田中駅からバス約10分(3)0269・33・2921(渋温泉旅館組合)
(岐阜県高山市) 280ポイント
雑音ない空間に神秘的な氷柱
奥飛騨にある11軒のこぢんまりした温泉街。崖に伝い落ちる水が徐々に凍り氷柱になる現象を「青だる」と呼び、温泉街でも沢の水を木々に吹きかけて再現。青白く光るこの青だるを夜間はライトアップしている。「青だるの神秘的なブルーは引き込まれるような魅力がある」(佐久間さん)
「しんしんと降り積もる雪の中、雑音が遮断されて独特な雰囲気。寒い冬だからこそ味わえるぜいたくな温泉体験」(富本一幸さん)ができる。
(1)12月下旬~19年3月下旬(2)JR高山駅からバス約1時間(3)0578・89・2614(奥飛騨温泉郷観光協会)
(静岡県熱海市) 260ポイント
ビーチに寄せる青く光る波
1200年以上の歴史があり、尾崎紅葉の小説「金色夜叉」の舞台としても知られる温泉街。サンビーチでは照明デザイナー、石井幹子氏が手掛けた浜辺のライトアップを毎晩実施。「寄せる波が青く光る様子は見飽きない美しさ。海岸のヤシノキがブルーに照らされているのも異国情緒がある」(西村さん)。12月9、16日は花火大会の実施を予定している。
昭和の面影が残る熱海銀座商店街を夜歩きして「おしゃれなバーやカフェをのぞいてみるのも楽しい」(石井さん)。
(1)通年(2)JR熱海駅から徒歩約20分(3)0557・85・2222(熱海市観光協会)
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ランキングの見方 数字は評価を点数化。名称(所在地)。(1)ライトアップの開催時期(2)行き方(3)問い合わせ先。写真は1位~3位尾城徹雄、4位別府市旅館ホテル組合連合会、5位然別湖ネイチャーセンター、6位黒川温泉観光旅館協同組合、7位日光市観光協会、8位渋温泉旅館組合、9位奥飛騨温泉郷観光協会、10位熱海市観光協会提供。
調査の方法 冬季のライトアップや街明かりがきれいな全国の温泉街について、専門家への取材を基に30カ所をリストアップ。「風情がある」「写真に撮りたい」「この時期ならではの楽しみ方ができる」などの観点から、おすすめ順に1~10位まで順位をつけてもらい、結果を編集部で集計した。
今週の専門家 ▽石井宏子(旅行作家・温泉ビューティ研究家)▽大川哲次(弁護士、温泉学会副会長)▽佐久間直子(クラブツーリズム)▽杉本圭(温泉写真家)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽西村りえ(温泉ライター)▽二之宮隆(「温泉批評」編集長)▽藤田聡(温泉ガイド)▽松田法子(京都府立大学生命環境学部准教授)▽松本百加里(じゃらんリサーチセンター研究員)▽山田祐子(井門観光研究所代表取締役)=敬称略、五十音順
[NIKKEIプラス1 2018年12月8日付]
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