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旅・風景

マイナス40℃のシベリアの町 白色の世界の日常

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/12/19

ナショナルジオグラフィック日本版

シベリア・ヤクーツクの街角にたたずむ人影。写真家のスティーブ・イウンカー氏は、マイナス40℃の世界ではカメラが凍り付き、フィルムが損傷する危険があるため、一度に15分しか撮影できなかったと語る(STEEVE IUNCKER, AGENCE VU/REDUX)

1年の3カ月以上、気温マイナス40℃前後の日が続くシベリア東部のヤクーツク。文字通りの世界一寒い町の一つだ。28万人が暮らす極寒の地の日常生活を、二眼レフカメラで写した写真はどこか幻想的ですらある。

◇  ◇  ◇

地球上には、ヤクーツクよりもさらに寒い地域はもちろんある。例えば、ヤクーツクから東へ約900キロ離れた人口500人の集落オイミャコンは、近年の寒波でマイナス67℃を記録したし、南極の冬の平均気温もマイナス60℃だ。

だが、そのいずれもヤクーツクのように町としての機能を備えてはいない。ヤクーツクの人口は28万人余り。地面は永久凍土で、ほとんどの建物は高床式になっている。そうでない建物は、暖房の熱のおかげで建物の下の永久凍土が解け、少しずつ沈下している。

寒さは厳しいが、ヤクーツクの魅力は地下に眠る豊富な天然資源だ。この地方で採れるダイヤモンドの量は、世界の生産量の約5分の1を占め、他にも天然ガス、原油、金、銀、その他需要の高い鉱物が産出する。

12月から2月までの平均気温がマイナス4℃というスイスアルプスで育ったスティーブ・イウンカー氏は、ヤクーツクの厳寒が人間の体や心、社会生活にどのような影響を与えるのか、実際に自分の目で見てみたいと思い、2013年、現地へ飛んだ。到着すると、空港で出迎えてくれた滞在先の家の娘がイウンカー氏の頭からつま先まで目を走らせ、矢継ぎ早に質問した。「帽子は?」「あります」「手袋は?」「あります」「マフラーは?」「あります」「ブーツは?」「あります」

この野外市場では、冷凍庫は必要ない。魚は、まるで切り花のように店頭に並べられている(STEEVE IUNCKER, AGENCE VU/REDUX)

「ただ外に出てタクシーを拾うだけなのに、そこまでしなければならないなどと、誰が考えるでしょうか」と、イウンカー氏は当時を振り返って語った。ヤクーツクでは、外に出るときはいつでも入念な準備が必要だ。不必要な回り道も、散歩も、ウィンドーショッピングもできない。「ここでは、全てが寒さに支配されています。というよりも、自分の体が寒さにどう反応するかで、自分の行動が決まります」

例えば、イウンカー氏は地元の人々が近所の家を頻繁に訪れていることに気づいた。ただし、滞在時間はほんの数分程度。「家に入ると、上着だけを脱いで熱いお茶を飲み、ジャムを塗ったトーストをいただくと、また上着を着て外へ出て行きます。近所の家は、旅の途中の休憩所のような役割を果たしているようです」

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