フランス・パリを拠点に活動する気鋭の若手建築家、田根剛氏。2006年、26歳でエストニア国立博物館(16年完成)の国際コンペに優勝、12年の新国立競技場のコンペで「古墳スタジアム」が最終選考に残るなど、国内外で注目される。13年から世界最大級の時計見本市「バーゼルワールド」を舞台に、シチズン時計とのコラボレーションによるインスタレーションを手がける田根氏に、建築とインスタレーションについて聞いた。
――シチズンとのコラボの経緯を教えてください。
「13年のバーゼルワールドで、シチズンが新しいスタイルの展示ブースを設けることになり、声をかけていただきました。バーゼルの展示ブースは基本的に箱型のパビリオンで外部に閉じているのですが、シチズンはオープンなステージのようなスペースを設けて、そこでインスタレーションのような表現を通して、世界観を伝えたいと考えていました」
■時間は光、光は時間
「建築家として『時間』は重要なテーマなのですが、十分に考えつくせていなかったことから、この機会に調べつくそうと考えました。人類史、宇宙、民族、人の認識、物理や科学を含めて、ありとあらゆる時間に関することを調べました。その結果、たどり着いたのが『時間はそもそも光であり、光は時間ではないか』との考えです」
「同時に『ものづくりの精神を伝える』という点では、工場を訪問した際に目にした『地板』という部品に着目しました。駆動装置(ムーブメント)の基礎となる板状の部品で、蓄積された技術の象徴という意味でベストだと考えました。時計の内部にある地板は光が当たることはありませんが、そこに光を当てることによって『時間の誕生』を表現できないかと考えたのです」
――「光は時間である」とはどのような意味ですか。
「例えば、太陽が昇るに従って自分の影が変化することに気づく。こうしたことから、時間についての認識が生まれたと思うのです。古代メソポタミア文明は日時計をすでに発明し、エジプト文明となると時間を分割し始めます。そもそも光がなかったら時間は計れませんでした。シチズンには独自の光発電技術『エコ・ドライブ』があります。かなり本質的なテーマになると思い、そうしたことを表現しようと考えました」
■「時間とは何か」を考え続ける
――バーゼルでのシチズンとのコラボレーションは計6回を数えます。
「毎回、プロジェクトが終わるごとに次のプロジェクトのテーマを考えています。場あたりではなくて(笑)、毎回乗り切ったからこそ、時間のストーリーが見えてくるんです。『時間とは何だろう』ということを常に考え続けていますね」
「スイス時計は機械式の伝統を守り、ものづくりに専念してきました。ただその結果、高級品となりました。そうした限られた人が喜びを得るための時計ではなく、シチズンはその名のとおり、多くの『市民のため』に、新しい技術が生まれると、その技術を使って、時間を計る装置に変えてきました。そうした時間と時計づくりに対する考え方が、幸い僕らの方向性とすごく近く、並走してきたという感じです」