老後資産は定率で引き出す 75歳以降は定額もあり

日経マネー

定率引き出しの利点と難点

しかしどんなに工夫しても、定額引き出しでは元本が想定以上に毀損し、場合によっては途中で枯渇してしまう可能性があります。これが2つ目のリスクである「収益率配列のリスク」です。投資の早い段階でマイナスの収益率が多くなると、仮にその後の収益率が改善しても、初めのうちの元本毀損が尾を引いてしまうため十分に資産が回復しないのです。

イラスト:小迎裕美子

これを回避する方法が「定率引き出し」です。引き出しを運用資産の残高に対する一定「率」で設定するわけです。仮に想定する運用期間全体の収益率が達成できたなら、その間の毎年の収益率がばらついていても、定率引き出しを行っている限りは元本が想定以上に毀損する心配はありません。

ただ、このやり方では毎年の引き出し額が資産の運用残高に連動するため、運用成績の変動がそのまま生活費に直結します。これを回避するには、リスクを抑えた運用をすることが重要です。定率引き出しでは、運用リスクを抑制することが、引き出し額の変動を抑えることにつながるのです。それでも引き出し額の変動はある程度受け入れなければならないことには注意が必要です。

定率引き出しの様々な方法

長く「定率引出」を続けると、元本が小さくなるにつれて引出額そのものが小さくなる問題も生じます。例えば4%の引き出しでは、元本が3000万円の時は年間120万円の引き出し額ですが、2000万円になれば80万円になります。これを避けるために徐々に引出率を高めるようにあらかじめ決めておく方法もあります。例えば60歳の時の3.5%から少しずつ引き上げて85歳では5.0%にするといったものです。

60歳で保有資産3000万円、引出率3.5%なら引き出し額は105万円です。85歳で資産2000万円、引出率5.0%なら100万円の引出額になります。元本が減っていくのを前提にした場合でも、引き出し額は総じて安定的になります。これを私は「“予”定率引き出し」と呼んでいます。

出所:IRA Required Minimum Distribution Worksheet

余命を基に計算する方法もあります。これは米国で導入されている401k(確定拠出年金)などの強制引き出しルールに適用されている方法です。このルールでは70.5歳を迎える年度から、余命を使って引き出し額を計算します。例えば70歳の計算上の余命は27.4歳なので、1をこの年齢で割って計算される3.65%が引出率になるわけです。

こうして紹介するだけでもかなりの方法があることが分かります。しかもこれらの中から1つを選ぶというわけではありません。それぞれに一長一短があるため、組み合わせることが重要です。長生きリスクを考え、75歳までは定率引き出しで不安定さを甘受し、それ以降は定額引き出しで資産を計画通りに確保するというやり方も十分考えられます。

野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信入社、07年から現職。アンケート結果を基にした資産形成に関する著書や講演多数。

日経マネー2019年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2019年 1月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 750円 (税込み)


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