株式相場の波乱が続いています。こんな中、退職金から3000万円を投資に振り向けていたとしたらどんな気持ちでしょうか。夜も眠れないというのは大げさにしても、かなり気になるでしょう。
それでは積み立て投資で、現在3000万円の資産を作った人はどうでしょう。退職金を一括投資した人でも、積み立て投資をしてきた人でも、「このままでは大損してしまう」という気持ちは同じはずです。これは多くの場合、知らず知らずに資産を一括で売却することを念頭に置いているからです。
時間をかけて売却するならどうでしょう。短期間に相場が下落しても、売却するのは一部の生活費に必要な分だけです。残りはまだ運用を続けているので、相場回復の恩恵にあずかることができるでしょう。
「積み立て」が投資を行う「時間の分散」とすれば、売却にも時間をかけて行う方法があります。これが資産の「引き出し」です。これを「資産活用」と呼んでもいいでしょう。時間をかけて投資から撤退する「出口戦略」とも言えます。
引き出しが資産準備の鍵
残念ながら、金融機関は「いかに資産を増やすか」に集中してきた結果、日本ではあまり引き出し方の議論を聞きません。個人金融資産の3分の2を60歳以上が占めている現在、その資産をどう現金化するかは非常に大事な問題です。高齢者の資産寿命を延ばすための重要な鍵とも言えます。
そこで多様な引き出し方法をその利点と欠点を合わせて紹介します。大きく分けると、定額引き出しと定率引き出しがあります。
まず、定額引き出しです。例えば「年金以外に毎月10万円欲しい」といったように、生活の必要性から引き出し額を想定するのが一般的なやり方です。ここには、引き出し額に上限を決めることで無駄遣いを抑制する効果があります。
一方、定額引き出しには2つの問題があります。まず予想以上に長生きした場合に、資産が途中で枯渇することになる「長生きリスク」です。例えば、2000万円の資産を年100万円ずつ引き出せば、20年以上長生きすると資産が足りなくなります。そこで、このリスクを回避するために、元本を運用することで資産を少しでも長くもたせることが必要になります。

しかし、運用しながら引き出すのはかなり難しいものです。そこで引き出す金額を算出する方法として、引き出したい金額を基に計算するのではなく、余命などの年数と運用収益を参考にして途中で枯渇しないような引き出し額を推計する方法もあります。「持続可能な引出率」と呼ばれるものです。
例えば「4%」といった「率」で表示し、引き出し開始時の資産にこれを乗じて金額を決めます。その金額が、その後ずっと引き出し額として固定されます(インフレは考慮)。この方法のポイントは、引出額は定額ですが、途中で枯渇しない引出率を過去の資産クラスの収益率を使って、数千回といった膨大なシミュレーションを繰り返して算出することです。その結果、例えば90%の確率で枯渇しない「引出率」といった数値を算出することもできます。